お父様は魅入る
ユーリア君の掛け声と共に、2人が動き出す。
木剣と木剣が重なり合った瞬間、乾いた音と共にお互いの手に持つ木剣が弾け飛ぶ。
2人の膂力に木剣が耐えきれなかったのだ。
そんな事は当然分かっていた2人はパラパラと木片が舞い散る中、そのまま殴り合う。
最初から赤眼状態。
その動きは常人の目で捉えきれないレベルだ。
周りを見ると、学園生や南部貴族達は目を見開いたまま固まっているし、赤眼に慣れている北部貴族はその目を鋭くして見入っている。
ふふん。どうだ、ウチの子達は。
『ラッシュ!ラッシュ!ラーッシュっ!!
目にも止まらぬ速さで繰り出される剛腕!!
まるで金属扉を破城槌で打ちつけるかのような轟音がリング上で鳴り響いております!!』
ちゃっかりリング外に退避したユーリア君が、実況席と書かれた札が置いてある席にいた。
『いかかでしょうか!?解説のワイズマン学長!』
……ん?
『素晴らしいの一言ですな。 あの2人が扱っているのはフィンスター公爵が考案した軍事身体強化魔法―――、『赤眼』の名前で知られる秘匿魔法です。まぁ秘匿と言ってもその存在は各貴族家には伝わっております。大戦の主戦場であった北部貴族は一通り、南部貴族でも申請すれば習得方法は開示されるレベルです。』
あ、あれ? いつの間に……!?
さっきまで近くにいたワイズマン学長がユーリア君の隣、解説席と書かれたリングサイドの席に座っていた。
『しかし、その習得難易度はA級。魔力操作に対する高度なセンスがないと習得困難な魔法と言えます。その点を鑑みれば、あの2人は既に上位騎士達と比べても遜色のないレベルに達していると言えるのう。ほっほっ。実に頼もしい!』
狸爺の解説の後すぐ、お互いに殴って蹴っては防ぎを繰り返す攻防に変化が見られた。
「おぉおおっ!『燃えろっ!オレ!』!」
アラン君の右腕が白い炎に包まれる。
先日の1件からアラン君は自分の魔力属性運用のコツを掴んだらしく、光属性が混じった炎、白炎を操れる様になった。
「ちっ! 『黒雷纏帯』!」
慌ててレオナルドも闇属性混じりの雷を左手に纏う―――が、駄目だな。
親ではなく、戦争帰りの冷酷な戦士としての私が判断を下す。
あの2人を比べた時、確かに技術面ではレオナルドが上だが、単純な力比べになると魔力量が多いアラン君に分がある。
白炎と黒雷の拮抗は一瞬。
徐々にアラン君の白炎が押し勝って来る。
こうなるとレオナルドに勝ち目はない。
「―――今だっ!!『もっと燃えろっ!!』、『燃え尽きろっ!!』」
野生の勘と言えば良いのか、絶妙なタイミングでアラン君が連続で魔法を放ち白炎がまるで爆発したかのように膨れ上がる。
アラン君の雄叫びに呼応する様に勢いを増した白炎が黒雷を呑み込み、レオナルドを襲う。
ああなってしまってはもう無理だ。
アラン君の魔法は魔力量が高いせいか高威力。
それを最初の付与魔法と併せ、3種の魔法の重ねがけだ。
あれは下手な大魔法すら凌ぐだろう。
まぁ少し残念な結果だったが、これはこれで当初の目的は―――。
「『月狂黒雷』!」
アラン君の白炎の拳がレオナルドに突き刺さる瞬間、力ある言葉が響き、極太の黒雷が天井を突き抜けて2人を目掛けリングに降り注ぐ。
じ、自爆攻撃!?
競技場の天井を突き抜けた黒雷は石造りのリングを砕き荒れ狂う。
雷が収まった後には、焼け焦げた競技場の天井とリングが山のように積み重なっていた。
お、おい。2人は―――!
ドカンと瓦礫の山が吹き飛び、レオナルドとアラン君が飛び出てくる。
良かった……。無事みたいだ。
2人ともちゃんと結界を貼っていたのだろう。
「お父様ならお前だけを正確に撃ち抜くんだろうが……。やはり俺の腕だとまとめて吹っ飛ばすくらいしか出来ないな。」
首をコキリと鳴らし、何でもない事のように言い放つレオナルド。
私? あぁ、確かにこの前レオナルドが私の結界を切り裂いた時に同じ様な事をしたな。
「あぁ、あの時か。確か御館様を切りつけようとしたら剣の先を撃ち抜かれてたな……。」
こちらも無事だったようで、腕をぐるぐると回し体の調子を確かめながらアラン君が返す。
2人とも問題ない様子だ。
まるでこの程度、挨拶代わりだと言わんばかりの態度である。
『―――ぶ、無事です! 何と!何と言う攻防でしょう!!あまりにも苛烈!あまりにも強烈!あぁ!レオナルド様っ!!』
『……先程、儂は彼等を上位騎士に比肩すると言ったが訂正しよう。―――あれはもうそんなレベルではない。彼等は既に英雄達の領域にいる……!!』
うぉおおおおと叫ぶ観客達。
その目には平民に対する侮りなどは一切ない。
ただ純粋に強い者に対する敬意が溢れていた。
うん。やっぱりウチの国は基本的に脳筋ばかりだからこう言うのが効果的だよな。
「オイオイ! やっべぇな! お前のガキ達!
あれでまだ15歳だろ!?アイツらが成人する頃には俺達何かロートル扱いされちまうぜ!」
今の2人の攻防を見てテンションが一気に上がったのだろう。
かなり砕けた口調……と言うより、素の口調で脳筋達の王様が私をバシバシと叩いてくる。
……力が強いんだよ!バカ兄めっ!
「―――で? あの英雄候補の2人の師匠としてはどう見る?」
油断ならない強者の目線で問い掛けてくる。
素の話し方は馬鹿っぽいが、コイツも私と同じくあの大戦を生き抜いた猛者なのだ。
「才能は認めている。勿論、努力もな。
しかし、圧倒的に経験不足だ。」
試合が始まって未だ数分。
赤眼を抜きにしても、レオナルドが魔法2発、アラン君が3発。
あの2人からするとまだまだ序の口と言える魔力消費量なのだが……。
余裕そうな顔はしているが、明らかに2人ともいつもより消耗してる。
こうして遠目から見ているとよく分かる。
赤眼の魔力循環のバランスもぎこちないし、先程の魔法も無駄に力が入っていた。
「はぁん? つまり、過度の緊張感や気負い過ぎで本来のスペックを活かしきれてないって事か? まだ15歳なんだからそんなもんだろ。」
お師匠様は厳しいねぇと茶化すキング。
まぁ普通ならそうなるんだろうが、そうも言っていられない実情がある。
オディマや魔王、原作ゲームでお馴染みのラブリーでもチャーミーでもない敵役の存在だ。
この36年間の私のやらかしにより、見る影もないくらいに原作崩壊をしているようだが、依然として奴等は存在している。
実際は私の杞憂に終わったが、王国内の間者ポジションであったであろうユーリア君も存在していたのだ。
運命的な理由で、奴等との戦いの矢面に立たざるを得ないアラン君。
あの2人の関係性を鑑みるに、そこにレオナルドも参加する事になるだろう。
「これからも私の目の届く範囲にいるのなら、ゆっくりと成長して行けばいいだろう。
……しかし、時勢がそれを許すとは限らないし、あの2人がそれを望むとも限らんだろう。」
これが親離れ、いや、子離れと言うのだろか?
あの夜、もう私にとっての正解があの子の正解ではなくなったと私は気付かされたのだ。
人生において何が正解かなんて明確ではない事柄の方が多い。
そんな中自分の考えや気持ち、そんなあやふやな指針を信じて物事を決めなければならない。
レオナルドは1人の人間として、もうそれが出来るのだ。
なら、私が出来る事などそう多くはない。
「これからあの子がするであろう後悔を、出来るだけ少なく済むだけの力を持たせてやる。
それが親として私が出来ることだろう?」
「ふむ。あのロベルトが父親になったという事か……。」
「……つい最近だがな。」
なんせ子は親がなくとも育つ様だが、親は子がいないと親になれない。
あの子ともう少しちゃんと関わっていたら……
そんな後悔を人知れず私は呑み込んだ。




