お父様は入学式に参加する
それは4月のある晴れた日。
王都の東部。
学術区画の中心部にある王立学園。
その年の王立学園入学式は異例の緊張感を持って行われていた。
例年とは比べ物にならない厳重な警備体制。
あの降魔大戦帰りの近衛騎士団や公爵家第3騎士団が主導した実戦どころか戦争を想定した物々しい警備が敷かれている。
それもこれも、公爵家が直々に音頭をとった公爵家子息と平民の決闘を見るため、想定以上の人数が詰め掛けたせいだ。
……いや、こう言うとまるで私が悪いみたいな印象を受けるがそうではない。
確かに私も今回の決闘を宣伝はした。
さりげなくウチの派閥で話題に出したし、南部貴族達との会合でもそんな話をした。
しかし、まさか国中の貴族関係者が詰め掛けるとは想定外である。
そして、その原因は私以外にある。
「うーむ。狭いな。伝統的な競技場と言えば聞こえは良いが、所詮は学園の1施設。流石にこの人数を収容すると狭苦しいな。」
昔はもっと大きいと思ってたんだけどなぁ何て呑気な事を言いながらポップコーンを頬張る不肖の従兄弟。
我等がキングである。
「こうなった原因が何を言う。お前が来るとか言い出したから色んな忖度が働いてこうなったんだぞ?」
何せ貴族世界は日本の村社会とか比べ物にならないくらいの同調圧力世界だ。
王が行くならと可哀想な側近達が動き、それに伴って色んな人達が動いた結果がこれである。
「いやいや、多少影響はあるだろうが、原因はお前だろう。ロナルド。あれだけ色んな会合で諸貴族を煽っていたんだから……。」
ふぅ。我が身内ながら情けない。
図星を刺されたからと言って人に責任転嫁し出しやがった……。
「そんな事はした覚えがない。多少ウチの息子と食客の子の事を簡単に話した程度だ。」
「私の記憶が確かなら、北部の重鎮達にレオナルドの爪の垢でも煎じて飲んだらどうだ?とか南部貴族連中に私の所で雇っている平民の子以下の実力しかない、とか言ってたよな?」
「―――正当な評価だろ?」
むしろかなりオブラートに包んでいる。
何せ南部の連中なんか赤眼すら使えないんだぞ?
それでよく国を護っているなんて偉そうに言えるものである。
「ほっほっほっ。儂から言わせれば、お二人のせい……、いやいや、お二人のお陰と言う訳ですな。」
好々爺の様な口振りで長い髭を蓄えたローブ姿の老人が笑う。
この学園の学長であるワイズマン学長である。
学園モノのファンタジー作品には高確率で存在する茶目っ気のある白髭を蓄えた爺さんで、相応の実力派。
ゲームでは型破りな行動をする主人公達を裏からこっそりフォローしたりする、いわゆる分かってる大人ポジションの学長だ。
ちなみに、ほっほっほっと楽しそうに笑っているのは別にキャラ作りではなく、単にこの爺が今回の件で1番得をしているからだ。
単純に儲かり過ぎて笑いが止まらないのだ。
何せ、今回の決闘を公式で認める代わりに公爵家から競技場の改修費用やら校舎の建て直し費用をタカり、今日来た全ての貴族から入場料をぼったくっているのだ。
実に食えない爺である。
ここの競技場は室内型のコロッセオだ。
屋根のあるすり鉢状の客席、その中心部には今回の決闘の舞台となる石造りのリングが設置されている。
いきなりコロッセオの照明が落ち、会場が静かにざわめき出した。
ん?何かのトラブルか……?
こんな演出、予定にあったっけ?
『大変長らくお待たせ致しました。』
ヒュボっとスポットライトがリングを照らしだし、リングの中心部にドレス姿の淑女が立つ。
その黒と金で彩られた貞淑なドレスは彼女のピンクブロンドの髪を際立たせている。
『これよりフィンスター=ヘレオール家主催、王立学園武闘会、開催致します!』
魔法で増幅されたの鈴のなるような声が会場に木霊する。
彼女の開催の言葉に合わせてドンドンドンと原始的な太鼓のリズムが会場を包む。
え、なにこのロックな感じ?
それに何でウチの義娘が実況してんの?
そんな話だっけ?
『平民ながらも学園歴代1位の魔力量を誇り、その猛る野心の炎に身を任せ、学園の門を叩いた無頼漢! 彼は言う! オレは戦場にて生まれ落ち、望むもの全てを己の力で手に入れて来た!
学園最強の座もいつも通り手に入れる!!
その姿は、正に白炎を纏いし血に飢えた虎!!
青コーナー!アァーラーンンンンン!!!』
舞台の片側が青い炎で照らされ、スモークが吹き荒れる。
そんな中から何だか申し訳なさそうな顔をしたアラン君が現れた。
うん。そんな顔になるよね……。
どんな訳し方をしたら、戦災孤児でコツコツ働いていた勤労少年が、戦場生まれで望む全てを己の力で手に入れて来た男になるんだ?
『対するは、生まれながらにして全てを手に入れた神童! 頭脳明晰! 眉目秀麗! 万夫不当! 不撓不屈の天才! 全ての賛辞は彼の前でただ霞みゆくっ! 全ての凡愚に目もくれず、その黒曜の瞳が目指すは神の頂きのみ! そのお姿は正に黒雷を従えし獅子! 赤コーナー!!フィンスター=ヘレオール家次期当主!愛しております!
レオナルド・ジョンストン・フォン・フィンスター=ヘレオール様っ!!』
アラン君と反対側が赤く燃え出し、煙の中から気まずい顔をしたレオナルドが出てくる。
いや、まぁ確かに嘘は言ってないけどさ……。
実況がワンサイド過ぎない?
愛しているとか言っちゃってるし……。
絶対にアラン君が見ていないタイミングでレオナルドに凶器を渡すタイプの実況だよあれ。
アラン君なんか明らかに悪役じゃん。
何だよ血に飢えた虎って。
どこの世紀末覇王だよ……。
ホント何してんの?あの義理の娘(予定)。
いや、確かにこの決闘に1枚噛ませたのは私だ。
何やらレオナルドの為に何かしたいと言って来たので、この決闘の運営的なことを頼んだ。
何なら演出の案も出したりした。
しかし、誰もここまでやれとは言っていない。
「何と言うか、凄く前衛的でいいな!」
「うーむ。派手な演出じゃ……。これを毎年やるのも良いかもしれんな。」
頭を痛めている私の横でバカキングと狸爺が何やら頭の沸いた事を言っている。
この2人以外の私の周りに座る貴族達も、その顔を見る限り好意的な感じがする。
最初は戸惑っていたようだが、今なんか皆してウォー!とか叫んじゃっている。
まぁそうなるか……。
この世界には娯楽がトコトン少ない。
昭和中期に街頭テレビで皆して野球やプロレスを観ていた時代以下なのだ。
そこにこんなスモークをもくもく炊いてスポットライトや炎を使ったド派手な演出をすれば大抵はこうなるだろう。
そんな私の頭痛を他所に、頭痛の種である義娘の軽快なアナウンスは続く。
『2人は共にあの大英雄!ロベルト・マクスウェル・フォン・フィンスター=ヘレオール公爵から薫陶を受けた、言わば同門!』
あー、うん。まぁ……そうなるのか?
『この一戦には学園最強の名と共に、あの死神の後継の座も掛かっていると言っても過言ではありません!!』
それは過言じゃない?
いや、欲しいならあげるけどさ……。
ユーリア君のアナウンスにどよめく観客達。
律儀に反応してくれる良い観客だ……。
『そんな2人の対決の火蓋が!今まさに切られようとしています!!』
リングの中央で若干微妙な顔をして向かい合う2人。
その手には木剣が握られている。
あの2人の力を考えれば持つ意味などないのだが、一応形だけ持たせている。
ちなみに今は聖剣と魔剣は持たせていない。
普通に危ないからな。
『ルールは何でもあり!時間無制限! 一本勝負! 場外、及びダウン時の10カウントKO!』
この辺は前世の格闘技や今世の決闘ルールをベースに私が取り決めた。
ただ、よくファンタジー作品である死んでも生き返る特殊結界とか一定ダメージ無効化とかはないので普通に死ぬ可能性もある。
『レオナルド様!頑張って下さい!
レディ……ファイッ!!!』
あの義娘(推定)……!!
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