お父様と白炎の勇者
「―――すみません! 御館様っ!!」
アラン君が謝罪と共に聖剣を振るう。
キィン!ギィン!!ガギィン!!!
白い魔力に覆われた聖剣が私の周囲に張られた結界を斬りつける。
謝る癖に思い切りがいいな……。
しかも頭への唐竹割り、返す刀での切り上げ、トドメに首元への突きの三連撃。
最後の突き技なんか三層結界の内、二層目まで到達している。
……これ、私の事殺りにかかってない?
「本当に申し訳ございませんっ!」
アラン君の右手が燃え上がり、結界を撫でるように燃え盛る手が添えられる。
ゼロ距離射撃!?
「『燃え尽きろっ』!!」
ゴゥン!!と炎が爆ぜる。
甲高い音を立てて私の結界の一層が割れた。
ちぃっ! 結界がっ……!
堪らず後方へ下がり、反射的に『黒の弾丸』をアラン君に向ける。
―――黒の弾丸。
私の通常攻撃魔法で、名前の通り前世の銃を模した魔法だ。
私の属性は地。
これは魔力を用いて疑似金属を生成、射出する魔法である。
疑似金属。つまり、魔力というエネルギー体でありながら金属として存在している不安定な状態をあえて作りだす事で、物理法則の影響を極端に少なくしている。
その弾速はほぼ無音でありながら、音速を優に超え、直進距離は300m。
何より素晴らしいのはその威力。
魔法攻撃でありながら物理攻撃でもあるため、その両方に対して高い防御力がなければ防ぐことが出来ない必殺の弾丸である。
要はアラン君の聖剣クラスじゃないと防ぐ事は出来ない代物だ。
つまり手加減が一切出来ないのだ。
全開の四連撃を放ったからだろう。
あまりにも無防備な状態を晒すアラン君。
―――この状態の彼を攻撃すると殺してしまうのでは?
その考えが私の動きを妨げる。
「『電磁加速』っ!!」
刹那の隙を見逃さす、レオナルドの紫電を纏った魔剣が私を襲う。
ガギィィイイィイイン!!
紫電の魔剣と私の結界が拮抗したのは一瞬。
すぐにバキバキバキっと不快な音を立てて結界が少しずつ切断されて行く。
流石は全てを断罪するなんて物騒な設定があった魔剣である。
ヤバい。下手をすると怪我するな……。
いや、最悪死ぬかも……?
パキィン!と残りの結界が耐え切れずに切り裂かれ、魔剣が生身の私を捉える瞬間―――。
「死ぬなよ! レオナルドっ!!」
魔剣の切っ先目掛けて黒の弾丸を射出する。
パァン!っと乾いた音ともに魔剣が吹き飛ぶ。
魔剣は不壊属性。
この程度なら傷もつかないだろう。
黒の弾丸で魔剣を吹き飛ばされ、腕をはね上げられてガラ空きになったレオナルドの腹部を軽く蹴りつける。
「ぐぅ……!」
数mほど吹き飛びつつも、倒れることなく耐え切るレオナルド。
むっ。これくらいなら耐えれるのか?
いかんな。加減が分からん……。
レオナルドに追撃を入れて気絶させようと、軽く手を振りかぶる。
「る、『月狂黒雷』ぉっ!!」
口から軽く血を吐き出しながらレオナルドが力ある言葉を唱える。
ガガァン!!と空気を切り裂く極大の黒雷が私目掛けて降り注ぐ。
闇属性混じりの雷! これは不味―――!?
―――――――――
――――――
―――
レオが放った黒に染った雷が吠える。
あいつお得意の雷系統魔法の中でも、最大威力を誇る単体攻撃魔法だ。
所謂、大魔法と呼ばれる魔法である。
ちなみに雷系統の魔法はちょっと特殊で、風属性に分類される攻撃力の高い魔法だ。
しかもあの魔法は闇属性も上乗せしたレオのオリジナル魔法。その威力は折り紙付きだ。
―――しかし、実に不格好な戦い方だ。
卑怯とすら言ってもいい。
多分、実力差を考えればとうの昔にオレ達は殺されていてもおかしくない。
御館様はオレ達を害する気がない。
なるべく傷付けずに、戦士としてはむしろ優しく終わらそうとしてくれている。
それはご自身の計画に影響が出るからと言う利己的な理由かもしれないが、さっきから殺す気で攻撃を放っていオレ達に対してこの対応は充分に優しいと言えると思う。
オレ達はそんな御館様の優しさにつけ込んで戦っているのだ。
荒れ狂う黒雷が次第にその暴威を収める。
不味い。魔法の効力が終わる。
「レオ! このまま早く逃げよう!」
1ヶ月のサバイバルで培われた危機回避能力が警鐘を鳴らす。
今のオレ達の目的は逃走だ。
御館様の生死は今はどうでもいい。
1秒でも早くここから―――。
「うむ。実に正しい判断だ。しかし、判断が遅いな……。」
気付くとそこに無傷の御館様がいた。
「う、嘘……だろ……。」
レオの絶望した顔が目に入る。
きっとオレも同じ様な顔をしているだろう。
レオの渾身の大魔法に傷どころか汚れ一つついていないのだ。
「2人で連携して私の結界を剥ぎ取り、レオナルドの大魔法で攻撃。そしてその隙に逃げる。
―――悪くない。決して悪くはないが、まだ粗が目立つ。」
悠然と佇む御館様の身体は赤いオーラに包まれている。
―――あれは、臨界魔力……?
「しかし、私からこの『赤眼武神』を引き出したのは素晴らしい。」
赤眼武神。
あの赤いオーラを纏った状態の事だろう。
どう見てもオレ達が使っている『赤眼』の上位に位置する技法だ。
「赤眼の起点となる下腹の丹田。これは正確には下丹田と言われる。そして同じ様に、胸にある中丹田、頭には上丹田が存在している。」
まるでオレ達に訓練をする様に、ゆっくりと技法の説明をしてくれる御館様。
いや、もしかしたら本当にそのつもりなのかもしれない。
「この3つの丹田を同時に励起させることにより通常の赤眼状態とは比べ物にならない程の爆発的な身体能力を得る事が出来る。軍事身体強化魔法の奥義と言える魔法だ。」
煌々と燃える赤い臨界魔力を纏う御館様。
は、ははっ。何だそれ……。
もう笑うしかない。
3つの丹田の同時起動?
そんな体内で爆弾を爆発させる様な事をすればなるほど。確かにこうなるだろう。
生物としての格が違う。
蟻とドラゴン。
いや、まだ遠い。言わば次元が違うのだ。
あぁ、そうだ―――。
だからこの人は死を司る神と謳われたのだ。
「安心したまえレオナルド、アラン君。君達をどうこうする気はない。……むしろ、私は嬉しいのだ。たった2ヶ月弱の訓練で私を相手にここまで戦えるのは見事としか言い様がない。」
いっそ慈悲深く思えるほどの笑顔で御館様がオレ達を褒め称える。
しかし、次の瞬間……。
「しかし、その娘は駄目だ。」
御館様からの圧が跳ね上がる。
まるで鋭利な刃物で全身を刺されたかのような殺気が駆け抜ける。
「その娘は吸血鬼―――、上位魔族であり、魔族解放を掲げるテロ組織と繋がっている可能性がある。捨ておく訳にはいかん。」
御館様の紅の双眸の先には、今にも倒れそうなレオとそれを支えるユーリアさんがいる。
ユ、ユーリアさんが魔族……!?
しかもテロ組織と繋がっているだなんて……!
御館様の言葉に動揺するオレ。
まるで事態を根底から覆された様な気分だ。
オレは、オレはどうすれば良い……?
「レオナルド。お前がその娘に恩を感じているのは分かる。私とてお前の恩人なのであれば相応に感謝もしよう。頭を下げたって構わない。
―――しかし、その娘が国を、領地を、何よりお前を害する可能性がある以上、私はそれを見過ごす訳にはいかん。」
そうだ……。
オレだってこの国には、王都には家族がいる。
もしそれを彼女が脅かすとしたら?
もし彼女が、友を脅かすとしたら?
オレは……、オレは……!
「―――きっと、お父様の仰ることが正しいのだと思います。」
ヨロヨロとふらつき、ユーリアさんに支えられながらレオが前に出る。
「半端な俺などよりずっと優秀なお父様の言う事は、間違いなく常に正しい。でも―――。」
口ではそう言いながらも、レオの手はユーリアさんを離さない。
レオ……。君は―――。
「彼女は、ユーリアは俺の大事な人なのです。」
……ん? 今なんて言った? 大事な人?
それって……。
「俺は彼女を愛しています。
だから、彼女を殺させる訳にはいきません。」
その瞬間、時が止まった。
あの御館様でさえ目を見開いて止まっている。
ユーリアさんは……うん。鼻血出して固まっているね。
「彼女が罪を犯したと言うのであれば俺も一緒に償います。彼女が何か過ちを犯すのであれば俺が止めます。だから何卒、ご再考ください!」
真っ直ぐに御館様に頭を下げるレオ。
どうやらオレの聞き違いではないようだ。
はぁ……、なるほど……。
そう言えばずっとレオはチラチラとユーリアさんを目で追っていた。
ユーリアさんを見殺したら自分が許せないとか何のかんのと言っていたが、平たく言えばそういう事か……。
「……前から思っていたけどさ。レオは人の事を馬鹿だ馬鹿だと言うけど、自分も大概だよね?」
頭を下げ続けるレオにため息を付きながら聖剣ブレイブ・ブレイドを握り直す。
おかしいな。
何だか聖剣がさっきより軽く感じる。
―――ああ、そっか。
聖剣は護る意志を力に変える。
目の前の友達を助けたい。
馬鹿なオレにはこれくらい分かりやすくなきゃダメなんだ。
オレの意志の力に呼応する様に、聖剣が白く燃え上がる。
ああ、そうだ。
もっと燃えろっ。
ここで燃えなきゃ、いつ燃えるんだっ!
ゴウっ!!っとオレの身体中から白い炎が燃え上がった。
「まぁ、オレの友達なんだから馬鹿なのは当たり前か……。いいぜ、レオ。お前の恋路、オレが護ってやる!!」




