お父様と主人公達
これはどうしたものか……。
聖剣を携え、守護結界を維持するアラン君。
その後ろでユーリア君をお姫様抱っこをしながら油断なく私を見据えるレオナルド。
気分はもう悪の親玉だ。
いや、物語の展開的には中ボスくらいか?
前世の知識と状況証拠から、レオナルドを誑かす魔族がユーリア君なのは間違いない。
この手の展開でよくある、定番のサキュバスだと思ったが、どうやら彼女は吸血鬼らしい。
有名な話という訳ではないが、あの子の実家であるセーデルホルム伯爵家は大戦前から魔族と繋がりがあった。
それが彼女を疑い出した切っ掛けだ。
レオナルド達をサバイバル訓練に出してから、私は家の者に彼女を調べさせた。
そして、調べれば調べる程その疑念は確信へと変わっていった。
現セーデルホルム伯爵家当主は吸血鬼。
その二人の娘も同じく吸血鬼である可能性が高い。
ユーリア君は陽の光の下でも問題なく活動出来ていることから、ハーフヴァンパイア、いわゆるダンピールか、それとも吸血鬼の真祖の可能性もあるが……。
まぁそんな事はどうでも良い。
私は種族や階級で差別はしない。
そう。それがどんな種族であれ必要なら重用するし、不要なら処分をするだけだ。
セーデルホルム家の在り方やその作り込まれた設定、ユーリア嬢のキャラクタービジュアルを考えれば、私が知らないだけで元々ゲームではそう言うルートがあったのかもしれない。
私があのゲームをやり込んだファンであったのならまた違った結論になったかもしれない。
しかし、私はこの国の行く末を差配する公爵でありレオナルドの父親である。
息子を誑かし、この国に潜む獅子身中の虫。
そんな危ない存在をどうするか?
悩むべくもない。さっさと処分してしまうに限るという訳だ。
「―――レオナルド。これはお前の采配だな? 自分が何をしているのか分かっているのか?」
「ええ。全く分かっておりません。」
自信満々に何も知らないと言う息子。
えぇ……。
「―――しかし、ユーリアは俺が今の俺となれた切っ掛けをくれた恩人です。そんな恩人を尊敬するお父様が殺めようとしている。
……そんなこと俺には無視できません。」
ふむ。確かにレオナルドから見ればそうなるだろうな。
しかし、そうか……。
尊敬してくれているのか……。
その辺をもう少し詳しく聞きたいが、それはそれだ。
「理由なら後で説明してやる。だが、決定を覆す気は―――。」
「なので、俺は逃げます。」
その時、中庭に爆風が吹き荒れた。
豪っ!!
―――くっ! まるで台風だっ……!
「『鎮まれ』!」
バキィン!と何かが壊れる音と共に、吹き荒れていた暴風が収まる。
見ると3人が消えていた。
「小癪な……。詠唱破棄まで使いこなすか。」
1人で取り残された私の口元には知らず知らずのうちに笑みが零れていた。
―――――――――
――――――
―――
「走れ走れ!アル! あんな目眩し、何秒も持たないぞ!」
「うん。それはわかるんだが……なぁレオ。
オレは別に一緒に逃げなくても良くないか?」
口ではボヤきながらも全力疾走しながら背後を警戒するアル。
寝静まった深夜の王都を俺達は脇目も振らずに疾走する。
目抜き通りを通ってそのまま王都の外へ。
ここは大陸でも有数の都市なのだが、今はどんな危険なダンジョンよりも恐ろしい場所だ。
何せ俺達を追って来るのは、この国を支配する大公爵であり個人でも最強格の死神なのだ。
「何言ってんだ? 友のためとか言ってドヤ顔で反抗したお前が今更許される訳ないだろ?」
「……ぶっちゃけ後悔しかないんだが?
あれだけお給金弾んでくれた御館様に申し訳なさ過ぎる。あー、必死に土下座すれば許してくれないかなぁ。」
「はっはっはっ。この期に及んでお前だけ逃がす訳ないだろう? ……もういいだろう。」
「あいよ。」
馬鹿な話をしながら俺とレオが跳躍する。
建物の屋根まで飛び上がり、そのまま方向を変えて走り出す。
あの森でよく使った逃走手段だ。
最初は地面を走り、適度な所で木の上を伝って別方向へ逃げ出す。
単純な方法だが、案外これが効果的だった。
屋根の上をテンポ良く、なるべく痕跡は残さないようにジグザグに跳びながら移動する。
「このまま最速で王都の壁を超えて南を目指す。
王都から北側全部は全てお父様のテリトリーだからな!」
「……それ国外に逃げた方が良さそうだな」
「最悪の場合はそうなる。ちなみに他国も含めて銀行は全てお父様の息が掛かっている。多少の手持ちはあるが、どこまで行けるか……。」
「サヨナラ。オレの貯金……。」
2人揃って王都の空を踊る。
王都はその周りを高い壁で囲われた城塞都市だ。そのどこまでも高い壁が見えてきた。
「あ、あの! レオナルド様! あの泥棒ね……いえ、アランさんの言う通り、今からでも私を差し出して御館様に謝罪をして下さい。私なんかの為にレオナルド様が泥を被る必要なんて!」
ユーリアが必死に叫ぶ。
先程から全開の速度で走っているからか、ユーリアは俺の腕の中で可哀想なくらい縮こまって俺に抱き着いている。
ユーリアを落とさないように強く抱き締め、王都の都市部の境目にある高い壁を乗り越える。
壁の向こうは見晴らしの良い平地が広がっていた。
「……違うんだ、ユーリア。 これは多分、自分の為なんだ。」
お父様は血も涙もない冷血漢ではない。
きっとお父様がユーリアを殺そうとするだけの理由があるのだろう。
そして、それは国のためや領地のため、皆のためになる理由なのだと思う。
でも―――。
「それがどんなに正しい理由でも、ユーリアを見殺しにしたら、きっと俺は俺を許せない。
つまり、単なるワガママなんだ。」
「レ、レオナルド様……!」
そうだ。
これは単なる俺のワガママ。
聞き分けのない子どもが癇癪を起こしているだけの恥ずかしい行為だ。
それは分かっている。
「―――自分でも馬鹿な事をしていると思っている。……それでも。それでもだ。
ユーリア、アル。付いてきてくれないか……?」
「も、勿論です!」
「……はぁ、仕方ない。オレもテンション上がってやらかしたのは確かだし……。」
「まぁ反抗期の少年らしくていいんじゃないか? しかし、落とし所は考えているのか?」
「ええ。お父様の予定では、入学式の時に俺とアルが決闘をする必要があります。それまで逃げ続ける事が出来たら―――え? 」
今、俺は誰に応えた?
「なるほど。計画がズレる事を嫌った私から譲歩を引き出せるかも、という事か。 ……ふむ。考え方は悪くないが、もう少し強い交渉カードが欲しいな。」
ここは王都の南の外れ。
都市部を囲う城塞の向こう側。
俺達はここまで全力で走って来た。
それに最大限の警戒もした。
しかし―――。
「それに、だ。そもそも私から逃げれるだけの実力が必要だと思うがね?」
お父様は剣も使えるが騎士じゃない。
魔法を多用するが魔法使いでもない。
圧倒的な身体能力を使い、敵に忍び寄りその冷静な観察眼の元、弱点を突いて確殺する。
口さがなく言えば、王国最強の暗殺技能者。
――黒輝の死神から逃げられないっ……!




