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悪役貴族のお父様  作者: 太郎冠者
第一章 長男入学編

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14/66

悪役貴族の帰還

それは3月も終わるある晴れた昼下がり。


そろそろ王都での仕事も落ち着いてきたから、レオナルドの入学式が終われば領地に帰ろうかなと、王都屋敷の執務机に座りながら考えていた矢先の事だった。



「た、大変ですっ!! 御館様!! レ、レオナルド様がっ!レオナルド様がぁっ!!!」



ノックをしないどころか、執務室のドアを蹴り開けてユーリア嬢が入って来た。


いや、君。これ普通に処罰モンだよ?

何か最初会った時からどんどんキャラが変わって来てない? これが素なの?


―――ん? 今なんて言った?

レオナルド……?



「レ、レオナルドがどうしたんだっ!?」


「あ、あんな……、あんな変わり果てた姿に……!う、うぅ……!」


「レオナルドはどこだっ!?」


「げ、玄関ホールに……!」


取り乱すユーリア嬢を無視して屋敷の正面玄関に回る。


当然、赤眼は全開。

周りへの影響を一切考慮せず、ただひたすらに屋敷内を爆走する。


「うぅ……。レオナルド様が……。な、なんでこんなことに……。」


私の後ろで泣き崩れるユーリア嬢。


―――って、何で私と並走出来んの!?

出力全開の赤眼状態だぞ!?


なんて侮れない子だ……!



執務室から飛び出す事、数秒。

困惑は棚に上げ屋敷の玄関ホールに飛び込む。



そこには2人の少年が立っていた。



2人とも来ている服はボロボロ。

汚れも酷い。


しかし、それを忘れさせる程の特別な何かを感じる。


最初に目に入ったのはアラン君だ。


いつもの浮ついた、年相応の落ち着きのなさは身を潜め、確かな自信とそれに伴う落ち着きを手に入れたように感じる。


何と言うか、大人になった。


常闇の森からここまで走って来たのだろう。


赤眼状態は維持したまま。

しかし、その出力は完璧にコントロールされており、ごく自然体な様子だ。


素晴らしい……。

この様子ならウチの騎士団の連中と比べても遜色ないレベルだ。



2人目は当然、レオナルド―――いや、誰だ?



それはあのぽっちゃり君とは似ても似つかぬスラリとした引き締まった身体の少年だ。


目にかかるくらいの黒髪をうっとおしそうに払い除け、私に気がついて頭を下げる。


彼も当然のように赤眼状態を維持している。

その油断のない身体運びからは年不相応に鍛え抜かれた戦士としての完成度を感じた。


ゲーム主人公のアラン君と比べても遜色ないレベルの高さだ。



「ただいま戻りました。お父様。」



うんうん。無事な様子でパパも嬉し―――。

って、やっぱりレオナルドなのかっ!?


何だその引き締まった身体は!?


男子三日会わざれば、と言うがほぼ別人じゃあないかっ!!



「うぅ。レオナルド様……、こんなにもやつれてしまって……。何てお労しい……。」


本気で涙をうかべながら手にはハンカチを持ち、ユーリア嬢がレオナルドに駆け寄る。


「レオナルド様の豊満なお体が……、あ、でも固い。これが筋肉……。すっご……!」


ハンカチで汚れを落とそうとしつつ、レオナルドの腹筋を撫でくりまわすユーリア嬢。


彼女の顔が徐々に火照って来ている。


ユーリア君……。君ホントにさぁ……。



「あぁ、でもこんなにお汚れになって……。

すぐにお風呂を用意させて頂きます!

―――あ。アランさんは裏手に井戸があるので、そこで水浴びしてください。お屋敷が汚れますし。」


温度差ぁ!?


潤んだ瞳でレオナルドを見ていたと思ったら、まるで虫を見るような乾いた瞳でアラン君に水浴びをして来いと言う。


平民がどうとかじゃなくて、人としての扱いがレオナルドとそれ以外で違い過ぎないか!?


しかし、レオナルドはそんなユーリア嬢の温度差に気付かないままその言葉を受け止めた。


「あぁ、そうだな。 汚れたまま屋敷に入るのも良くないな。―――アル。ユーリアの言う通り先に井戸で水浴びをするぞ。」


「え、あ、うん。え? レオも水浴びするの?」


「当たり前だ。屋敷を汚してユーリア達の仕事

を増やす訳にもいかんだろう。 それに1ヶ月もこの格好のままなんだ。水浴びでも何でも良いから身体を洗いたい。」


空気が読めるアラン君がキョドるのをサラリと流してレオナルドはスタスタと裏手に回る。



異性への鈍感さだけならレオナルドの方が主人公っぽいな……。



取り残されたユーリア君がプルプルと震える。



「アル……? あ、渾名呼び? レオナルド様から? あ、あの泥棒猫……!!」


おもむろに手に持つハンカチを噛んで悔しがるユーリア嬢。



昭和のリアクションだなぁ。

本当にハンカチ噛んで悔しがる奴なんかいたんだ……。


そんな事を考えながら、私はユーリア嬢は行儀見習いが終わったらさっさと家元に帰ってもらおうと心に決めたのだった。



―――――――――

――――――

―――



結局、水浴びをした後に2人揃って風呂に入ったらしい。


さっぱりとした様子の2人が私の執務室の応接ソファに並んで座っている。


「一応聞いておこう。成果はどんな様子だ?」


「上々です。」


「それは重畳。」


短い受け答えの中に確かな自信を感じる。

それは今までのレオナルドになかったモノだ。



常闇の森自体はゲームで言うならば中盤の最初に行く位のエリアだ。


見た目は厳つい魔物が多いのだが、赤眼を使える2人からすると、どれも問題なく対処出来るレベルでしかない。


しかし、それでも実戦は勝手が違う。


戦場に慣れない新兵だと、自分より弱いものにすら勝てないなどはよくある話だ。


なので、ウチの騎士団では新兵への洗礼としてその者が実力を発揮出来れば生き残れる魔物の巣に突っ込ませている。


無事、洗礼は通過出来たらしい。



「―――さて、試練を乗り越えた若者には褒美があるべきだと私は思う。」



そんな思わせぶりなセリフを宣いながらニヤリと笑う。


取り出したのは白と黒の宝剣。


王家から買い取った聖剣ブレイブブレイドと魔剣ノーザンクロスだ。



「お前達レベルになると使用出来る武器の幅が狭まってしまう。 何せちょっと強く握り込むと持ち手が潰れてしまうのだからな。」


その点、この二振りは非常に頑丈だ。


来歴こそ不明だが、遥か昔から―――、それこそ、この大陸に存在するどんな国よりも昔から伝わる伝説の剣である。


ちなみに魔族達が持っていたのはたまたまらしい。


決して壊れることのない不壊属性を有し、それぞれ聖剣は持ち主の護る想いを光の力に変え、魔剣は持ち主の断罪の決意を闇の力に変える能力を持つとされている。


……と言うゲーム設定だ。


まぁよくある光と闇の剣というやつだな。

オーソドックス過ぎて実家のような安心感すら覚えるというものだ。



「すげぇ……!この剣黒くてカッコイイなぁ! あ、あれ?」


嬉しそうにアラン君が魔剣を手に取り鞘から抜こうとするがびくともしない。


「ぬ……。こっちの白い豪華な剣も抜けない……?」


訝しげな顔でレオナルドも聖剣を抜こうと試みている。


あー、やっぱり逆だとダメなんだ。



「聖剣は光属性、魔剣は闇属性だ。それぞれ逆の方を抜いてみろ。」


残念そうな、渋々といった顔でお互いの持つ剣を交換する2人。



この世界はジャパンファンタジーなので当然個々人の魔力に属性が存在する。


地水火風の4属性と、光と闇の計6属性である。


基本的には1人1属性。

例外的に光と闇の属性を持つものだけは、地水火風の4属性のどれかとの2属性持ちになる。


レオナルドは闇と風、アラン君は光と火といった具合だ。



ちなみに、光と闇は本当にレア属性で数千万人に1人とか、そう言うレベルだ。


何だか悪そうな奴とか魔族とかが闇属性という訳ではないのだ。



対応した属性を持つ持ち手に渡ったからなのだろう、二振りがそれぞれ光と闇に薄らと輝く。


2人が同時に剣を引き抜く。



瞬間、部屋が白と黒の輝きに満たされた。



豪っ!と二振りの剣から黒と白の魔力の奔流が溢れ出す。


白く磨き抜かれた白銀の刀身と、光すら飲み込む程に黒く光る黒鋼の刀身がまるで地上に降り立った星の如く爆発的な輝きを放つ。



「こ、これは……!」


「は、ははっ!とんでもない剣だ……!」



剣を持つ2人の能力が明らかに引き上げられている。それも、何段階もすっ飛ばしてだ。


うん。2人とも剣に認められた様だ。



光と闇の勇者―――。



在り来りで陳腐なワードだが、案外この2人には似合っているかもしれない。


単なる思い付きで決闘騒ぎを利用したが、この仕上がり様……。


思っていた以上にとんでもない事になるかもしれないな。




……後で冷静になってから気付いたのだが、決闘より先に私の執務室がとんでもない事になってしまっていた。


伝説の剣を抜刀する時は屋外でやりましょう。

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