お父様と王様
「ほら。これだけあれば何とかなるだろう。」
ゼロを幾つも記入したチケット―――前世で言う所の小切手をカーライル王に投げ渡す。
あの会議の後、さっさと帰ろうとしたのに王に捕まり奴の私室にて先に支払いを要求される羽目になった。
我が親戚ながら実に抜け目のない奴だ。
「毎度あり。……しかし、銀行だったか? 随分儲けているみたいじゃないか?」
カーライル王は小切手で口元を隠しているが、ニヤついた笑みは隠し切れていない。
「当然だ―――と言いたい所だが、思ったより儲からないな。あれは戦後復興業務の一環で作った組織だし、金儲けは二の次だ。」
すました顔で紅茶に口を付ける―――が、
内心、思ってもない出費で軽く震えている。
これちゃんと採算取れるよな……?
私はこの国唯一の、と言うよりこの大陸唯一の銀行業務を行っている。
当然、前世知識によるチートだ。
オレスゲーをやりたかったと言うより、やるしかなかったと言うのが本音だ。
何せ北部復興の為の各種予算をスムーズかつ速やかに国中に回す必要があったのだ。
公爵家の権力を使って国中、引いては他国にも及ぶ大銀行を作ったのは10年前の話だ。
まぁ必要にかられつつも、前世で言うところのロスチャイルド家を目指したのだが、流石にそこまでは儲かっていない。
確かに入ってくる額は大きいのだが、出ていく額が思った以上に大きいのだ
あぁ、なんであの時5年とか言ったんだろう。
せめて3年とかにしておけば……。
「はっ! こんな大金をポンと渡せるくらいに稼いでるのにか? 」
ヒラヒラと小切手を振るキングを睨む。
「渡したんじゃないぞ? 魔族達から巻き上げたあの宝物……最低でもあの2振りの宝剣と引き換えだ。」
「―――聖剣ブレイブ・ブレイドと魔剣ノーザンクロスか。 あんなものどうするんだ?」
そう。ゲームではアラン君が勇者として認められた後に下賜されるはずの剣、聖剣ブレイブ・ブレイド。
通称、勇者の剣だ。
魔剣ノーザンクロスはゲームだと魔王が持つはずだった剣だ。
ちなみに、魔剣なんて禍々しい呼び名だが、別に呪われている訳ではない。
単に黒くてちょっと悪そうなデザインで聖剣と双璧をなす最強格の片手剣である。
なんでそんな重要そうな剣がウチの国に転がっているかと言うと、今の状況がゲームとかなり変わってしまっていることに原因がある。
まず降魔大戦の結果が違う。
ゲームではやや魔族有利の引き分け。
休戦条約にて休戦の証として王国は魔族から聖剣ブレイブ・ブレイドだけを手に入れる。
まぁ当然、休戦しただけだから魔族との関係は最悪。と言うかよく15年も持ったものである。
しかし、現実ではあの大戦の勝者は人間側。
我々ヴァリエント王国だ。
なので、王国は聖剣以外にも魔剣やら何やらかんやらの宝物を手に入れた。
しかも、自分で言うのは少し恥ずかしいが、ディエス・イレの誓いのお陰もあってこの国の中においては比較的魔族の扱いも悪くない。
またぞろ戦争にはならないとは思いたいのだが……。
「少し思う所があってな。息子達に持たせるつもりだ。」
「レオナルドとエドワードにか? 大丈夫なのか? あの二振りはそれぞれ光と闇に適応した属性を持ってないと使えないぞ?」
その辺は大丈夫だ。
ゲーム知識で確認済みである。
アラン君は言わずもがな、レオナルドもゲーム通りなら問題なく扱えるはずだ。
レオナルドとアラン君。
最近のあの2人は赤眼を使いこなしつつある。
そうなると次の問題は武器だ。
あの赤眼の出力で戦闘をするんだ。
当然、普通の武器なんか使えない。
そうなると武器は必然的にバカみたいにデカくて重い物になる。
確かにデカイ武器は格好が良いが、そんな大物を持ち歩くのは邪魔だ。
―――レオナルドは頑張っている。
どうせなら良い物を使わせてあげたい。
そこで思い付いたのが、魔剣ノーザンクロスという訳だ。
聖剣の方はぶっちゃけると、ついでだ。
あれはゲームだとアラン君専用武器だし、まぁレオナルドと仲も良いみたいだから先に手に入れて渡してあげようと言うだけである。
アラン君も頑張っているしな。
「……おそらくどちらも問題ない。魔剣はレオナルドに、聖剣の方は最近ウチで面倒を見ている平民の子に預けるつもりだ。」
「―――ほう? 魔力持ちの平民か?」
「ああ。何でも王立学園の入学試験で過去最高の魔力量を計測したらしい。」
「はっ!出たよ! この人材マニアめ!優秀な人材はぜーんぶお前が持ってくんだ!」
カーライル王は諸手を上げ、ソファにドカりと身体を預けた。
「……その平民の話で思い出したが、お前から聞いている例の決闘の件。気をつけた方が良さそうだ。」
ん? どう言う事だ?
そう視線で尋ねると王は気を悪くすることもなく続きを話し出す。
「王家直属の暗部が掴んだ情報だが、どうもここ最近魔族連中の動きがきな臭い。 人間族からの独立やら魔王復活やらを掲げた集団が形成されているらしい。 確か名前は―――」
「『オディマ』。先の大戦の敗残兵が寄り集まった魔族のテロ組織だな。」
「相変わらず良い耳をお持ちで……。」
肩をすくめる王を尻目に思考を加速させる。
ODIM。
ゲームに出てくる敵組織だ。
Organisation for Daemon Ideal Membersの略称だったはずだ。
意味としては、魔族の理想のための組織くらいの意味だ。
元ネタはナチスの逃亡支援組織であるオデッサ辺りだろう。
やはりこの世界でも存在していたか……。
ゲームでは魔王復活を掲げて各地でテロ行為を起こし続け、最終的には封印された魔王を復活させてしまう危険組織だ。
ゲームでは廃嫡されたレオナルドを誑かして王国を裏切らせたのもオディマの工作員だったはずだ。
ゲームではその辺の詳しい描写がなかったから詳しくは分からないが、ゲーム展開的にそう考えて間違いないだろう。
―――つまり、この世界でも奴等の工作員がこの国に潜んでいる可能性は高い。
少なくともレオナルドの件だけは、親として私が何とかせねばならない……。
「情報感謝する。これは気を引き締めなければならんな……。」
「役に立ったなら何よりだ。
……しかし、お前がそこまで気にかけるレベルの人材が平民にいるとなると、お前が昔から提案していた平民の雇用体制の見直しや地位向上を本格的に考えてもいいのかもしれないな。」
為政者の顔で考えるカーライル王。
平民にも優れた人材はいるんだと昔から言っていたのが、ようやく真面目に考えるようになったのか。
確かに魔力の有無で身体能力には貴族と平民でどうしても差があるが、だからと言って平民を軽視する理由はないと思うのだ。
まぁこの辺は前世の知識の影響だろうな。
「だからいつも言っていただろう? 能力に生まれは関係ないと。」
「ほーん? 流石は我が国最強最大の大貴族!!公爵閣下はお優しい事ですなぁ?」
皮肉をたっぷり込めて笑うクソキング。
殴ったろか……。
「ふん。優しいだと? むしろ私はある意味悪人だよ。」
もし今後戦争が起これば、貴族や平民の区別なく私は能力がある者を戦地に送ると言っているのだ。
「―――今の平民達はある意味庇護者なのだ。不自由な面はあれど、彼等は一定の平和を国や貴族から保証されている。」
平民は確かに囲われている。
しかし、それを檻ではなく壁や城壁と考えている者は確かにいるのだ。
それを知りながらも、私はその壁を壊そうとしている。
「それを撤廃しようとする私は、彼等から悪だと罵られる事になるだろう。」
「―――分かってるなら良い。……まぁ、でも安心しろ。もし後世の歴史書にお前が悪人だと書かれるならこのカール兄様も一緒に名前を書かれてやるからさ。」
何やら自信満々な顔で鼻を鳴らすカーライル。
……私達ももうアラフォーだぞ?
いつまで兄貴面をするつもりだ。全く……。
このバカ兄め……。




