お父様のお仕事
さて、貴族とは何か?
簡単に言えば、領地を護る守護者であり管理者だ。
基本的に領地持ちの貴族はその土地の王と言えるほどの権力を持つ。
具体的に言うならば、立法権や司法権、行政権ついでに軍権を有する独裁者だ。
まぁ小さな領地なら兎も角、私レベルの大領主になると1人で管理なんて絶対無理なので、議会を作ったり行政府を作って文官連中を駆使したりしているのであまり独裁者っぽくはないが。
ともあれ、王国とは複数の王が如く振る舞う貴族達の寄り合い所帯に過ぎないと言う事だ。
……つまり、何が言いたいのかって?
どいつもこいつも我が強くて好き勝手過ぎるのだ!!
「―――あの大戦より15年! 戦災復興も順調に進んでいる! 然るに、我々もかの大戦を過去の事とし、新たな未来に生きるべきではないのか!? 」
まるでステージに立つ役者の如く、若い伯爵が朗々と演説している。
何だか自信満々で鼻持ちならない貴族のボンボンみたいな顔をしている。
まぁこの場には私も含めて貴族のボンボンしかいないのだが……。
時折、拍手をするのはあのボンボンと同じ南部貴族の連中だ。
さっきから何やかんやと言っているが、要はもう戦後も15年経ったんだし、戦災復興費を縮小しよーよと言っているのだ。
ここは王都の中心。
王城内にある大会議室―――、前世で言う国会議事堂みたいな所だ。
日夜、色んなしょーもない議題でオッサン連中が集まってわちゃわちゃ会議をしている私の職場のひとつだ。
今日の議題は戦後復興予算の見直し。
簡単に言えば―――
降魔大戦で皆大変だったよね!
特に大変だった北部貴族の皆に愛の手を!
戦地にならなかった南部貴族の皆は実際に戦争に参加してないんだからどんどん募金してね! 各領地の年間予算の3割くらいが推奨だよ!
え? お金ないの? 大丈夫大丈夫!
人とか物でも大歓迎!
何せ北部はほとんど焼け野原だしさ☆
―――と言うのが戦後復興予算の内情。
だが、そんな事を15年も続ければ南部も疲弊して来るのでそろそろ見直そうぜ、と言うのが今回の議題な訳だ。
「そうは言うがな、南部の若いの。実際、北部の我々の領土はまだまだ復興していない箇所も多い。―――それだけの地獄を我々北部貴族は潜り抜けたのだ。」
何やら思わせぶりでハードボイルドな事を言う年嵩の爺さん。
あれは北部の侯爵だな。
見た目も言動も歴戦の勇士っぽい爺様だが、戦場で早々に重度のぎっくり腰になって領地に引っ込んだスーパー見掛け倒しジジイだ。
北部貴族としては実際大変だったから貰えるものは貰いたいと言う乞食根性と、もう今年以降の領地の予算計画に戦後復興予算を組み込んでいるから値切られたくない貧乏根性で反対しているのがぶっちゃけた所だ。
各都市の復興状況は8割くらい。
しかし、問題は北部貴族の各領地では傷痍騎士や兵士の各種手当や遺族年金が膨れ上がっているのだ。
そう言う人的戦災も含めると復興はまだ先と言うのも本音ではある。
南部も北部もそれぞれ言いたい事は分かるし、正しいとも間違っているとも言い難い話題だ。
しかも、付け加えるなら南部であれ北部であれ各派閥の考え方も微妙に違う。
すぐに復興予算打ち切ろうぜ派もいれば一生復興予算を垂れ流せ派もいる。
期間を決めよう勢もいれば、とりあえず額を減らそうぜ勢もいるのだ。
そして当然、復興予算を着服する奴もいる。
北部にもいるし、南部でも復興予算用と言って領地の税金を上げて一部を着服している奴もいるだろう。
細かい意見まで見ていくと、もうしっちゃかめっちゃかだ。
しかもそれぞれ自分の意見を曲げる気がないのが会議が踊る原因だ。
何せここにいる奴らは自分の領地を持つその土地の王。
そりゃあ会議だってブレイクダンスをするさ。
(おい、ロベルト。お前これ何とかしろ。)
踊る会議をボケっと他人のフリをして眺めている私の頭に念話が響く。
魔力波を使った短距離念話魔法。
トランシーバーみたいな魔法だ。
魔力波が来た方向を見ると、畏れ多くも議長席に腰掛ける黄金の冠を被る貴人と目が合う。
キングである。
(は?嫌ですけど?)
ご無体な無茶振りに対して、きちんと意志を伝えた私の忠誠心の高さには自分の事ながら戦慄すら覚えるね。
(おまっ……!余は王であるぞ?)
(なら王家が復興予算を肩代わりすればよいのでは?)
(出来るならしとるわ。お前が出せ。)
ちっ。この貧乏王族め。
この国は王国を名乗ってはいるが、そこまで王家の力は強くない。
所詮は寄り合い所帯のリーダー。
前世風に言うならば町内会の会長くらいのイメージだ。
名士ではあるものの何もかもを自由に出来るほどの明確に強い権力がある訳ではない。
それはこの国の成り立ちが魔獣や魔族からの自衛が切っ掛けで興ったからだろう。
(魔族達から賠償金代わりに王家が巻き上げた宝物を私が買い取ると言う形なら、まぁ考慮しますが?)
(ちっ。国宝だぞ? まぁ王家筋のお前が持つのなら良いか……。10年分でいいな?)
(5年が精々だボケ。私の名前は出すなよ?
これ以上目立ちたくない。)
(まぁフィンスター=ヘレオール家が王族を名乗ってもおかしくはないからな。今の王家より金もあるだろうし……。―――なぁロベルト。王座とかに興味はないか?)
(ある訳ないだろ。面倒くさい。金は出してやるからさっさと会議を終わらせろ。私はもう帰りたい。)
(了解。)
「―――静粛に。」
議場に厳かな声が響く。
さして大きくもないその声は、しかして騒がしかった諸侯達を黙らせた。
議長席に座っていた王が立つ。
彼はまだ38歳の若い王だ。
その筋肉質な身体は溌剌とした覇気に満ち、エネルギーに満ち溢れていた。
「戦後15年、未だにかの大戦の爪痕は大きく、皆を苦しめているのはこの身が切り裂かれる思いである。」
丁寧に撫で付けられた長い金髪。
切れ長の緑眼。
指の先にまで込められた王者の風格は見る者全てを魅力する。
「共にあの大戦を戦った北部貴族の戦友達が、そして彼らを共に支えた南部貴族の盟友達が困窮するなど有り得てはならない!」
彼が17歳の時に大戦が勃発し、彼は王太子として戦地を駆け巡った。
彼の武勇を知らぬ者などこの場にはおらず、彼が挙げた綺羅星の様な功績は海千山千の諸侯達をして、彼が次代の王であると認めざるを得ないものだった。
「余は王として―――いや、この国を皆と共に生きる同胞として! 向こう5年間の戦災復興費の補填を王家より行う事をここに宣言する!」
万雷の拍手が彼に降り注がれる。
彼こそが我らが王。
カーライル・アラリック・ヴァリエント。
第147代ヴァリエント王国国王である。
そして私の不肖の従兄弟でもある。




