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悪役貴族のお父様  作者: 太郎冠者
第一章 長男入学編

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お父様は困惑する

何だか部屋に入り辛い……。


かれこれ15分は応接室の前でウロウロしている。


中ではレオナルドと例の平民の子、アランと言ったか? が楽しそうに話している。


問題はその話題だ。



「やっぱさやっぱさ! 公爵が最強に格好良い話はさ!敵陣のど真ん中を中央突破して撤退した話だと思うんだよな!」


「ゴルン平野撤退戦か! 中々渋いな!」


「そう! それ!若い頃の公爵がその時の司令官に言った台詞がめっちゃカッコイイんだよ!『これはどうしようもないくらいの負け戦だが、仕方ない―――』」


「「引き分け位にはしてやろう!」」



……うん。2人揃って楽しそうにハモってるが、そんな台詞は言った覚えがない。


あれは吟遊詩人が付け足した創作だ。


あの時は友軍を逃がすのに必死で、取り敢えず時間を稼ぐ為にウチの騎士団の連中と敵陣に突っ込んだんだ。


残党狩りをするつもりだった敵陣も思わぬ反撃で浮き足立ってくれたので、そのまま敵陣の司令部を壊滅させて一目散に逃げたのだ。


その上、逃げる方向を間違えて敵本陣を中央突破する羽目になったと言うのが実際の所だ。


若かりし頃のほぼ失敗談の様な話である。



さっきからこの調子で大戦時の私の話で盛り上がっているのだが、あの子達が話している大戦の話は嘘は言っていないけど、ってレベルの脚色されたエピソードばかりだ。


何だかとっても入りにくい……。



……しかし、何だかめっちゃ仲良ない?

どんな様子だ?


楽しそうに話し続ける2人が気になり、応接室のドアをゆっくり開けてそぉっと中を覗き見る。



「え、レオは百人斬りの『剣豪』ヴァーリに会ったことあんの!?」


「ふふん。そりゃあヴァーリはウチの騎士団にいるからな。剣を教わったこともあるぞ?」


「うぉおお!スゲェ! 百人斬のコツとか聞いた!?」


「……聞いた。 疲れるからもうやりたくないってさ。」



ソファに座った少年2人がアハハと楽しそうに会話をしていた。



あの赤髪の少年がアランか!

やっぱりブレイブ・ブレイドの主人公そのままだ!


一昔前の定番主人公みたいな陽キャ臭がする。

何と言うか私とは真逆だな。


私は普通に陰キャだし。

何なら家名からして暗闇(フィンスター)だしな。


本当に彼の半生がゲームの設定通りだとしたらそれなりに重い出自だ。


幼少期は戦災孤児として孤児院で過し、幼いながらも日銭を稼ぎながら暮らしていた。


何せ彼は魔力持ち。


単純な肉体労働だけなら大人顔負けの膂力を発揮出来るからな。


ウチのぽっちゃり君と違い、細いながらも引き締まった身体をしている。



しかしながら、勉強をする事もなく自分の名前すら書くことが出来ない。


ゲームでは王立学園に合格こそしたが、クラスは最低ランクのFクラス。


周りの貴族達に蔑まれながらも持ち前の明るさと負けん気で成り上がって行くのだ。



ちなみに、彼の両親についてはゲーム後編で発覚するのだが、母親は大戦中に死亡。


父親は魔族側の英雄としてゲーム後半で出てくる。


父親が敵役として出てくるのは、もうスターウォーズからのお約束と言えるだろう。



「…………あ、あの。お父様……?」



やべ。バレた……。


ドアの隙間からこっそり部屋を除きながらボケっと考え事をしていたらレオナルドから声を掛けられて現実に引き戻された。


ドアの隙間越しにばっちり息子と目が合っている。



「……ゴホン。待たせてしまったようだな。」


わざとらしい咳払いをしながら部屋に入る。



「す、すげぇ……。本物の公爵様だ……。」


「ば、ばか! 口を慎め! 鳥頭! す、すみません! お父様! コイツ口の利き方を本当に知らないらしくて……!」


キラキラした瞳でこちらを見上げるアラン少年と慌てて彼のフォローをするレオナルド。


ふふ。ゲームでの2人の関係を知っているからか何だか微笑ましく思えてくる。



「分かっている。 戦場暮らしも長かったしな。いちいちそんな事で目くじらは立てんよ。

それに、彼が私に敬意を持ってくれているのはちゃんと伝わっている。」


あれだけ私の話で盛り上がってくれたのだ。

何だか恥ずかしい気持ちはあるが、悪い気はしていない。


ゲームだと私は出てこないし、私のようなポジションのキャラもいなかった。

アランの新たな一面を知れたというファン心理的な気持ちもある。



「―――さて。 アラン君といったね? 今日来てもらったのは他でもない。 君に依頼したい仕事があるんだ。」


「……し、仕事ですか?」


「そう。 公には出来ないが、正式な公爵家からの依頼だと思ってくれて構わない。当然だが給与も出すし、経費も出す。」


色々考えたのだが、アラン君を仕事と言う形でこの件に巻き込むことにした。



彼の見た目がゲームと同じでも、もしかしたらその性格は争い事を嫌うような心優しい性格かもしれない。


もしかしたらこの世界がゲームと言うのは私の妄想で、彼が頑張る意味なんて何もないかもしれない。


そんな様々な、かもしれないを解決する万能の魔法が金銭を介した雇用契約、という訳だ。



「え、えっと……、あ、家族に相談を……」


「悪いが却下する。 これは国家機密に属する仕事だ。 契約をした後に君にだけは事情を説明するが、情報漏洩には処罰をする必要がある。」


我ながら怪しさ満点な物言いだが、無理なものは無理だ。


「しかし、この仕事が君や君の家族に対して不利益になる類のものではない事は、公爵家として約束しよう。 これはこの国の為なのだ。」


「え、えっと、つまりそれって、この国全ての為になる仕事って事……でよね?」


何やら探る様な聞き方をするアラン君。

ふむ? 何か気になる事でもあるのか……?



「……そ、その全てにオレ達平民は含まれていますか?」



なるほど。 気になるのはそこか……。


やはり彼は主人公なのだろう。

弱きを助け強きをくじく。

どうしようもなく彼の芯は主人公なのだ。



「―――あぁ、勿論だ。 ロベルト・マクスウェル・フォン・フィンスター=ヘレオールの名に掛けて、全ての遍く民草を救うと誓おう。」



目を見開いて何だか異様に驚くアラン君とレオナルド。ん? 何か変な事を言ったか?



「ディ、ディエス・イレの誓い……。」


「やっべ……。生ディエス・イレだ……。」



……ディエス・イレ?

魔族の国の首都の名前だよな?


前世知識で言うならラテン語で怒りの日を意味するカトリック教会系の宗教用語だ。



……あ。思い出した。


ディエス・イレの誓い。

それは15年前、降魔大戦の終戦条約締結会談の時だ。


当時の魔族の国の王に対して、私が言った台詞じゃん。



ロベルト・マクスウェル・フォン・フィンスター=ヘレオールの名に掛けて、人や魔族、あらゆる人種に関わらず、全ての遍く民草を救うと誓おう。



あー、言ったわ。そんな事を言ったわ。


あれは魔族の王が、自国民を守る為には戦うしかなかったのだとか何とか言い放つから、売り言葉に買い言葉で言ったんだった。


いや、私としては別に魔族を迫害するつもりもないし、嘘を言ったつもりもないのだが……。


結局その私の誓いが切っ掛けとなり、魔族との終戦条約締結に至ったのだ。



「まさかお前、お父様にこの台詞を言わせようとしてたんじゃ……?」


「そ、そんな事しないって! たまたま! ホントたまたまなんだけど……。いやぁ、まさか生ディエス・イレが聞けるなんて……。なんて言うか、生きてて良かったぁって感じしない?」


「……それは分かる。」


私を置き去りにしてまた2人でギャーギャー楽しく話し出す。



……うん。主人公だ悪役貴族だと言っても彼等はまだ15歳。


手足が伸び切っても、まだ中身は幼い部分があるのだろう。


私が15の時ってこんな感じだったかなぁ?



―――まぁ私は別に良いんだけどさ。取り敢えず、やるって事で良いんだよね……?

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


続きを読んでいただけそうでしたら、

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