3 いけ好かない女が来た
無断欠勤をしてしまったから、会社から今月いっぱいで首だと言われた。
今まで、無遅刻無欠勤だったのに、こんな事で首にされてしまうなんて。
私の後釜は直ぐに決まった。綺麗な新卒の女の子。そうか、会社は、年増の女よりも綺麗な女の子の方が良いのか。私は、きっかけを与えてしまった。私の首切りのきっかけを。
凄く落ち込む。この年で再就職は厳しいだろう。特技は無い。事務をするのは、特技には入らないだろうか。訳の分らない泥棒や痴呆老人のせいで、生活が出来なくなりそうだ。
幸い住む場所はあるが、それだけだ。
落ち込みながら家に入ると、また変なのが家に居座っている。
「***********!*****」
訳の分らない言葉を言っている。然も綺麗な金髪の若い女だ。
言っている言葉は理解できないが、何となく高飛車な物言いは伝わってくる。
私はイラッとして、側にあった金属バットで殴ってやった。女は消えた。
なんかスッキリした。
次の日、また女が現れた。
「昨日はチョット失敗したわ。翻訳ガムを食べるのを忘れてしまった。貴方!私に何か食べ物を出しなさい。そうすれば、昨日の無礼は赦してあげます。」
私は、また金属バットで殴ってやった。女はまた、消えた。何度も殴っても、死ぬわけでは無いのだから良いじゃ無い!スッキリしたし、然も妙に高飛車でイラッとする女だ。また来たら同じようにしてやる。
その次の日また来たので、殴ろうとしたら女は土下座して、
「申し訳ございませんでした。これ以上ライフをロストすればまた順番が来るまで待たなければならないの。どうか平にお許しを。」
と言って懇願してきた。こういう風に下でに出られると、殴りたくても殴ることが出来ない。
仕方がないので、買って置いた食パンにジャムを塗って、ミルクと一緒に出してあげた。
「まあ、何という美味。異世界人の食べ物は至高の味がします。あなた方は何という素晴らしい食文化を持っているのでしょう。」あの高飛車女が、低姿勢で、私を持ち上げてきた。
まあここまで来れば私も大体見当が付いてきた。この変な人々は、本当に異世界から、来ているのだ。
この世界に来れば、力を強くする事が出来る。また、それぞれの目的があって、来ているのらしいのだ。
私の家が何故か彼等のショートステイ先に選ばれてしまったと言う事よね。
鍵を掛けても、入ってこられるなら、どうしようも無い。諦めて面倒見るしかないか。
彼女は下でに出ていたのは最初だけで、やはり嫌な女だったが、最後に金貨3枚を置いていった。
若しかしてこれは、殴られた回数に関係しているのかも知れない。
今度変な奴が来たら、取り敢えず2回は殴ってやろう。金貨が3枚確保できる。
私は、会社を速攻で辞めた。会社は慌てていた。それはそうだろう。引き継ぎが出来ていないのだから。新卒の若い女の子では、大変だろう。でも、知ったことでは無い。男共が教えれば済むことだ。
自分たちが気に入って採用したのだから、自分たちで鍛えれば良いじゃ無いか。いい気味だ。
今度は、誰がいつ来ても良いように食べ物のストックを完璧にして置いた。
一日中閑なのだ。毎日、料理番組を見て、料理の研究に余念が無い。
今まで時間が無くて出来なかったことを思い切りやってみる。なんだか何かから解き放されたようで、生活に張りが出てきた。
暫くするとまた変なのが来た。今度は大勢の団体さんだ。これは殴ることは出来そうに無い。
5人の騎士の様な格好をした、立派な体格の若い男達だ。
仕方がないので、食事を大量に作って食べさせた。
「コイーズ様は、料理上手ですね。嫁のもらい手が引く手あまたでしょう。」
「然も美しい。異世界の女性はなんと素晴らしい。」
「私達に何か本を与えてくれませんでしょうか?ぶしつけな御願いをして、機嫌を悪くされましたでしょうか。」
口々に思ってもいない、歯の浮くようなお世辞を言う。
多分、前回の高飛車女に言い含められてきたのだろう。
まあ、こちらも商売だ。彼等の置いて言ってくれる金貨が当面の生活費なのだ。
大人しく彼等の要望に応えていく。二十四時間の辛抱だ。
彼等は金貨を一枚ずつ置いて消えていった。
結構な金額だ。何年かはこのまま暮らせそうなお金を稼げた。
彼等はいつまでここに来るのだろう?このまま、私の家は彼等のレベル上げのための施設になって仕舞うのだろうか。
それとも、突然異世界との繋がりが無くなるのだろうか。
次の仕事を考えなくては成らないだろう。何にしてもこのままでは大した仕事は見付からない。スキルアップを考えないとだめだ。
私は、泥棒が忘れていった小冊子をもう一度じっくり読み始めた。
【異世界人は、ある一定の見識があるので、失礼の無いようにしなければならない。もし、機嫌を損ねたら、たちどころに滅せられるであろう。異世界人の力は我らの魔法を凌駕する。例え、指一本でも異世界人を傷つければ、彼等は報復に出る。たぐいまれなる好戦的な種属である。彼等は魔法は使えなくとも、何故か我々を打ち負かせてしまえるのだ。異世界から力を得ようとする、皆の者ようよう気を付けて対処なされよ。】
まるで、私達は、魔王か何かの様では無いか。なんだこの攻略本は。
誰がこんな事を書いたのだ。きっと想像で、いい加減なことを書いたに違いない。
好戦的だなんて、とんでもない。こんなにフレンドリーな人間がどこに居るか。
いや、確かに金属バットで殴ってやったな。少しは合っているかも。