1 帰宅したら泥棒がいた
何時ものように、仕事から、疲れて帰宅。
自転車通勤はもう辞めようかな。通勤時間は、自転車こいで、二時間。
自宅は坂の上にあるので帰りは、かなりキツいのだ。
三十四歳になるお一人様は、誰も見向きもしないから、夜道でも平気だけれど、体力は日々減退している。
家は高台に建つ旧い戸建て。周りは公園なので、日曜などは子供が沢山きている。
他には家が建っていないから、まるで公園の施設のように見えているらしい。偶に公衆トイレと勘違いされるときもある。
もうそろそろ、あちこち痛んできている。これも限界に近づいているかもな。
玄関の鍵を開け、いつもの場所に鍵を置き、疲れた身体で台所に行って夕食の準備をしようとして、立ち止まる。そこに泥棒がいた!図々しくもご飯を食べている。
相手は私に気付いていないみたいだ。何時も、防犯のために用意して居た金属バットを手に取り、
「この泥棒!何やってんだてめーはー!」
と気合い一発泥棒の頭を殴ってやった。お一人様は、普段から、気を付けていなければ、いけないのだ。
だけど、殴った相手はどこかに消えて仕舞った。
「あれ?私の見間違いだった?」
確かに手応えはあった。若しかして、とうとう頭までが老化現象?
テーブルには、食事の途中のお皿があるし。カレーライスか。これは昨日の夕食の残りだ。ガスコンロには残りのカレーがまだ鍋に入って残っていた。
やはり図々しい泥棒がいたんだ。どっかへ行って仕舞ったけど。
これでは警察に連絡しても信じてはくれないだろう。友達も余り親しいのは居ないし、恋人は五年前から居ない。家族も居ない。凄く心細くなってきた。
家の鍵を総て確認して、寝室には金属バットを持って、布団に入った。
次の日、朝早く目覚めた。急いで、キッチンへ行って異常が無いか見まわすが、大丈夫だ。変な泥棒はもういない。良かった。今日は仕事はお休み。買い物に行こうとしたが、少し考え直して、部屋の掃除と溜まった洗濯物をかたづけてしまおう。
掃除機を掛けていたら、テーブルの下に小冊子が落ちていた。
「何だこれ。私の物では無い。泥棒が落としていったのか?」
ペラペラとめくってみたが、外国語だろう、全く読めない。外人の泥棒か。
本から何か落ちた。拾ってみると、赤い暗記シートだ。勉強熱心な泥棒?
「ふん、勉強熱心だろうが何だろうが、泥棒に情けは掛けられない。」
暗記シートを小冊子に挟んでテーブルに置いておく。
家の片付けと洗濯が終わり、買い物へ行く。
家の周りは子供達が遊んで居て賑やかだ。何となくホッとして買い物を済ませ、帰ってきた。
そしたら、また泥棒がいた。今度は不意を突く事が出来ない。真正面から私の方を見ている。
大声を上げようと、大きく息を吸う、「ぎっ!・・・もごっ」
泥棒に口を塞がれてしまい、更に上にのしかかられてしまった。どうすることも出来ない。
恐怖が全身に走った。ガタガタと身体が勝手に震える。
目だけは大きく見開き泥棒の顔を凝視していた。
「静かにして下さい。何もしませんから。」妙に流ちょうな日本語で外人の泥棒は言った。
でも怖い。泥棒はガムを噛みながら、ニタニタと笑っているようだ。
これから私はなにをされるのだろう。殺されて仕舞うのだろうか?
「僕はここで二十四時間過ごさなければ、次のステージに進めないので、暫く置いて下さい。」
何を言っているんだ。ステージだと!こいつ歌手なのか?
嫌だと言っても、私の意見は聞かないでしょう。大人しくしていれば、本当に出て行ってくれるのだろうか?試しに身体も力を抜いてみた。
「漸く、分ってくれましたか。良かった、では手を離しますから大声を上げないで下さいね。」
泥棒は、私からは離れずに、口から手を離した。
私は泥棒を睨んだままじっとしている。
「僕の名前は、フランシス・パヘズと言います。君の名は?」
「小泉明日香。」
「コイーズ・ミアースカですか。よろしくコイーズ」
何か変なところで切って私の事を呼んで居るが、どうでも良い。泥棒に名前なんか覚えて貰わなくたって構わない。泥棒は勝手に家の中を漁り始めた。
買い物袋を漁り、食パンを見付け勝手に食べる泥棒。パンを口に入れ眼を見開き、むさぼるように一斤食べきってしまった。
余程お腹を空かしていたのか。やつれたようには見えなかったが。
むしろ筋肉隆々、今にもはち切れそうな太もも。背は凄く高い、目算で百九十センチ以上はありそうだ。あんなのにゴツンと叩かれたら、死んで仕舞う。服はコスプレ趣味なのか、時代錯誤な革のパンツに綿のシャツ。片側だけの鎧。腰にはショートソードみたいなイミテーション(多分偽物でしょ?)の剣を佩いている。こんなのを付けて街を歩いて、職質受けなかったのか?警察官は何やっているんだか。