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王立学園の卒業パーティーで王太子殿下から改めて婚約宣言される悪役令嬢 ~王太子殿下から婚約破棄されたい公爵令嬢VS王太子殿下と結婚したくない男爵令嬢~

作者: 幻世

 今日はヴァルゴーズ王立学園の卒業パーティーです。

 パーティーも半ばを過ぎた頃、会場にティグ王太子殿下が姿を現すとわたくしの前にまでやってきました。


「私、ティグはグレド公爵家令嬢スフルを生涯の伴侶とすることを改めてここに宣言する!!」


 ティグ殿下は膝を突いてわたくしの右手を取ると手の甲に口づけして、あろうことか婚姻を宣言したのです。

 わたくしはあまりの出来事に左手に持っていた扇を落としてしまいました。


(え? 今、何ていわれましたの?)


 唖然としているとティグ殿下がわたくしを見て笑みを浮かべ、その場にいた卒業生や在校生たちからは惜しみない拍手が送られてきました。


(おかしいですわ! こんなの間違っていますわ!!)


 わたくしは周りを見渡しました。

 すると遠方の席に()()()()()()()()であるプリル男爵令嬢が拍手をしています。

 わたくしの視線に気づいたのかプリルはこちらを見てニコッと微笑んでいました。


(どういうことですの?! プリル!!)


 わたくしは予(ゲームのシナリオ)想外の出来事(通りにいかないこと)に頭の中が混乱していました。


(本来ならティグ殿下と結ばれるのはプリルのはずですわ! このままではわたくしがティグ殿下と結婚してしまうではないですか!!)


 何を間違えたのかしら?

 わたくしはこの世界に来てからの今までの学園でのことを思い出します。




◆◇◆ スフル視点 ◆◇◆


 あれは3年前のことです。

 目を覚ますとそこには見慣れない天井が目に入りました。


(ここはどこ?)


 私は上半身を起こすと部屋を見渡します。

 天井付きのベッド、全身を映す姿見鏡(すがたみきょう)、ほかにも見たことがない高価な調度品がずらりと置かれていました。


 コンコンコン・・・


 突然扉を数度叩かれて、しばらくして扉が音もなく開かれました。

 メイド服を着た女性が入ってくると私に一礼して挨拶します。


「失礼します。 お嬢様、起床の時間にございます」


 メイドの言葉を聞いて理解できていない私。


(お嬢様?)


 私がキョロキョロしているとメイドが不審に思ったのか再び声をかけてきました。


「どうされました? スフルお嬢様」


 メイドの言葉に私の脳内に衝撃が走りました。


(スフルお嬢様?!)


 私が驚いているとメイドが更なる発言(爆弾を投下)をします。


「本日はヴァルゴーズ王立学園の入学式でございます。 初日から遅刻などもってのほかです」


 メイドから出た言葉に再度衝撃が走りました。


(ヴァルゴーズ王立学園ってまさか?!)


 私は起き上がると部屋に備え付けられた姿見鏡(すがたみきょう)のところまで歩いて鏡を見ます。

 そこ()に映し出された姿を見て私は三度衝撃が走りました。


(こ、この姿は!!)


 鏡に映ったその姿は乙女ゲーム『王子の心を掴み取れ』に登場する公爵令嬢スフルでした。


(! 思い出した! 私、車に撥ねられたんだ!!)


 私はその時、すべてを思い出しました。

 私の本当の名は赤井(あかい)結女(ゆめ)

 都内の私立高校に通うごく普通の女子高生です。


 ある日、街中を1人で歩いていると目の前から暴走車が突っ込んできます。

 突然の出来事に私は動けずそのまま衝突しました。


(・・・ああ、私・・・このまま死ぬ・・・んだ・・・)


 そこで私の意識は途切れました。

 そして、気が付けば今この状態・・・公爵令嬢スフルに姿を変えていたのです。


(私が異世界に、それも乙女ゲーム『王子の心を掴み取れ』の世界に転生するなんてね)



 乙女ゲーム『王子の心を掴み取れ』

 主人公である男爵令嬢プリルが学園内で知り合ったティグ王太子殿下と愛を育むゲームです。

 乙女ゲームとしては珍しく攻略対象はティグ王太子殿下1人のみ。

 ただ、物語中の選択肢によってはエンディングが変化するマルチエンディング方式を採用しています。



(それにしても私が転生した先がまさか公爵令嬢であるスフルだとはね・・・)


 私が転生したスフルはプリルの邪魔をする所謂悪役令嬢というポジションです。


(私、このゲームが好きでよくプリルとティグ殿下をくっつけてハッピーエンドにしていたなぁ)


 私が物思いに耽っていると普段とは違う様子に戸惑いながらもメイドは声をかけてきました。


「お嬢様? どうされました?」

「え? あ? 何でもないわ」


 私は姿見鏡(すがたみきょう)に映るスフルの姿を見て決意します。


(そう、私は・・・わたくしは公爵令嬢スフル。 プリルの幸せな未来のためにも悪役に徹しますわ)




 あれから卒業までの3年間、わたくしはゲームのシナリオ通りに悪役令嬢を演じました。


(その結果がプリルではなくわたくしを選ぶだなんて!!)


 ゲームイベントの度にプリルの前に現れては妨害してきました。

 ですが、すべて無駄に終わっていることにわたくしは納得いきませんでした。


「お待ちください、ティグ殿下。 殿下にはわたくしなどよりももっと相応しいお方がおりますわ」

「何をいっているんだ、スフル。 君以上に私の(きさき)になる者などこの場には存在しないよ」


 わたくしはプリルのところまで行くと堂々と宣言します。


「ここにいるプリルこそもっとも殿下の妃に相応しいお方ですわ」

「スフル様、お戯れを。 ティグ殿下のお隣にはスフル様こそ相応しいと愚考いたします」


 プリルは一歩下がってティグ殿下の妃になることを辞退します。


「いいえ、あなたは殿下やわたくし以上に優秀な頭脳をお持ちです。 その類稀なる才を殿下の隣で使わないのは国にとって大きな損失ですわ」

「スフル様、何も自分を卑下(ひげ)してまで私を立てなくてもよろしいのではないでしょうか。 スフル様はなんにでもそつなくこなしますが、私などただ勉強しかできない無能者でございます」


 わたくしとプリルは睨みあいます。


「プリル、あなた我儘が過ぎますわよ」

「スフル様こそ私を持ち上げる意味がわかりません」


 挑発するもプリルはそれには応じませんでした。


(王族に籍を入れるなんて普通なら泣いて喜ぶ場面なのになぜプリルはそこまで頑なに拒否するのかしら)


 このままでは埒が明かないと悟ったわたくしは切り札を出すことにしました。


「ティグ殿下、わたくし今まで黙っていたことがありますの。 実はわたくし、プリルの才能に嫉妬して彼女を虐めてしまったのです」

「ティグ殿下、騙されてはなりません。 スフル様は虚言を申しております。 私はスフル様から虐めを受けたことなど1度もありません」


 わたくしがここで悪者であると大々的に暴露するもプリルが間髪入れずに虐めはないと発言します。

 これによりティグ殿下だけでなく、その場にいた者たち全員がわたくしとプリルのどちらが正しいのかわからなくなりました。




◇◆◇ プリル視点 ◇◆◇


 スフル様は己の身を犠牲にしてでも私をティグ王太子殿下とくっつけようとしてきました。


(冗談ではないわ! ()()ティグ殿下と結婚するなんて真平御免よ!!)


 私は今の人生とは別に()()の記憶があります。

 前の人生では私はスフル様の妨害を受けながらも見事ティグ殿下と結ばれて幸せな人生が訪れる・・・筈でした。




 それは前世のヴァルゴーズ王立学園の卒業パーティーでの出来事です。


「スフル! お前との婚約を破棄する!!」


 ティグ王太子殿下は公爵令嬢であらせられるスフル様に断罪を言い渡しました。

 私はというとティグ殿下の胸の中に抱かれています。


「ティグ殿下?! 婚約破棄ってどういうことですの?!」

「言葉の意味そのままだ。 君はプリルに酷い事をしていたそうじゃないか」


 ティグ王太子殿下はスフル様が私を虐めていたことをその場で告発します。


「そ、それは・・・殿下に悪い虫が近づかないために追い払っていただけですわ!!」

「プリルからすべて聞いた。 君はプリルの才能に嫉妬して学園から追い出そうとしたそうじゃないか。 現に武力、財力、そして権力を使ってまでプリルに圧力をかけていた」


 事実を突きつけると図星だったのかスフル様は狼狽えました。


「わ、わたくしは殿下の事を思って・・・」

「言い訳など聞きたくもない! 衛兵たちよ! この者(スフル)をここから摘まみ出せ!!」

「「はっ!!」」


 スフル様は2人の衛兵に両脇を掴まれて引き摺られるように会場の入り口へと運ばれていきます。


「殿下! 考え直してください! 殿下! 殿下ーーーーーっ!!」


 スフル様は・・・いや、スフルは私の前からいなくなりました。


「プリル、もう大丈夫だ。 君を虐める者はもういないよ」

「ありがとうございます、殿下。 愛しております」

「私もだよ」


 勝った。

 私は人生勝ち組になった。

 そう感じていました。

 でも、現実は残酷です。

 それはティグ殿下の父親でありゲールギ王国の国王であらせられるクリウス国王陛下との謁見の時でした。


「父上、こちらが私の新たな婚約者プリルでございます」

「初めまして、国王陛下。 プリルと申します」

「・・・」


 クリウス陛下は私たちを睨みつけてきました。

 返事がないことに疑問を感じたティグ殿下が尋ねます。


「父上?」

「ティグ、よくもわしの顔に泥を塗ってくれたな。 それだけでは飽き足らず王家を潰すつもりか?」

「え?」

「そこにいるどこの馬の骨とも知らぬ女に好意を抱いたというわけか」


 クリウス陛下の怒りは凄まじく、その威圧だけで私たちは身を縮めてしまいました。


「ち、父上」

「本来ならティグ、お前の王太子の地位も王位継承権も剥奪し、平民落ちにしてから国外追放を言い渡すところだがそれではお前が納得いかないだろう。 そこでチャンスをやろう」

「チャンス?」

「ティグ、お前にはスフル嬢との婚姻以上の利益を王家に齎せ。 それとそこの娘は我が妻セーヴィアから王妃教育を身に着けてもらう」

「「?!」」

「期限は1年。 もし、どちらか片方、あるいは両方が条件を満たさぬ場合はティグ、お前の王太子の地位の剥奪及び王位継承権を剥奪し、平民落ちにした上で2人とも国外追放とする」

「ち、父上!!」

「話は以上だ」


 それだけいうとクリウス陛下は席を立ち、部屋から出て行きました。



 それからは地獄でした。

 来る日も来る日もセーヴィア王妃殿下と家庭教師から王妃教育という名の虐めを受けることになったのです。


「どうしました? もうついていけないのかしら?」

「お、お待ちください! そ、そんな一遍には・・・」

「何をいうかと思えばこれしきで音を上げるとは。 スフルならこの程度余裕でこなすわよ」


 セーヴィア王妃殿下も家庭教師も事ある毎にスフルの名を出しては私を無能扱いします。


「さぁ! もう一度!!」

「は、はいっ!!」


 それからも王妃教育が続けられました。



 ヴァルゴーズ王立学園卒業から1年後───

 私たちはクリウス陛下の課題をなんとかクリアして、私はティグ王太子殿下と結婚して王太子妃となりました。

 そこからもまた地獄でした。


「プリルさん、あなたの最初の仕事はティグとの間に世継ぎを設けることです」

「はい、お義母様(セーヴィア王妃殿下)

「わかったなら早くティグとの世継ぎを設けなさい」


 それから私とティグ殿下は連日夜のお勤めに励みました。

 その甲斐あって私は懐妊しました。

 そして、お腹を痛めて産まれてきた子は・・・女の子でした。


「プリルさん! どうしてあなたは男の子を産まなかったの!!」

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!!」


 私はセーヴィア王妃殿下から扇で何度も叩かれました。


「普通世継ぎといえば男の子でしょ!!」

「は、はい! わかっております!!」

「それなのにあなたときたら・・・いいですか! 次こそは男の子を産むのですよ!!」

「はい!!」


 それから私は自分の身体が休まらないうちにティグ殿下に迫ります。


「ねぇ、ティグ、私2人目が欲しいです」

「すでに1人いるだろ」

「それはそうですけど・・・」

「公務で疲れているんだ。 別の日にしてくれ」

「あ! ティグ・・・」


 それだけいうとティグ殿下は眠ってしまいました。

 それからもなるべく時間を作ってもらい、私はなんとか懐妊しました。

 次に産まれてきた子は待望の男の子でした。


「プリル! よくやった!!」

「ありがとうございます! ティグ!!」


 一通り喜ぶとティグ殿下は公務へと戻っていきました。

 入れ替わりにセーヴィア王妃殿下がやってきます。


「プリルさん、よく頑張りましたね」

「ありがとうございます、お義母様(セーヴィア王妃殿下)

「では次は次男ね」


 私はセーヴィア王妃殿下の言葉に凍りつきました。


「え? お義母様(セーヴィア王妃殿下)、今なんと仰られましたか?」

「何を驚いているのですか? 長男に何かあったらどうするつもりですか?」

「そ、それは・・・」

「私たち王族はもしもの事を想定して動く必要があります。 男の子が1人産まれたくらいで満足してはなりません」

「で、ですが・・・」

「私など男の子を4人も産んでいるのですよ。 あなたにも私と同じくらい気負いしてもらわねばなりません。 いいですね?」

「は、はい・・・」



 ティグ殿下と結婚して10年後───

 私は頑張りました。

 その甲斐あって三男四女の子宝に恵まれました。

 セーヴィア王妃殿下も満足したのかそれ以上求めることはありませんでした。


(これでやっと幸せな生活が送れる)


 クリウス国王陛下とセーヴィア王妃殿下にやっと王太子妃として認められたところで事件が起こりました。

 ようやく平穏が訪れると思った矢先に今度はティグ殿下の浮気が発覚したのです。

 相手は城内のメイドたちや城下町にある貴族御用達の娼館の女性たちで、数えただけでもざっと10人以上であることが報告されました。

 話を聞くとどの女も私が妊娠中に手を出したとか。

 この頃になるとティグ殿下の心は私から離れていました。

 私はティグ殿下に詰め寄ります。


「ティグ! いったいどうして・・・」

「五月蠅いな! お前には関係ないだろ!!」

「大ありです! 側妃ならともかく、もし、ティグの子が市井に生まれたらどうするつもりですか!!」

「もし、できたなら王族として認めてやればいいだろう」

「なっ?!」


 あまりにも無責任な言葉に私は絶句します。


「話はそれだけか? 公務があるからもう行くぞ」


 それからティグ殿下は公務を理由に私を避けるようになりました。

 私も落ち着きたいとティグ殿下から距離を置くことにしました。

 しかし、このあとティグ殿下がとんでもないことをしでかします。

 しばらくしてティグ殿下が離縁を叩きつけてきました。

 これにはさすがのクリウス国王陛下とセーヴィア王妃殿下も『王族が離縁など体裁が悪い』とティグ殿下の要求を却下します。

 私とティグ殿下は仕方なく仮面夫婦を演じることにしました。


(疲れた・・・)


 ある日、私は心労からとうとう倒れてしまいます。

 ティグ殿下は見舞いに来ず、これ幸いにとほかの女のところに出かけて行きました。

 クリウス国王陛下とセーヴィア王妃殿下はというと、私の部屋にやってきては『この程度で倒れるな』とか『ティグの手綱をしっかり握っていないからこうなる』とか『この王族の恥晒しが』などお小言をいくつも頂戴することになりました。



 ティグ殿下の浮気が発覚して1年後───

 クリウス国王陛下が崩御されました。

 セーヴィア王妃殿下も心労からか床に伏しています。

 ティグ殿下は故・クリウス国王陛下から王位を引き継いで正式に国王となりました。

 それからはティグ陛下の独壇場です。

 まずは私を離宮へ追いやり、側妃を娶ると公務以外の時間をすべて側妃と暮らすようになりました。

 次に自分の弟妹たちであらせられる王弟殿下や王妹殿下を仕事にかこつけて城から追い出しました。


 代替わりにより悪政を強いるティグ陛下のやり方に貴族だけでなく国民もついていけず、王弟殿下の(もと)、ついにクーデターが行われました。

 ティグ陛下だけでなく、私や私の子供たちも全員捕まり投獄されました。

 それから数ヵ月経ったある日、私たちは手枷をされて牢から出ると城下町の中央まで連れていかれました。

 その間、民衆から罵声を浴びながら石を投げつけられます。

 到着すると王弟殿下が私たちへの罪状を読み上げます。

 すべて語り終わると私たちの身体はギロチンに固定されました。


(これでやっとこの地獄から解放される・・・もし、次の人生があるのなら別の生き方をしたいな・・・)


 王弟殿下の合図とともに紐が切られ刃が私の首に落ちてきました。

 私の意識はそこで途切れました。




「・・・はっ!」


 目覚める(意識が戻る)と見覚えのある天井が私の目に映りました。


「ここは私の部屋?」


 起き上がって周りを見ると見慣れた調度品が置かれていました。


「間違いないわ。 ここは私の部屋だわ」


 ここが実家であるエデヴァ男爵家の館であると確信します。

 部屋内にある姿見鏡(すがたみきょう)の前に立つとそこ()に映しだされたのは若かりし時(12歳)の私でした。


「嘘・・・」


 唖然としていた私ですが、正気に戻るとすぐに部屋を出て両親のところに向かいました。


(この時間なら食堂にお父様がいるはず)


 食堂に到着するとお父様が上座に座っていました。


「お父様!!」

「おお、プリルか・・・って、お前はなんて恰好をしているんだ!!」


 寝間着姿の私を見てお父様が驚いていますが、今はそれどころではありません。


「お父様! 今日は何の日ですか!!」

「今日はヴァルゴーズ王立学園の入学式がある日だよ・・・って、そうではなくて今日からお前も学園に通うのだから早く制服に着替えてきなさい!!」


 お父様の言葉に私は衝撃を受けました。


「戻ってる・・・」

「───! ───! ───!!」


 お父様が何やら説教をしているみたいですが、今の私は過去に戻ったことに衝撃を受けていました。


「・・・ル! ・・・リル! プリル!!」

「はっ!」


 いつの間にかお父様に両肩を掴まれて揺すられていました。


「プリル! 大丈夫か!!」

「は、はい・・・大丈夫です・・・すぐに着替えてきます・・・」


 私は何とか言葉を絞り出すと自室に戻りました。

 クローゼットからヴァルゴーズ王立学園の制服を取り出します。

 制服に着替えた私は食堂で朝食を摂ってからヴァルゴーズ王立学園へと向かいました。



 学園の校門前にいたのは公爵令嬢スフル様です。

 スフル様は私を見るなり突然裏庭に連れ込まれました。

 それから前世と同じく高圧的な態度で罵声を浴びせてきました。


(以前の私なら耐えられなくてその場で泣き崩れていたでしょうね)


 私はスフル様の機嫌が害われないよう平伏しながら話半分に聞きます。

 スフル様は小言が終わるとその場をあとにしました。


(ふぅ・・・何とかなったわね)


 私がホッとしているとうしろから声をかけられました。


「君、大丈夫かい?」

「!!」


 振り向くと目の前にいたのは前世と同じティグ殿下でした。

 ティグ殿下は心配そうに私を見ています。


「大丈夫ですわ。 心配していただきありがとうございます。 では、失礼します」

「あ! ちょっと、君!!」


 ティグ殿下は私を呼び止めますが私は無視してその場から離れました。

 周りに誰もいないことを確認すると私は現在の状況を整理します。


(ティグ殿下にスフル様・・・間違いなくここは前世と同じ世界ですわ。 それなら私が為すべきことはただ1つ・・・)


 これからの3年間スフル様からの虐めに耐え抜き、ティグ殿下とは関係を持たないことです。


(私は絶対にティグ殿下と結婚なんてしませんわ!!)


 私は3年間スフル様からの虐めに耐え、ティグ殿下とはなるべく接触しませんでした。

 といっても、スフル様と会った直後はどういう因果関係か知りませんが、なぜかティグ殿下が現れるのです。

 そこで決まって私を心配する言葉をかけてくるのですが、私はいつも通り『ティグ殿下、スフル様はとても素晴らしいお方ですね。 あのお方を逃がさないようしっかり傍にいてください』とスフル様を褒め称えていました。

 苦労の甲斐あってティグ殿下とは希薄な関係を築くことに成功しました。




 そして、今世でのヴァルゴーズ王立学園の卒業パーティー当日───


「私、ティグはグレド公爵家令嬢スフルを生涯の伴侶とすることを改めてここに宣言する!!」


 ティグ殿下は私とではなく婚約者であらせられるスフル様を生涯の伴侶にすると皆の前で誓ったのです。


(やったわ! これであの地獄から抜け出せるわ!!)


 喜んだのも束の間、スフル様が私のところまで来てあろうことか『ティグ殿下は私と結婚するべきだ』と(のたま)わったのです。


(冗談ではないわ! ()()ティグ殿下と結婚するなんて真平御免よ!!)


 私はティグ殿下との結婚を回避するべくスフル様に抵抗したのです。




◆◇◆ スフル視点 ◆◇◆


 ティグ王太子殿下がわたくしに婚約宣言してから5分後───

 わたくしとプリルの言い争いはまだ続いていました。


「プリル! あなたのような優秀な人材を取り入れることで王族はより良い繁栄を齎すことがなぜ理解できないのですか!!」

「スフル様、それは違います! 私のような下賤の者の血で高貴なる王族の血を(けが)すわけにはまいりません!!」


 最初こそ好奇な視線を送っていた学生たちも今は白い目でわたくしたちを見ています。


「あなたはそんなにティグ殿下と歩む未来が(結婚するのが)嫌ですの?」

「ええ、嫌ですわ!!」


 プリルは心底嫌そうな顔でティグ殿下との婚姻をきっぱりと拒否して切り捨てました。


「スフル様こそティグ殿下がお嫌なのですか?」

「わたくしはプリルとティグ殿下が結ばれる未来しか見たくないですわ!!」


 わたくしは自分のことは棚に上げて欲望を口にしていました。


(わたくしが見たいのはプリルとティグ(乙女ゲーム『王子の)殿下が結ばれる(心を掴み取れ』の)ハッピーエンドだけですわ)


 そこでプリルはわたくしを見て口角を上げます。


「スフル様はティグ殿下のことはお嫌ではないのですね。 ティグ殿下、スフル様は殿下との婚姻を受諾いたしました」

「ちょ、ちょっと! 何をいって・・・」

「そうか! 私との婚姻を了承してくれたか!!」


 プリルの一言で、いつの間にかわたくしとティグ殿下との婚姻が成立している状態にさせられました。

 周りで見ていた学生たちから惜しみない盛大な拍手が送られてきます。


(くっ! こうなったら死なば諸共っ!!)


 わたくしはプリルを道連れにすることにしました。


「ティグ殿下! プリルを側妃として迎えてください! そうしなければわたくしはこの場で命を絶ちます!!」

「なっ?! 何をいっているのですか!!」


 わたくしは近くのテーブルに行くとナイフを掴み、自らの喉元に刃先を突きつけようとします。

 しかし、ティグ殿下がわたくしの手首を掴み押さえ込みました。


「やめろ! スフル! やめるんだ!!」

「放してください! 殿下!!」

「プリルを側妃に迎えればいいのだろ? それなら望み通りにしてやる!!」

「本当ですの?」

「ああ、本当だ」


 わたくしはプリルを見ると口角を上げます。


「私、ティグは男爵令嬢であるプリルを側妃として迎えることをここに宣言する!!」


 ティグ殿下は皆の前でプリルを側妃として迎えることを宣言しました。

 プリルはというと、絶望的な顔をしています。


「ティグ殿下! スフル様の発言に惑わされてはなりません!!」

「すまない、プリル。 私たちの未来のためにも犠牲になってくれ」

「嫌です! ティグ殿下と結婚なんて絶対嫌です!!」


 このあと、プリルが半狂乱したことにより卒業パーティーどころではなくなったのはいうまでもありません。

 後日、わたくしとティグ殿下はプリルに側妃になってもらうよう何度も何度も頭を下げていくつか条件を飲むことで渋々了承を得ることに成功しました。




 あれから10年後───

 わたくしとプリルはティグ殿下と結婚して王族の仲間入りとなりました。

 学園を卒業してから1年後にわたくしが正妃として、それから更に1年過ぎて王妃教育が完了したプリルが側妃としてティグ殿下へと嫁ぎました。

 それからわたくしたちはそれぞれ男子と女子を設けることになります。


 結婚してから一変プリルはティグ殿下の周りに大量の監視者をつけて、わたくしとプリルに逐一報告させました。

 ティグ殿下が苦言を呈すると、プリルが『ティグ様、まさかスフル様と私以外に浮気なんてしてないですよね?』と笑顔ではあるが鋭い眼光でティグ殿下を睨みつけます。

 それに対してティグ殿下は『そ、そんなことないだろ』と全身汗だくで曖昧な笑いとともに視線を逸らします。

 これによりティグ殿下は国内外でも有名な恐妻家とも知られるようになりました。

 わたくしまでも恐妻扱いされたのは納得いきませんが、このおかげでティグ殿下がわたくしたち以外に浮気をするようなことは決してありませんでした。


 また、老齢のクリウス国王陛下から王位を受け継いだティグ殿下改めティグ陛下は、国民のために毎日身を()にして働いています。

 ティグが国王になった今もわたくしたちは仲睦まじく(?)日々の生活を送っています。




 わたくしの心の中にいる結女は『これはちょっと違う!!』と叫んでいますが、最終的にはプリルとティグがくっついたので結果として良しとしました。


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