第6話:「評価急上昇! 次なる目標は着実なステップアップ」
ワシが凡人顔の少年として「錬章院」の2年生に戻ってきてから、もうすぐ半年ほど経つ。タイムリープして中身50年分の知恵を持ち込み、最初はYからNクラスに達しただけで大騒ぎだったが、今ではN上位に至り、周囲の見る目がガラリと変わってしまった。こうなってくると、うれしい半面「一体どこまで成り上がっていくのか」と冷ややかに観察する視線も感じ始める。
朝、校庭を歩いているとクラスメイトのマイロが近づいてくる。彼は以前よりワシへの態度が素直に尊敬を含んでいるが、何となく落ち着かない様子だ。
「バル、お前最近すごい評判だな。N上位って在学中にはなかなかいかないレベルだろ?」
「まあな。でも勘違いするなよ。N上位っつっても上にはMやL、さらにK、J、Hって段階がある。オレ……ワシは別に天下を取るだの無茶なことを言う気はない。とりあえず今はN上位で十分評価が上がったが、そこから先は一歩ずつ上げていくしかねえ。」
そう、ワシは身の程をわきまえているつもりだ。前世で苦労したからこそ、現実的な目標設定を心がける。いきなりHクラスやそれ以上を夢見るなんて無謀もいいところだ。まずはMが遠い目標、そして在学中にLやK、そこまで行ければバンザイだ。
授業が始まる。教室で魔力理論の講義を受けていると、周囲の視線がちらちらこちらに向くのが分かる。「あの凡人顔だったバルが、今やN上位だって……」という囁きが聞こえる。何だかくすぐったいが、浮かれるわけにはいかない。N上位なんて、才能ある天才から見れば通過点かもしれない。それこそリールやガルスのような連中は、早ければ在学中にMに手が届くかもしれない。そう考えれば、ワシはまだまだ油断できない。
昼休み、食堂で栄養スープを改造してもらいながら、ワシは今後の計画を頭で練る。次の中間試験では対人戦の実技が行われるという話だ。魔物討伐は実戦経験になるが、対人戦はまた違ったスキルを要求される。人間相手なら知略やフェイントがより有効で、ワシの強みが存分に生きる。ここで好成績を残せば、名声はさらに高まり、その先の特別課外活動などへの道が開ける可能性もある。
噂によれば、成績優秀者には学院外の小規模な遺跡調査参加の機会があるらしい。遺跡と聞いてワシは前世の記憶がうずく。この世界には古代の知識やアイテムが眠っている場所が多々あり、それらを入手することで魔力制御や身体能力を底上げできるケースがある。もし遺跡調査に参加できれば、在学中にさらに成長し、LやKへの足場を固めることも夢じゃない。
夕方、ワシは自主的なトレーニングを終え、図書室へ向かう。そこでまたあのサグリ・リフト先輩に会う。彼は3年生で、なぜかワシに興味を持っているらしいが、正体はつかめない。サグリは薄暗い本棚の前で本を眺めながら、静かに語りかける。
「バルフォール、N上位まで行ったそうだな。急成長して有頂天になるのはよくないぞ。君は割と冷静そうだから大丈夫だろうがね。」
「わかってる。N上位程度で舞い上がったらその先はないさ。ワシは少しずつステップを踏んで、卒業時にHくらいに行けたら御の字だと思ってる。」
サグリは微笑む。「立派な心がけだ。欲張りすぎず、段階を踏むなら、いずれ外部活動で貴重な経験を積めるだろう。実は近々、遺跡調査枠の話が出ている。成績優秀者にそのチャンスが与えられるかもしれない。まあ、まずは中間試験で名を上げることだな。」
この先輩、情報に通じてるな。遺跡調査の噂はほんとらしい。ワシは心の中でガッツポーズ。「よし、ならば対人戦で上位入賞が最優先だ。」と決意を新たにする。
部屋に戻ってノートを開く。対人戦では、いろいろなタイプがいるだろう。剣士タイプ、魔法タイプ、バランス型。それに前に実戦で当たったコランダみたいな奴ももう一度絡んでくるかもしれない。リールやガルスといった才能者とも当たる可能性がある。彼らを相手にどう立ち回るか、頭を使う必要がある。
前世の50年分の経験から、対人戦で大事なのは「先読み」と「攪乱」だ。相手がどう動くか、どんな心理で攻めるか。それを逆手にとって罠を仕掛ける。実力差があっても、相手を混乱させればワシの経験が活きる。そうやってコツコツ勝ちを積み重ねれば、自然と周囲は「バルは侮れない」と認める。名声は成長への足がかりだ。
今回は焦らず、一歩一歩確実に積み上げていく。N上位を維持しつつ、次はMを目標にしようと考えてはいるが、それもすぐには無理だ。Mまで行くには相当な才覚と時間、経験が必要だろう。ならば遺跡調査で得られるものが何か分からないが、そこでレアな魔導書や特性鉱石などを手に入れれば、魔力活用術を高められるかもしれない。
夜遅く、窓から月明かりが差し込む寮部屋で、ワシは軽く深呼吸。ここまで順風満帆に見えるが油断禁物だ。もしかすると、他の生徒や上級生の中にはワシに嫉妬したり、足を引っ張ろうとする者が出るかもしれない。強くなると敵も増えるが、そういう波を乗り越えるのも実力のうちだ。
「二度目の青春……最初はちょっとずる賢くなった程度でドヤ顔してたが、今は本気で先を見据えてるな、ワシは。」と独り言を漏らす。かつての凡人冒険者だった頃、自分はただ必死に生き延びるだけで先を考える余裕がなかった。今は知識と若い肉体を駆使して計画的に行動できる。これほど面白いことはない。
明日からは本格的に対人戦対策を始めよう。身体のキレを維持するために朝のランニングは欠かさず、魔力制御のイメージトレーニングもしっかりやる。たとえば、木剣を魔力でほんの少し持ち上げる練習や、足元の踏み込みを魔力でサポートする手法を確立すれば、対人戦で予期せぬ機動力を発揮できるかもしれない。
さらに、後輩や同級生へのアドバイスを欠かさずに行って、人情味を示しつつ、人間関係を良好に保つ。これでいざというとき情報を得たり、ちょっとしたサポートを受けることもできるだろう。凡人顔でブサイク寄りの外見だが、そこに愛嬌と人助けの精神を添えれば、誰もがワシを好まない理由はない。
こうしてワシはN上位を足場に、さらなる成長のための土台固めを開始した。対人戦、遺跡調査、学外活動……すべてが将来のためのステップ。急にMやLを口にしなくてもいい。必ず今できることからコツコツ実践し、やがて卒業時にはHクラスまで行けるよう努力を続ける。
翌朝、早起きして校庭を走る時、ワシは心中でつぶやく。「二度目の青春、まだ始まったばかりだ。焦ることはない、一歩一歩だ。」
日差しがまぶしく、どこか清々しい気分だ。この穏やかな決意こそ、ワシが求めた新しい人生の形かもしれない。
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