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第34話「闇夜の潜入試験」

 最上級学年での日々は、息つく暇もないほど多彩な試験が用意されていた。その月の試験は、これまでとは毛色が異なり、拠点防衛や正面戦闘ではなく「潜入」と「回収」を主題とするという。指定されたエリアは、仮想的な要塞内部を模した特設フィールドで、見張りの魔物や仕掛けが多数配置されているらしい。


 「今回は戦闘力だけじゃなく、忍び足や気配遮断、魔物を避けて目的物を入手する冷静さが必要ってことか。」ワシは寮の廊下で張り出された説明書を読み、独りごちる。




 リールが近づいてきて、肩越しに説明をのぞく。「要塞潜入試験…M級相当以上の実力を想定した難度みたいね。正面突破は無駄に消耗するだろうし、魔物がM級なら正面戦闘で体力を削られたら目標物まで辿り着けないわ。」


 ワシはうなずく。「そうだな。前回の拠点防衛で身につけた持久戦や省エネ戦術が活きるかもしれない。短期決戦は得意だが、今回はあえて戦わずに済むなら戦わない方がいい。M級魔物を正面から倒せるとはいえ、余計な戦闘は避けて消耗を減らそう。」




 リールは遠くを見つめるように、「忍び足で魔物をすり抜けて、目標物を入手して戻る…高い魔力感知能力を持つ魔物もいるかもね。その場合、光や音を出さず、むしろ静寂を活かす必要があるわ。」


 ワシは考え込む。「確かに、光や音で誘導する戦術は騒がしすぎるかもしれない。今回は静かに動き、魔物の巡回ルートを読む知略が要る。もしどうしても戦闘になるなら、最小限の動きで一撃で倒すしかない。」




 夕方、ワシは学内の小講義室で、上級生が残した潜入戦記録を調べてみる。かつてM級魔物が守る宝物を少人数で回収した逸話によれば、敵の行動パターンを観察して安全なタイミングに動く、あるいはわざと微小な音を別の方向で立てて魔物の配置を乱すなど、非常に繊細な戦術が使われていたらしい。


 「なるほど、静かに紛れ込むだけでなく、一瞬のチャンスを音で作る手もあるか。」とワシはメモを取る。




 夜、リールと校庭を歩きながら、明日の試験について意見を交わす。「前回までの試験で、あんたはM級を正面から倒す方法も覚えたけど、今回はあまり戦わないほうがいいんでしょ?」


 ワシは静かにうなずく。「そうだな。今回はむしろ戦わずに結果を出す方向を優先しよう。魔物を利用して他参加者を妨害するのもありだが、音や光を控えるなら、そもそも他人を気にせず最短ルートで目標を入手する手もある。」




 リールが小声で「ワシ…」と呼びかけるが、ワシは特に反応せず先を続ける。「静かに行動すれば、あんたのいたずら呼びにも動揺しないんだ。」と内心で思いながら、黙ってスルーする。


 リールは少し肩をすくめるが、特に話を広げず、「じゃあ、静寂戦術ね。音は最後の手段、光も弱めにして、魔物の感知から逃れる。もしバレたら短期決戦で即仕留め、また隠れる。」




 翌朝、要塞潜入試験が始まる。ワシは装備を軽量化し、音を最小限に抑える工夫を凝らす。会場となる特設フィールドは石造りの回廊と中庭を持ち、その中にM級魔物が巡回している。


 スタート合図でワシはすぐに動かず、まず状況を観察する。魔物が一定周期で通り過ぎる廊下、背後に回り込めば無抵抗で通過できる箇所、そうした情報を頭に叩き込む。




 数分後、魔物が廊下を離れた瞬間を狙い、ワシは無音のステップで前進する。先ほどは派手な戦術をよく使っていたが、今回は極力静寂を保つ。足元を確認し、床の軋みがほとんどない場所を選びながら移動する。この慎重さが功を奏し、魔物に気付かれずに目標物を収めた宝箱の近くへ接近できた。




 しかし、宝箱の周囲には一匹のM級魔物が常に待機しているようだ。倒さずに入手は困難。ここで軽い音を逆方向で発生させることで、魔物が一瞬振り向いたスキに、ワシは背後に回り込んで短剣を突き立てる。最短時間で倒すことに成功し、ほとんど疲れずに資源をゲット。




 戻り道も同様に慎重に動く。余計な争いは避け、他参加者とも交差しないルートを選ぶ。結果的に、ワシは最小限の消耗で目標を持ち帰ることに成功し、上位成績を収めた。


 試験終了後、教官から「M級相当と認定されているだけあって、戦い方に余裕が感じられる。状況に合わせて策を変えられているのが素晴らしい。」と誉められる。




 帰り道、リールが出迎え、「どうだった?」と聞いてくる。


 ワシは微笑み、「一度も慌てることなく攻略できた。M級相手に焦らず対応できる段階になった感じがする。これでまた一歩K級に近づいたかもしれない。」


 リールは頷き、「あたしも前より消耗を抑えて動けるようになったわ。あんたがM級を楽に処理するのを見て、あたしも見習わないと。」




 夜、部屋でノートを開き、今回の試験で得た知見を書く。静かな潜入戦でもM級を安定制圧できた。初期は短期決戦や誘導で奇襲をかける戦術が中心だったが、今や持久や隠密行動を組み合わせ、より総合的な戦法が身に付きつつある。




 「この調子なら、次々に出る学内イベントや試験で欠点を補い、卒業時にはK級手前まで行ける確信が強まる。」心中で自信を固める。


 窓外、星が瞬く夜空を見上げて、ワシはそっと目を閉じる。これからも種々の条件下でM級相手の戦闘・非戦闘対応をマスターすれば、いつかL級、そしてK級に届くはずだ。

読んでいただきありがとうございます。

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