第30話「闇潜む迷宮での新戦術」
新学期が始まってから一ヶ月あまり、学院はまた新たな実践形式の試験を告知した。今回は閉ざされた迷宮を舞台に、複数のM級魔物が徘徊し、参加者は指定の収集物を持ち帰るという難度の高い課題らしい。先日の暗所戦術が効いた前回の試合を思い出し、ワシは再び知略を巡らせる。
午後、ワシはリールとともに学院の資料室へ足を運んだ。今回の迷宮は人工的に作られた複雑な通路構造と、時折仕掛けられた落とし穴、反響する音を利用した罠などが予告されている。光源の制約はさほど厳しくないが、今回は敵だけでなく仕掛けにも対策が必要だ。
「前回は真っ暗な洞窟で苦労したけど、今回は光が確保しやすい分、敵もこちらを見つけやすいわよ。M級相手なら、今度は単純な誘導だけじゃなく、周囲の仕掛けを逆利用できないか考えてみたら?」リールが地図の一部を指しながら提案する。
ワシは地図を見つめ「なるほど、この迷宮には足場が不安定なゾーンもある。そこに誘導すれば、魔物の俊敏性を殺せるかもしれない。光や音を使って魔物を動かし、バランスを崩した瞬間、一撃で決める戦法が有効だろう。」
リールは納得げに頷く。「あと、この試験は個人参加だけど、今回は同盟禁止って書いてないわね。前回は制限があったりなかったりだったけど、今回はどうなのかしら?」
ワシは告知を見直す。「ここには明記なしだな。ただ、『必要なら臨機応変に動け』とある。臨時的な協力は黙認されるかもしれない。まぁ、他人を信用しすぎるのも危険だが。」
リールが微笑んで「あんた、信用よりまず利用を考えるでしょ?」と軽い冗談を飛ばす。「ワシ、困ってる人を使い捨てとかしないわよね?」
ワシは苦笑して首を振る。「勘弁してくれ。あくまで戦術だ。必要なら短期間の共闘を申し出て、M級魔物を倒してから、目標物をそれぞれ確保する。うまくいけば、最後にはお互い別ルートでゴールできるじゃないか。損得勘定が双方に合えば、衝突せずに済むかもしれん。」
リールは「ふーん」と納得し、軽く笑う。「相変わらずしたたかね。じゃあ、もしあたしがあんたを『ワシ』って呼んで、戸惑わせる時も、損得を考えているわけ?」
ワシは慌ててツッコむ。「そっちこそ、ふざけるなよ。あんたが『ワシ』呼びするのはただのからかいでしょ?そっちは無益だろ。」
彼女は肩をすくめ、「ちょっとした逆要素がないと退屈じゃない。ほら、こうしてあんたが焦ると面白いから。」
ワシは鼻を鳴らす。「やれやれ、仕方ないな。でも、今は真面目に作戦を考えてるんだからほどほどにしろ。」
夜、寮の部屋でノートを広げ、明日の迷宮試験に備える。迷宮内でM級魔物と対峙する場合、以前の洞窟戦法や暗所対応、誘導戦術を混ぜ合わせ、さらに地形トラップを利用する。
たとえば、魔物に追われたら音で逆側へ誘導し、光で一瞬目を引かせて足場の悪い場所へ誘い込む。そこを避けてワシは別ルートで資源を確保する。場合によっては、ほかのN級上位者と一瞬言葉を交わし、共闘して魔物を倒してから仲良く撤収する方法もありえる。
今回の試験では、M級魔物を倒すか無視するか、資源を早く取るか、先に魔物を処理するかなど、無数の選択肢が生まれそうだ。
「その決断力がランクアップへの近道だな。」心中でワシは確信する。1年後にK級近くまで行くには、このような実戦形式の試験で頭を使い、経験を積むことが不可欠だ。
朝日が昇る頃、ワシは起き上がって軽い柔軟をする。この一年で、こうした月例の試験が何度もあるだろう。そのたびに戦術を更新し、M級安定化、そしてK級手前まで腕を磨く。M級相手に困らなくなれば、自ずと道は開けるはずだ。
食堂でリールと顔を合わせる。彼女が口元に笑みを浮かべて「今日も頑張るわよ、ワシ…じゃなかった、バル。」とややわざとらしく呼ぶ。
ワシは即座に「いきなり冒頭からやめろ!」とツッコミ、周囲がくすっと笑う。いつも通りの空気を作り、緊張を和らげてくれる。
「今日は迷宮で動きを試せるし、次回のイベントは何が来るかな?」リールがスプーンでスープをかき混ぜながら言う。「あたしたちがM級相手にどれくらい安定できるか、先生たちも注目してると思うわ。」
ワシは「次は難関地帯での連続戦かもしれない。どんどん負荷をかけてくる気がする」と予想する。
朝食を済ませ、迷宮試験の集合場所へ向かう道すがら、空が澄み渡って青い。まだ1年ある、という余裕が心強い。毎月のようなイベントや試験を利用して、確実に底上げしていけば、卒業時にK級まで到達する夢が形になる。
ワシはリールに手を振り、「お互い頑張ろう。今回は一緒じゃないが、最後に笑えるのは知略を使い続けた者だ。」
リールは微笑み、「あたしも負けないよ。あとで結果を報告し合いましょう。」
こうして月例の試験に臨む。M級魔物、複雑な迷宮、全てがシミュレート済み。
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