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第19話「ローテーション任務への備え」


 翌日、学院の教室では戦術学の講義が行われていた。講師が黒板に魔物種別とランク相当の人数必要数を整理して書いている。Nクラス同士の組み合わせでM級を処理可能な事例を挙げ、最近実施された護衛任務を例に出した。当たり前だが、それはワシとリールが成功させた任務だ。

 生徒たちは興味津々でメモを取り、講師は「N級2人でM級処理が安定すれば、次はN級3人でL級に挑む余地が生まれる。この理論を発展させれば、学院卒業前に多様な経験を積める」と結論づける。


 ワシは静かにノートに書き込みながら、リールが隣で小さく微笑んでいるのを感じる。自分たちの成果が教室内で理論的な裏付けとして語られるのは不思議な気分だ。成績優秀者として扱われることにも慣れてきたが、慢心しないよう心がける。


 休み時間、リールが頬杖をついてこちらを見てくる。「あんたがいなきゃこの理論、実証できなかったわね。」

 「お前がいたからだ。オレ1人じゃM級を一瞬で片付けるなんて無理だったろう。光と斬撃の連携が鍵だった。」

 リールは満足そうに目を細め、「そう言われると嬉しい。あんた、やっぱり気が利くわね」と照れるように目線を落とした。


 放課後、ガルスが訓練場から帰る途中で合流。「お前ら、今度のローテーション任務はいつ開始するんだ?」

 「来週あたりだって聞いた。オレたちは週末に砦周辺を巡回するローテに割り当てられそうだ。」ワシが答えると、ガルスは「そっか。オレたちは別のエリアでM級生息地を巡回するらしい。場所は違えど、同時期に同じような任務をしてるって面白いな。」

 リールが首を傾げる。「同時期にN級ペア複数が出るのは初めてじゃない?学院全体でN級を有効活用する試行が始まったんだろうね。」

 「成功例が増えれば、N級者たちが経験を積み、将来L級、K級へ踏み込む布石になるんだ。」ワシは納得するように頷く。


 夕暮れ、リールがまたオレのもとにやってきて、練習場で少し話したいという。「あのさ、もしこのローテーション任務が軌道に乗って、あたしたちが定期的にM級と渡り合えるようになったら、次は何を目指す?」

 「そうだな…N級を安定させてM級を確実に処理できるようになれば、N3人揃えてL級相当への挑戦も視野に入る。時間はかかるが、いずれ学院はL級任務を用意するかもしれない。」

 リールは少し息を詰まらせ、「L級か…N3人か4人必要になる難度ね。それこそガルスや先輩、ほかのN級者も交えて、もっと複雑な連携が必要になりそう。」

 「今のうちに2人で戦術センスを高めておけば、あと1人か2人を加えてもスムーズに連携できるはずだ。光と攻撃のコンビネーションをより発展させ、状況に合わせた即興戦術にも対応できるようになれば、どんな仲間が加わっても柔軟に動ける。」ワシは自信を持って言う。


 リールは「うん、そうだね。あたしもそれがいいと思う」と微笑む。近くで風が柔らかく髪を揺らし、彼女の頬をなぞる。その表情はまるで今後の可能性に胸を躍らせているようだ。

 隣を歩く彼女にとって、ワシはもう単なるライバルやクラスメイト以上の存在になっているのだろう。彼女の瞳に揺れる光は、将来の期待と少しの甘さを含んでいる。


 夜、部屋に戻り、ノートに明日の練習計画を記す。ローテーション任務まであとわずか。その時までに光幻惑や一撃必殺の精度をもう少し高めておきたい。おそらくリールも同じことを考えているはずだ。

 日々の地道な努力が次の成功につながり、その成功がさらに上位ランクへの足がかりになる。この繰り返しでオレたちは強くなる。恋心さえもその流れの中に自然に溶け込み、二人を前へ押し出している。


 窓を開けると夜風が心地よい。魔物との戦いと青春が交錯する学院生活が、いつまでも続くわけじゃないと知りながら、今はこの幸せな充実感を噛み締めておく。リールの優しい笑顔、ガルスの燃える闘志、先輩たちの期待、一つ一つが未来への原動力だ。


―――――



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