クリ誕!!
高校に通い始めて1年目。どこにでもいる普通の学生だ。
……ただ、とことん俺は自転車運がない。もしかするとそこだけ特出しているかもしれない。
毎月毎月、毎週毎週、必ず自転車で何かをやらかす。
ある時はブレーキが利かないで川に落ちたり、ある時はパンクして学校に大遅刻したり、ある時は1週間連続で毎朝転びまくったり、道の途中で自転車ごと縦に半回転して背中を強打したり………。
でもそこまでついてない訳じゃないと思ってた。
転んでも回転しても引っくり返っても、なんやかんやでかすり傷程度。病院や警察沙汰になる程じゃなかった。
悪運だけは強いと思ってた………思っていたのに……………。
☆―――★―――☆
12月25日
朝、前日降っていた今年初めての雪が少し溶けだしている道を自転車でこぎまくる。
進むごとに細かく連続的に吐き出す息の白さが寒さを強調させていて、よけいに冬と感じさせる。
この季節になると毎朝起きるのだけでもしんどい、ましてやこの凍える寒さの中を毎日自転車で登校するのは地獄だ。
………だけど今日だけは違う。いつもと違って体中にエネルギーを感じて、自然と体が動きだす。テンションが1人でに上がってくる。
何故に朝からこんなにテンションが高いかというと、その理由はまず第1に今日が学校の修行式だから。明日からは待ちに待った冬休みだ。
第2に今日がクリスマス、そしてなんと俺の誕生日だから。こういい事が重なってくると変に楽しくなってくる。
変な妄想やら想像やらを楽しみながら雪道も何その、ズイズイ突き進んでいく。
途中、雪の塊に足を取られ転びそうになりながらもとりあえず学校付近まで到着。予想以上の雪に見舞われ時間は遅刻すんぜん。
ここまでは良かった、別に遅行ぐらいしても良かった。そもそもの次の選択がとても悔やまれてならない。
ここで俺は少し危険かと思ったが近道のためあまり人気がない坂道を通ることにした。
雪もぜんぜんなくて安全だと思ったんだよ。
だが坂道を下ろうとした瞬間……
「キャッ!!!」
坂の中盤辺りで悲鳴と共に女の子を乗せた自転車がスリップ⇒⇒⇒鈍い音が響く⇒⇒俺、絶句。
頭でも打っていたら大変だと思った俺は、ほっとく訳にもいかず自転車で女の子に近ずいていった。
パニックにでもなっていたんだろう。その時の俺は凄いスピードで坂道を下ってしまった。
せめて自転車を降りていたならば……。
坂を降り始めて数秒後、俺の視界は一瞬で地面に投げ出されそのまま坂の上で転がって行った。
バカだ……馬鹿すぎるよ……俺……地面だって凍ってるだろうに。
立ちあがろうと思ったが頭を打ったらしく気持ち悪くて立てない。しかもクラクラするのに加えて体の節々がズキズキと痛む。
自分が発する白く荒い息を感じながらも動かない体を何とか動かして女の子の傍まで行ってみる。顔は良く見えないが、この制服からして高校生だろう。小さく人形みたいに華奢な体が自転車からほうりだされている。目立って血が出ていたりはしていが気を失っているみたいだ。
頭でも打っていたらヤバいと思った俺は大急ぎで119番。頭から流れでる生温かい血……鉄の味……気持ち悪かったが、まったく構っていられなかった。
大急ぎで今の状況を電話越しの相手に伝えようとしたが、うまく言葉にならない。寒さ痛みで意識がはっきりとしない。
…………上手く伝わったかは分らない。でも何とか電話を終えた俺は安心からか完璧に意識を失っってしまった。
体全体に伝わるアスファルトの凍りつく様な寒さが凄く不快。傷に靡く冷たい風が不快。
一瞬にし冬が、今日という日が嫌いになった。
Bad Birthdayだよ………本当に。
☆―――★―――☆
そして目が覚めると俺は白いベッドの上いた。腕には点滴、体や頭には包帯だらけだ。まわりはカーテンで閉め切られていて、電気も付いてないで真っ暗。
近くにある台の上には Happy Birthdayと書かれた紙と小さなケーキ。誰か来てくれたんだろうな……。
カーテンを動かして辺り一面の暗闇に目を凝らそうとしてみる。
するとそこには真向かいでベッドから身を起こして窓の外を見ている人がいた。
顔は暗闇で見えないのだが誰と聞かなくても俺が助けた女の子だ。何となく分る……そんな気がする。
「雪でも降ってるの?」
俺の突然の問いかけに驚いた様に影のシルエットが動く。
数秒の後、まだまだ幼く聞こえる女の子の声が病室に響く。
「うん、ホワイトクリスマスだね」
俺のベッドからじゃ光がないと外の景色を見る事が出来ない。でもきっと銀世界が広がっているんだろうな……。
「あの……」
「……どうしたの?」
声から察するに少し落ち込み気味の声が聞こえてくる。
「ありがとうございました……後、すみませんでした!!」
刹那、彼女が言った言葉を理解するのに時間がかかった。
「あぁ、いいよいいよ。俺が勝手に慌てて被害増やしただけだしさ……」
「いえ、それだけじゃなくて救急車を呼んでくれたことです。私あのままだと危なかったらしいので……」
また一段と彼女の声のトーンが下がっている。
何も音がしない無音の部屋だ。声だけで相手の感情が良く分る。
「………そっか、じゃあ良かったよ」
まぁ、これで俺が自転車事故を起こした事にも意味が出てくるの……かな。
「あ、あと……」
「うん?」
俺が一人苦笑いしていると、もじもじした声で俺に話しかけてくる。
「えと……お誕生日おめでとうございます」
……え?
その瞬間、窓の外から雲を押しのけて月と星の明かりが彼女をてらす。 猫の様にクリクリな瞳、笑うと浮かぶえくぼ、綺麗でふわふわな髪に人形の様に整った顔立ち。
雪と星のイルミネーションを背にした彼女はクリスマスの夜に舞い降りた天使の様だった。
その笑顔、しぐさに心が癒される。明かりに照らされて俺の顔も見えたのだろう。警戒心が無くなったかの様に彼女の表情が緩んでいる。
「綺麗だ……」
思わずポツリと呟いてしまった。
「でしょ!!凄く綺麗でしょ、この景色」
違うって……。
☆―――★―――☆
もの凄い事故を起こしてしまって親にも怒られるだろうし、学校や友達からも何を言われるか分らない。
でもそんな事は一瞬で忘れる事が出来た。
この時、君に逢えただけで、誕生日を祝ってもらえただけで十分に嬉しくて満足。
それ程の衝撃で喜び。
「うん……ありがとう」
お礼を言ったのは俺だが、思わず頬が緩む。
「どういたしまして」
彼女の頬も緩む。
お互いに笑いだしてしまう。
笑い声が静寂な時を包み込む。何が可笑しいかはたぶん2人ともよく分らない。
でもこの時がとても心地よかった。それは確かな事。
自分の誕生日を祝ってくれる人がいる。たった1人でもいてくれる。
天使の様な君によって……。
――ゆき色に染まる街から
――雪白に光る心で
――始まる世界へ永遠に
やっぱ俺、悪運強いわ。
今日という日が、皆さんにとって幸せの日でありますように。