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探偵マイク  作者: 光翔
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9 カールギャングの遺言①

脱出口を探しながら振り返った瞬間、勇介の背後にいたカイが素早く動き出した。

短刀を抜き放ち、一閃。

会議室に鈍い音が響き渡る。

勇介は、背中から受けた一撃でよろめき、そのまま床に倒れ伏した。

息絶えた勇介を確認し、ほっとしたような安堵が会議室に広がる。

皆が安堵の表情を浮かべる中、突如として悲鳴が上がった。

ジェシーが、両手で琢見を抱きかかえていた。

そして、恐怖に満ちた目で、琢見の腹部を凝視している。

琢見の腹部に、勇介が持っていたはずの短刀が深く突き刺さっていた。

会議室は再び、混乱に包まれた。

パニックに陥った幹部たちは、次々と琢見に駆け寄り、安否を叫び続けた。

しかし、琢見は顔面を蒼白にさせ、堪え忍ぶような苦痛に襲われている様子で、声すら出せない。

傍らで琢見を抱きかかえたジェシーは、心配そうな声で何度も

「…お父さん!」

と、彼の名前を呼び続けた。

琢見は、ジェシーを見つめるも、返す言葉もなく、ただ薄く開けた瞼の裏で何かを必死に訴えかけているように見えた。

パニックに陥った古市が我に返り、

「…120! 120番だ!」

と叫び、救急車を呼んだ。

救急隊が到着すると、応急処置を施された琢見は、そのまま病院へと搬送された。

高齢の琢見にとって、臓器を損傷した今回の刺傷は大きな負担となった。

緊急手術が行われ、一晩中医師が処置を続けた結果、一命は取り留められたものの、

「…容態は極めて深刻です。回復の見込みは、残念ながらあまりありません。ご家族の方には、お早めに病室に来ていただき、遺言の取り交わしなどをお勧めします」

と、医師は厳しい表情で伝えてきた。

病室に案内されたジェシーは、落ち込んだ様子でベッドの上の琢見を見つめていた。

「…お父さん」

と、小さく呟いた。

悲しみに暮れた様子のジェシーを見つめ、琢見は

「…泣くな、ジェシー」

と、かすかな声で話しかけた。

傍で看病するジェシーの存在が、ヤクザとしての自分にとって最高の最期だとでも言うように、安堵の表情すら浮かんでいるようだった。

そして、最期の言葉をジェシーに伝え始めた。

最期の言葉を伝えることは、琢見にとって大きな負担だったようだ。

話す度に弱っていく様子を見せながら、琢見はジェシーの手を握り、

「…お前の目は、そっくりだ… お前の… お母さんに…」

と、呟いた。

「…お母さんに… 会いに行く」

そう言って、息を引き取った。

病室の外では、医師を威嚇する古市の怒鳴り声が響いていた。

「…何とかしろ! 治療しろ! さもなければ、てめえを…!」

と、喚声を上げる古市の姿があった。

医師を脅しても、琢見の容態が好転するわけでもないことを古市は薄々感づいていた。

それは、ただ溢れ出る感情を抑えきれなかっただけの行動だった。

一方、廊下の一角で、黙々と煙草を吸うカイ。

何 を考えているのか、表情は読み取れない。

しばらくすると、病室から出てきたジェシーが、沈痛な面持ちで

「…お父さん、亡くなりました」

と、静かに告げた。

その場にいた全員が、沈黙と絶望に包まれた。

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