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探偵マイク  作者: 光翔
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5 逮捕の逆転劇

薄暗い照明が降り注ぐ署内を、カイは悠々と闊歩していた。解放が目前とあって、彼の足取りは弾むように軽く、全身から解放の喜びが溢れ出しているようだった。

正面から歩いてきたリンとすれ違う際、わざとらしく肩をぶつけると、カイは挑発的な笑みを浮かべた。

「あら、リン警官。失礼しました。さっきは気が付きませんでしたね。まさか、また私を逮捕したいの?」

勝利宣言するかのような口調で、カイは言った。

リンは、軽く微笑み返すと、

「…それは、次の機会かもしれないですね」

「…待ってますよ」

カイは、ふざけたように笑って去ろうとした。

その態度の横柄さに、マイクは堪らず拳を握りしめ、声を荒げたい衝動に駆られた。しかし、今はただカイを見送ることしかできなかった。

そんな時、署長が執務室から出てきた。マイクに近づくと、書類二枚を手渡しながら、

「…マイク、もう一度、カイを逮捕するように」

と、静かな口調で言った。

書類を受け取ったマイクは、中を確認した。逮捕状と全国指名手配令状だった。

「…おい、カイ! 止まれ!」

歓喜に満ちた声が、署内に響き渡った。立ち止まったカイは、振り返りながら、

「…どうしました? マイク警部」

と、余裕そうな笑みを浮かべて言った。

「…逮捕する。今、ここでお前の逮捕を宣言する」

そう言いながら、マイクとリンはカイに歩み寄った。手錠を手にしたマイクは、すかさずカイの両腕にかけた。

「…逮捕する権利はない!」

突如の事態に、カイは声を荒げた。

「…一体どういうことですか?」

弁護士も、マイクに詰め寄った。

マイクは、ニヤリと笑みを浮かべると、逮捕状と全国手配令状を弁護士に見せつけた。

逮捕状と全国手配令状を目の当たりにしたカイの顔色が、一瞬にして蒼ざめた。先ほどの余裕はどこへやら、焦りと苛立ちが入り混じった表情を浮かべる。

「…T市警から連絡が入った。五か月前、T市で起きた銃撃警官事件の容疑者として、君が浮上しているそうだ。そして、T市警は、ついに君の発砲の物的証拠を掴んだという。全国指名手配令状もすでに発布されている。T市警は、君をT市に連行してほしいと言っている」

マイクの言葉に、カイは歯噛みしながらも黙り込んだ。釈放目前での逮捕劇に、彼のプライドはズタズタに引き裂かれていたのだろう。

「…T市警に引き渡す」

マイクは、淡々と告げると、リンの方を向いた。

「…リン、明日はT市に護送する手配をしてくれ」

時計を見ると、時刻はすでに午後五時を回っていた。釈放寸前で逮捕となったカイ。マイクとカイの駆け引きは、思わぬ形で逆転劇を迎えた。勝利の余韻に浸るマイク。その横で、カイは悔しさを滲ませた目で、マイクを睨みつけていた。

独房に戻されたカイは、イライラをぶつけるように壁を殴りつけた。想定外の事態に、焦りと苛立ちが渦巻いていた。T市警が証拠を掴んだという話は全くの初耳だった。

薄暮迫る6時、マイクは再びジェシーの屋敷を訪れた。釈放寸前で逮捕劇となったカイへの苛立ちが収まらない中、微かながら残る情報のカケラを掴むべく、ジェシーから何か話してもらえないかという期待を胸にやってきたのだ。

警官として、殺人犯を野放しにすることはできない。自分の手で、カイを牢屋に送り込む。それがマイクの執念となっていた。

屋敷の扉を開けると、家政婦が出迎えた。

「…ジェシー様は、O市を離れられました」

家政婦の言葉に、マイクは肩を落とした。思わぬ出欠に、胸に喪失感が広がる。

応接室に入ったマイクは、銃撃戦の残り香を鼻に感じた。黒服の男たちと対峙し、必死にジェシーを抱きかかえたあの時の温もりを、ふと思い出す。

階段を上り、ジェシーの寝室に入ったマイクは、ベッドの上に無造作に置かれた着物を見つけた。手に取ると、確かに昼間ジェシーが着ていたものだった。ほのかに、彼女の匂いもする。

着物をベッドに戻そうとした時、一際目立つ赤い匂い袋が着物から落ちた。拾い上げた匂い袋からは、先ほど感じたジェシーと同じ香りが漂ってくる。

マイクは、袋を開けた。中には、金属製のボタンが入っていた。どこか見覚えのあるボタンだと思いながら、マイクは着ているシャツのボタンに目をやった。二番目のボタンがいつの間にかなくなっていることに気づいた。

ジェシーの姿が、再び脳裏に浮かんだ。初めて出会ったはずなのに、まるで昔から知っていたかのような、不思議な安堵感。心の中に芽生えたのは、恋だった。

しかし、マイクは現実を思い知らされる。ジェシーは裏社会のボスの一人娘。警官である自分は、決して彼女と結ばれることはできない。

諦めの混じった複雑な思いで、マイクは匂い袋をコートのポケットにしまい、寝室を後にした。

薄暗闇に包まれた廊下を歩くマイクの足取りは、重かった。カイを捕まえた喜びよりも、ジェシーとの出会いと別れが、彼の心に深く刻まれていた。

薄暗い廊下に佇むマイクは、屋敷を後にする準備をしていた。ジェシーとの出会いと別れが胸に去来する中、ふと、窓の外を何やら窺う人影が目に留まった。

男は、身を隠すようにしながら、あたりをきょろきょろと見回している。何かを探している様子だった。

「…何者だ?」

不審な動きに、マイクは思わず声を荒げた。男は、マイクの声に反応すると、一瞬彼の方を向いてすぐに姿を消した。

スパイの存在を確信したマイクは、玄関に向かって一目散に駆け出した。家政婦もマイクの叫び声に気づき、後を追ってきた。

屋敷の外に飛び出したマイクは、逃げる男の姿を追った。家政婦も合流し、二手に分かれて屋敷周辺をくまなく捜索した。

ほどなくして、裏庭で男を取り押さえた。男は必死に抵抗して無効になった後、苦闘を諦めた。

「…放せ! 俺は何も悪いことはしていない!」

と喚き散らした。

息を切らしながら近づいたマイクは、男を睨みつけた。

「…誰だ? 何の用で屋敷に来た?」

「…俺は…ユータだ。ジェシーの友達だ。ジェシーに会いに来ただけだ」

震えながら答えた男は、必死に言い訳をした。

しかし、家政婦は眉をひそめた。

「…ジェシー様の友達なんて、見たことがありませんね」

家政婦の言葉に、男の嘘が露呈した。マイクは、男を睨み据えると、

「…ジェシーの友達なら、なぜ玄関から正々堂々と訪ねず、外で様子を窺っていたんだ?」

と、厳しい口調で詰問した。

男は、目を泳がせながら、

「…警官車が止まっているのを見て、ジェシーに会うのはまずいと思って… だから外から様子を伺っていた…」

と、弱々しく答えた。

マイクは、男の言葉に納得できない様子だった。しかし、今のところ、男がスパイである確証はなかった。

警察署の尋問室に連れて行かれたユタは、震える手で椅子に座った。マイクは、先ほどの裏庭でのユータの挙動を思い出し、信用しきれない様子だった。

「…少し、話を聞かせて貰おうか。君は本当にジェシーの友達なのか?」

マイクは、厳しい口調で尋ねた。

ユータは、必死に潔白を主張した。警察署に連行されたことで、パニックに陥っている様子だった。

マイクはリンにユタの身分情報を調査させた。

「…ユータ・カサハラ、25歳。T大卒。前科は無し」

部下が報告してきた情報に、マイクは少し肩透かしを食らった。ユータは、名門大学を卒業し、前科もない市民のようだった。

一縷の望みをかけ、マイクは、ジェシーの安否を伝え、ユータの気持ちを落ち着かせようとした。

「…ジェシーは無事だ。まずは、安心しろ」

マイクの言葉に、ユータの肩の力が少し抜けた。

「…本当ですか? ジェシーは無事なんですか?」

震える声で尋ねるユータの姿を見て、マイクは、嘘をついているようには見えなかった。

心が緩んだユータは、ようやくマイクの質問に協力的な姿勢を見せ始めた。

マイクは、机の上に置かれていた写真の一つ、カイの写真を手に取った。

「…この男を知っているか?」

写真を見せながら、マイクはユータに尋ねた。

写真の中の、どこか冷酷な表情を浮かべるカイの顔を凝視したユータは、

「…はい、知っています。彼は…ジェシーさんの友人です。T市で会ったことがあります」

緊張した面持ちで答えた。

「…T市で? じゃあ、O市では会っていないのか?」

マイクは、食い気味で尋ねた。

「…O市では…見たことがありません」

ユータは、少し緊張した様子で答えた。

マイクは、ユータの反応をじっくりと観察した。嘘をついているようには見えない。しかし、どこか引っかかるものがあった。

「…君と彼は、親しい仲なの?」

「…いえ、そうでもないです…」

ユータは、曖昧な答えを繰り返した。

改めて、別室で取調を受けていたカイに対しても、ユータの名前を出して確認を取ってみた。

「…ユータという男を知っているか?」

マイクは、机の上に置かれたユータの写真をカイに示した。

「…ああ、見たことがある。ジェシーの大学の同級生だったらしいな。ジェシーの屋敷で会った」

カイは、事もなげに答えた。

「…彼については、何か知っているか?」

「…別に…よく知らない。オタクっぽい奴だったな」

カイは、嘲笑するように笑みを浮かべて言った。

ユータとカイの告白は一致し、どちらも嘘をついていないようだ。 しかし、Mikeはそこに問題があると思ったが、何が問題なのか正確には分からない。

マイクは、今のところユータが危険人物ではないと判断し、釈放することにした。

「…君は、ジェシーの友達なのだろう。ジェシーはO市を離れた。その情報は知っているか?」

釈放する前に、マイクは念を押すように伝えた。

ユータは、初めて聞く情報だと驚いた様子だったが、マイクに礼を言うと、警察署を後にした。





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