28 花咲く心
銭湯での捜査を終えたリンと剣持が、警察署に戻ってきた。
マイクの姿を見ると、二人はすぐに駆け寄った。張詰めた空気を感じ取ったのか、マイクは不穏な予感を察知した。
「…状況はどうだ?」
マイクは、心配そうな顔で尋ねた。
リンは、沈んだ表情で、
「…最悪だ」
とだけ答えた。
一呼吸置いて、リンは重い口を開き、銭湯で見聞きしたことを話し始めた。
「…死者、計11名。
…古市さん、古市の側近4名、そして銭湯のスタッフ6名だ。
…殺害方法は残忍で手際が良く、復讐殺人の可能性が高い」
剣持も、緊迫した様子で言葉を継いだ。
「…俺も復讐殺人だと思う。
…殺害方法はプロの仕業だし、殺害現場を目撃したと思われる銭湯のスタッフまで全員抹殺している」
マイクは、これまでのジェシーからの情報と照らし合わせて、
「…カール・ギャングの現状から推測するに、古市さんを殺したのはカイだと考えられる」
と、静かに説明した。
リンは、拳を握りしめながら怒りを露わにした。
「…無関係な銭湯のスタッフまで殺すなんて、なんて残虐なんだ! カイは最低の野郎だ!」
剣持も同意するように眉を寄せ、
「…T市でも、ここ最近ではこんなに多くの犠牲者が出る凶悪事件はなかった」
と、憤慨した。
マイクは、机を拳で強く叩き、
「…くそっ、カイめ… 絶対に許さない!」
三人で今後の行動について話し合った。
作戦は二本立てだ。
剣持とリンは、引き続き警察署でカイに関する情報を捜査する。
一方、マイクは、ジェシーの元に赴き、組織内部の情報を入手すると同時に、警察とジェシーとの橋渡し役を務める。
マイクには、もう一つの重要な目的があった。
それは、悲しみに沈むジェシーを慰め、立ち直らせることだった。
古市の死は、ジェシーにとって計り知れないほどの衝撃だろう。
復讐を望む気持ちも理解できるが、感情に流されて組織抗争に巻き込まれれば、さらなる悲劇が生まれる。
マイクは、ジェシーの心の支えとなり、彼女が最良の選択ができるよう導く必要がある。
リンは、マイクの肩に手を置き、
「…ジェシーちゃんのことも、気遣ってあげてくれ」
と、労うように言った。
剣持も、
「…俺たちは、全力でカイを追う。
…お前も、気をつけてくれ。
…カール・ギャングは、荒っぽい連中だ。
…不用意に刺激しないように」
と、マイクを鼓舞した。
マイクは、仲間の好意に感謝の意を示し、
「…任せろ。
…俺は、ジェシーを支える。
…そして、カイを成敗させる」
と、決意に満ちた表情で答えた。
重苦しい空気が漂う警察署だったが、マイクの心に、かすかな希望の灯が灯った。
……
ジェシーの家の静かな書斎で、夕暮れの光が木製の机に降り注ぎ、本に影を落としていた。マイクはジェシーの隣に座り、彼女の肩にそっと手を置いた。ジェシーは窓の外を見つめ、遠くの街並みが霞んで見える。
「ジェシー、何を見ているんだ?」マイクは優しく尋ねた。
ジェシーは振り返り、マイクの眼差しと出会った。彼女の瞳は夕焼けの色を帯びて、深く、そして何かを探しているようだった。
「何も。ただ、あの街を見ているだけよ」ジェシーは静かに答えた。
マイクは彼女の言葉を理解していた。それは単なる街の風景ではなく、彼らの過去、そして未来への不安を映し出していた。
ジェシーの父親の死から、彼女はコイチを支え、頼りにする存在として見てきた。コイチが亡くなった今、彼女は自分自身を見失っているように感じた。マイクはそんなジェシーを心配していた。
「ジェシー、コイチは君にとって、ただの人物ではなかった。彼は君の人生の一部だった。そのことを忘れないで」マイクはジェシーの手を握りしめ、真剣な表情で言った。
「でも、彼はもういない。私がどんなに彼を必要としても」ジェシーの言葉は震えていた。
「彼はもういないかもしれない。でも、彼が君に残してくれたものは、まだ君の中に生きている。彼の言葉、彼の教え、そして彼の愛」マイクはジェシーの瞳を見つめ、優しく語りかけた。
ジェシーは静かにマイクの言葉を聞いていた。彼女の心は、悲しみと希望の狭間で揺れていた。
「マイク、あなたは私にとって、コイチのように、大切な存在なの」ジェシーは突然、そう言い出した。
マイクは驚き、ジェシーの顔を見つめた。彼女の言葉には、これまでとは違う、特別な意味合いが含まれていた。
「ジェシー、君は…」マイクは言葉を詰まらせた。彼はジェシーの気持ちを理解していた。それは、単なる友情を超えた、深い愛情であった。
ジェシーはマイクの言葉を遮るように、さらに続けた。「あなたは私を、以前のように、優しく、そして包み込むように見てくれる。私は、あなたのそばにいると、心が安らぐの」
マイクはジェシーの言葉に、静かにうなずいた。彼は彼女に惹かれていた。彼女の強さと優しさ、そして心の奥底にある哀しみに。
「ジェシー、私も君に惹かれている。君と一緒にいると、私は自分らしくいられる気がするんだ」マイクは自分の気持ちを正直に打ち明けた。
ジェシーは微笑んだ。それは、悲しみを乗り越えようとする、かすかな希望の光のように。
二人は長い沈黙を共有した。言葉はいらない。二人の心は、互いに通じ合っていた。
それから、マイクはジェシーの額にそっとキスをした。それは、愛と慰めのキスだった。ジェシーはマイクの唇に、柔らかく応えた。
二人は、ゆっくりと互いの抱擁に身を委ねた。その抱擁は、過去を忘れ、未来への希望を告げているようだった。
日が沈み、夜が深まるにつれて、二人は書斎で語り合った。子供時代の話、夢、そして未来への期待。二人の間には、静かで温かい空気が流れていた。
時が経つにつれて、二人は深い愛情で結ばれていった。それは、言葉で表現できない、心の奥底からの愛だった。
ある日、二人は花市場を訪れた。色とりどりの花々が、二つの心を和ませた。ジェシーは、赤いバラの花束を手に取り、マイクに差し出した。
「あなたに、この花を」ジェシーは微笑んで言った。
マイクはジェシーの花束を受け取ると、彼女の手を握りしめ、言った。「ありがとう、ジェシー。君の花は、どんな花よりも美しい」
二人は花市場をゆっくりと歩き、花々を眺めながら、言葉を交わした。彼らの言葉は、愛と感謝で溢れていた。
花市場を後にし、二人は近くのカフェで、コーヒーを飲んだ。ジェシーは、窓の外の街並みを眺めながら、静かにコーヒーを味わっていた。
「マイク、私たちは一体どうなってしまうのでしょう?」ジェシーは突然、そう尋ねた。
マイクはジェシーの言葉を聞いて、少し考え込んだ。「ジェシー、私たちは今、ここにいる。そして、お互いに愛し合っている。それがすべてではないのか?」
ジェシーはマイクの言葉に、静かにうなずいた。
「でも、カイはどうするのですか?」ジェシーは再び、心配そうに尋ねた。
「カイは、もう私たちを傷つけることはできない。私たちは、彼を恐れる必要はない」マイクは自信を持って答えた。
「本当にそうでしょうか?」ジェシーは疑わしげに言った。
「ジェシー、君は強い。そして、私は君を絶対に守る」マイクはジェシーの目をじっと見つめ、力強く言った。
ジェシーはマイクの言葉に、安心した。彼女は、マイクの愛に包まれていることを確信した。
二人は、互いの愛情を確認し合った。それは、どんな困難にも立ち向かう力となる、強い絆だった。
夜が訪れ、二人はジェシーの家に戻った。二人は、庭のベンチに座り、満天の星空を見上げた。
「ジェシー、君と出会えて、本当に良かった。君と過ごす時間は、私の宝物だ」マイクはジェシーに語りかけた。
「私も、あなたと出会えて幸せよ、マイク。あなたは私の心を、暖かく照らしてくれる光のような存在」ジェシーはマイクに答えた。
二人は、星空の下で、永遠の愛を誓い合った。それは、言葉では言い表せない、深い愛情の誓いだった。
それから、二人は静かに抱き合った。それは、過去を忘れ、未来への希望に満ちた、愛の抱擁だった。
二人が過ごす日々は、穏やかで幸せに満ちていた。彼らは、互いの愛情に包まれ、穏やかな時間を過ごしていた。
しかし、彼らの心の奥底には、まだ過去を忘れられない影が潜んでいた。カイは、彼らの生活を脅かす存在であり、いつ再び現れるか分からない。
ある夜、ジェシーはマイクに、カイに関する夢を見たことを打ち明けた。夢の中で、カイは彼女を脅し、殺そうとしていた。
「マイク、私は不安なの。カイは、私たちを再び傷つけるかもしれない」ジェシーは不安そうに言った。
マイクはジェシーの不安を理解していた。彼は、ジェシーの不安を和らげようと、優しく抱きしめ、言った。「ジェシー、大丈夫。私は君を守ると約束する。カイが再び現れても、私は彼を阻止する。安心して」
ジェシーはマイクの言葉を聞いて、少し安心した。しかし、彼女の心は、まだ不安でいっぱいだった。




