表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵マイク  作者: 光翔
30/35

25 上院議員の影

ユータは

「…成功した!」

と、声を上げ、喜びを表した。

その声に反応したように、カイはユータの傍へ駆け寄り、

モニターの画面を覗き込んだ。

「…ゼウス1の制御に成功したのか?」

興奮気味に尋ねるカイに、ユータは

「…ああ。

…まずは衛星の撮影機能が正常に動作するか、確認してみよう」

と、淡々と答えた。

ユータは、操作を行い、自宅のある場所を衛星で撮影した。

モニターに映し出されたのは、ユータの自宅が鮮明に捉えられた衛星写真だった。

「…ユータ… 天才だな」

カイは、感嘆の声をもらした。

作業を終えたユータは、椅子から立ち上がり、

「…約束は果たした。 これ以上、俺に関わってくるな」

と、冷たい口調で言った。

「…そんなに冷たい言い方をするなよ。

…どうせ幼馴染みじゃないか。

…顔を出しちゃいけないのか?」

カイは、必死に取り繕うように言った。

「…幼馴染みだった…

…だが、お前は変わった。

…人を殺し、罪のない市民さえも…

…そんなことをするようになった」

ユータは、厳しい口調で言い切った。

「…殺さなければならなかったんだ。

…俺にとっても苦渋の決断だった」

カイは、弁解するように呟いた。

「…苦渋の決断?

…そんなことで済むのか、殺された人たちは?

…お前の苦渋の決断で、命を落とされたんだ」

ユータは、カイの言い訳を真っ向から否定した。

「…わかってくれないな。

…大きなことを成すためには、犠牲が必要なんだ。

…俺たちのかつての理想を忘れたのか?」

必死に、自分の行動を正当化しようと、カイは訴えた。

「…俺たちの理想は、市民を守ることだ。

…悪いことをするんじゃない」

ユータは、毅然とした態度で言い返した。

「…今、お前が持っているこの部屋の機材も、

…悪いことをして稼いだ金で買ったものだろう?

…こんな装置がなければ、お前の理想は果たせないのか?」

カイは、皮肉めいた口調で言った。

「…確かに、装置を提供してくれたのはお前だ。

…だが、俺だって、お前のためにやってきたことは多い。

…監視を逃れるための工作だって、俺がいなければとっくに警察に目をつけられていたはずだ」

ユータは、冷静にカイの貢献を認めた。

「…そうだろうな。

…お互いに利用し合ってきた関係だったということだ。

…だが、これからは必要とするものがあれば、自分で調達する。

…それと、衛星情報受信機の作成も頼む。

…約束だ」

そう言い残し、カイは踵を返し、倉庫を出ていった。

残されたユータは、複雑な表情を浮かべて、

去り際のカイの言葉を静かに聞いていた。

夜が明け、あたりが薄っすらと明るくなり始めた頃、マイクはトランスミッターの位置情報を必死に追っていた。

信号は、レストラン、バー、そして娯楽施設と次々と移り変わっていた。

そして、ついに、市街地の東側にある住宅街のシグナルが点灯した。

横で様子を見ていたリンが、緊張した様子でマイクに尋ねた。

「…どうするつもり?」

「…剣持に連絡する。 署長に、東側にチームを向かわせてもらうよう依頼する」

マイクは、静かに答えると、携帯電話を取り出し、剣持の番号をダイヤルした。

「…剣持、カイに仕込んだ発信機が反応してる。

…住所は、リッキー地区1丁目1番1号、青山だ。

…署長にチームを出動させて、現場を調べてもらうように頼んでもらえないか?

…俺たちはこちらから向かう」

マイクは、手際よく指示を出しながら、電話を切った。

いつも通り、テキパキと仕事をこなす剣持は、

「…分かった。 すぐ署長に報告する。

…俺たちもそっちに向かう」

と、簡潔に返事をした。

電話を切った後、30分ほど経った頃、

署長が剣持や警察官を引き連れて、リッキー地区1丁目1番1号、青山に到着した。

マイクとリンは、現場で待機していた。

「…まだ犯人は逃げ出していませんか?」

署長は、マイクに尋ねた。

「…向かいの家にいます。 今はまだ動きはないようです」

マイクは、静かに署長に状況を説明した。

横で聞いていた剣持は、少し驚いた様子で言った。

「…カイがこんな高級住宅街に住んでるのか…

…警察がなかなか見つけられなかったのも納得だ」

目の前に建っていたのは、二階建ての豪華なヴィラで、

入り口にはセキュリティブースが設置されていた。

署長は、セキュリティガードに事情を説明した後、

警察官たちに建物の包囲を命じた。

そして、署長、剣持、マイク、リンの4人は、慎重に建物の中へと入っていった。

発信機の信号強度から、マイクは発信機が2階にあると推測した。

マイクと剣持の2人は、連携して扉を開け、寝室へと突入した。

署長とリンが続いた部屋の中には、

ベッドの上で、目を大きく見開いて恐怖に震えている男が一人座っていた。

その男は… 春樹議員だった。

室内には緊張が張り詰めていた。

ベッドの上に座り込んだ春木議員は、不意の闖入者に驚き、

怒気を含んだ目線で

「…何の用だ! なぜ俺の家に無断で入ってくる! 説明しろ!」

と、声を荒げた。

署長は、突然の事態に動揺を隠せなかった。

「…そ、申し訳ございません、春木議員…

…実は… カイ… を追跡しておりまして…」

と、どもりながら説明を試みた。

しかし、春木議員の怒りは収まらず、

「…馬鹿なことを言うな! カイが俺の家にいるわけがないだろう!」

と、顔を真っ赤にしてさらに声を荒げた。

事態の重大さを理解した署長は、

「…大変申し訳ございませんでした。

…これはまったくの誤解です…」

と、平身低頭で謝罪した。

マイクは、部屋の中を注意深く観察していた。

すると、ベッドサイドのキャビネットの上に小型の発信機が置かれていることに気づいた。

さらに、発信機の横に小さく折りたたまれた紙切れが置いてあるのも見逃さなかった。

マイクは、その紙切れを手に取り、春木議員に差し出しながら、

「…カイの手下の者に発信機を仕掛けました。

…それを追跡して、この家に辿り着いたのです」

と、説明した。

春木議員は、紙切れを広げて読んだ後、

「…この生意気な! …

…国会議員に対して、礼儀も何もないとは…!」

と、激昂しながら紙を机に叩きつけた。

紙切れには、

「ちびっこからの挨拶」

と書かれていた。

署長は、緊迫した空気を感じ取り、

「…春木議員、大変申し訳ございませんでした。

…必ず、カイを逮捕いたします…」

と、必死に事態の収拾を図った。

しかし、春木議員の怒りは収まらず、

「…約束はいらない!

…行動を見せろ!

…もし、この紙切れではなく爆弾だったら、俺は死んでいたかもしれないんだぞ!」

と、署長を威圧するように言い返した。

署長は、再度

「…春木議員の安全を守るため、全力でカイの逮捕に努めます…」

と、謝罪の言葉を繰り返した。

マイク、リン、剣持も、春木議員に対して頭を下げて謝罪した。

春木議員は、まだ怒りが収まらない様子だったが、

諦めたように手を上げた。

「…カイの報告書を作成し、カール・ギャングのリーダーと面会を手配しろ。

…話がある」

春木議員は、そう言い放った。

署長は、肩の荷が降りたかのように安堵の表情を浮かべ、

「…はい、春木議員。 すぐ手配させていただきます」

と、返事した。

春木議員の邸宅を出たマイクの背中には、冷や汗が流れていた。

カイとその一味は、想像以上に狡猾だった。

「…用心深い奴らだな…」

マイクは、畏怖と少しの恐怖が混じった声で呟いた。

横で聞いていた剣持も、

「…確かに、慎重すぎるくらいだ。

…次の行動は、さらに注意深く動く必要があるな」

と、同意するように真面目な顔で言った。

署長の方を向き、マイクは

「…春木議員の件、申し訳ありませんでした」

と、謝罪した。

リンも、マイクに続いて

「…私たちも、お詫びします」

と、頭を下げた。

署長は、重々しい表情で

「…今回は仕方ないだろう。

…とにかく、カイを捕まえることが先だ」

と、険しい口調で言い返した。

マイク、リン、剣持の三人は、署長を残して警察署へと戻った。

署内に戻ると、モニターに映るニュースがマイクの目を引いた。

報道によると、TASA研究所で、何らかの原因でゼウス1の衛星が制御不能に陥ったという。

マイクは、画面を見つめながら、

「…まさか…」

と、呟いた。

モニターからは、衛星に関する専門家のコメントが流れてくる。

専門家は、衛星機能の停止はテロの可能性が高いと指摘していた。

マイクの脳裏には、カイの冷徹な顔が浮かんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ