23 カイの遊戯
食事中、マイクとジェシーは和やかな雰囲気で会話を交わしていた。
警察と協力するという思わぬ共通の目的が出来たことで、二人の距離は以前よりもグッと近くなったように感じられた。
ジェシーは、マイクにギャング内部の派閥争いや矛盾について、率直に話していた。
「…ギャングといっても一枚岩じゃない。
…カイみたいな考えの者もいれば、
…暴力や犯罪に頼らず、合法的なビジネスを志向する者もいる」
ジェシーは、複雑な思いを吐露した。
マイクは、興味深そうに聞きながら、
「…ギャングが度を越したことをしなければ、警察もそんなに目を光らせることはないだろう。
…ただ、カイみたいに罪のない人間まで巻き込んでしまうのは困るな」
と、複雑な心境を吐露した。
食事を終えると、マイクは寝室に戻った。
安全のため、リンに連絡を取ろうと携帯電話を手に取った時、
上着のポケットの中から、USBメモリのような物体を発見した。
見覚えのある形だった。
「…これは…」
マイクは、記憶を辿った。
高速道路でのチェイス中、カイから奪い取った物だ。
マイクは、心の中で小さく呟いた。
「…もしかしたら、何か役に立つ情報が入っているかもしれない」
マイクは、心の中で喜びを感じながら、パソコンにそのUSBメモリのような物体を差し込んだ。
そこから、何か有益な情報を得られるかもしれないと期待に胸を膨らませた。
しかし、パソコンの画面には、USBメモリの情報が表示されない。
マイクは、何度かUSBメモリを抜き差ししてみたが、
それでも、USBメモリのハードディスク情報がパソコンに表示されることはなかった。
マイクは、USBメモリが壊れているのではないかと疑ったが、
警察署に戻ってから情報課の仲間に修理してもらう以外に手段はなかった。
落胆した様子で、マイクはパソコンの電源を切った。
カイが必死に守ろうとしていたUSBメモリの中身には、一体何があるのだろう?
一日中マイクを探し回っていたリンは、夕方ホテルに戻った際、ようやくマイクからの電話を受けた。
「…リン? 俺だ、マイク」
電話口から聞こえてきたマイクの声に、リンは安堵のあまり思わず息を呑んだ。
「…マイク! どこにいるんだ? 無事でよかったのか?」
リンは、焦りと心配が入り混じった声でマイクに話しかけた。
「…大丈夫だ。 友達の家にいる」
マイクは、落ち着いた様子で答えた。
「…高速道路で一体何があったんだ? 女性から夫を殺したと訴えられてるぞ」
リンは、警察署での出来事をマイクに伝えた。
マイクは、高速道路での出来事を一通り説明した。
リンは、
「…よかった。 あの女の夫を殺したなんて、ありえない話だと思ってた」
と、安堵の言葉を漏らした。
「…俺のところに、カイが欲しがっている物があるんだ。
…きっと、それを取り返しに来るはずだ。
…そうすれば、カイを捕まえることができる」
マイクは、静かに作戦を伝えた。
その時、電話口のリンが突然黙り込み、マイクの言葉に反応しなくなった。
怪訝に思ったマイクは、
「…リン、どうした? 話聞こえてるか?」
と、呼びかけた。
しかし、返事は返ってこない。
代わりに、不穏な声が電話口から聞こえてきた。
「…マイク、生きていてくれてよかったよ。 リン、心配そうだな」
それは、紛れもなくカイの声だった。
電話口の向こうでは、リンが銃口を向けられ、声を出すことができない様子だった。
マイクは、緊張感が走る声で
「…カイ、何をしに! リンに危害を加えるな!」
と、怒鳴った。
「…心配しなくていい。
…俺が欲しがっている物さえ返してもらえれば、リンは無事だ」
カイは、余裕のある態度で話した。
「…どこにいる?
…どうすれば返せるんだ?」
マイクは、リンの安全を第一に考え、カイの要求に応じる姿勢を見せた。
「…西城区民主大通り21倉庫へ来い。 そして、俺が欲しがっている物を持ってこい。
…一人だけで来るんだ。
…そうしなければ、リンはどうなるかわからないぞ。
…警察を呼ぶのは考えんなよ。
…おっと、忘れてた。 お前は警察だったな。 ハッハッハ」
電話口から、カイの不敵な笑い声が響き渡った。
西城区民主大通り21倉庫に到着したマイクは、ギャングの一人に案内されながら倉庫の中へと入っていった。
薄暗い倉庫内を進むにつれ、マイクの緊張感は高まっていった。
案内役のギャングは、倉庫内の一室の前に立ち止まった。
「…ここだ」
低い声でそう言うと、案内役は扉を開けた。
部屋の中には、カイの姿があった。
そして、リンが椅子に縛り付けられ、口にはガムテープが貼られて身動きが取れない状態にさせられていた。
マイクを見ると、リンは必死に何かを伝えようとしたが、口を塞がれており、
ただ「ウーッ」という声しか出すことができなかった。
案内役のギャングは、マイクの頭に向けて拳銃を突きつけた。
もう一人のギャングが、マイクの身体検査を行い、武器の有無を確認した。
武器が見つからないと確認すると、そのギャングもマイクの横に立った。
「…物を持ってきたか?」
カイは、不敵な笑みを浮かべながらマイクに尋ねた。
マイクは、ポケットに手を伸ばし、USBメモリを取り出す準備をした。
「…焦るな。 ゆっくりと、ポケットからUSBメモリを出せ」
カイは、わざとゆっくりとした口調で指示を出した。
マイクは、カイの指示に従い、ゆっくりとポケットからUSBメモリを取り出し、
傍にいたギャングに手渡した。
「…これで満足だろう? リンを解放しろ」
カイは、縛られたリンを軽く撫でると、腕時計をちらりと見た。
そして、満面の笑みを浮かべながらマイクに近づき、
「…心配しなくていい。 リンは、約束通りお前に返すよ」
と、言った。
マイクは、
「…逃げられない。 必ずお前を捕まえる」
と、睨みつけた。
「…ああ、待ってるぞ」
カイは、あっけらかんとした様子で答えた。
その後、部下たちに銃を下ろさせ、部屋を出るよう指示を出した。
部屋を出る際、ドアのところで振り返り、
「…ところで、赤と青、どっちの色が好きだ?
…俺は青が好きだな」
と、意味深な言葉をマイクに残して去っていった。
去り際のギャングの一人のポケットに、そっと発信機を忍び込ませた。
カイの言葉の意味は理解できなかったが、残されたギャングの一人を尾行することで、カイの居場所を突き止めることができるかもしれない。
カイたちが出て行った後、マイクは慌ててリンの元へ駆け寄った。
リンを縛っていた縄を解こうとした瞬間、リンは焦った様子で首を振り、
「ウーッ」という不安げな声を漏らした。
マイクは事態を察し、急いでリンの口に貼られたガムテープをはがした。
解放された口から、リンは必死の形相で叫んだ。
「…早くここから出て!
…私、体に爆弾を仕掛けられてる!」
叫びながら、リンは上着のボタンを外し始めた。
リンの言葉に戦慄を覚えたマイクは、リンの上着の下を見た。
そこには、リンの腹部に複雑な構造で取り付けられた
タイマー式の爆弾が目に飛び込んできた。
残時間は、なんと1分。
あまりにも突然の事態に、マイクは思考が停止しそうになった。
しかし、すぐに我に返ると、何とか爆弾を外そうとリンの体に触れた。
だが、爆弾は複雑な仕掛けで固定されており、
とても素手で外せるような代物ではなかった。
絶望的な状況の中、マイクはリンと目線を合わせると、
お互いの瞳には恐怖が色濃く浮かんでいた。




