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探偵マイク  作者: 光翔
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19 正義の拒絶: 刑事のジレンマ

「…俺が署長を説得してやる。

…今から通話監視の申請書を提出する」

マイクは、挫けずに、強い意志を持って言った。

リンと剣持も、

「…俺たちも一緒に署長に申請しよう」

と、マイクの決意に賛同した。

三人は署長室へと向かい、市民の通話を監視するための申請書を署長に提出した。

署長は、書類を受け取りながら、

「…市民の通話を監視する申請は、私の権限では許可できない。

…警察本部長による承認が必要になる」

と、少し困った様子で答えた。

「…では、署長が警察本部長に申請をお願いします!」

マイクは、諦めずに食い下がった。

しかし、署長は、不快そうに答えた。

「…春木議員が、つい先日、マスコミに対して、カイはまだ大した存在ではなく、警察はすぐに捕まえるだろうと発言していたばかりだ。

…こんな状況で、市民の通話監視を警察本部長に申請すれば、春木議員だって面白くないだろう」

「…市民の通話を監視することで、カイを見つけ出し、逮捕する。

…カイさえ捕まれば、春木議員も不満に思うことはないはずですよ」

マイクは、署長の懸念を払拭しようと説得した。

「…カイを捕まえることができると保証できるのか?

…市民の通話を監視した挙句、カイが捕まらなければ、責任を負うのは私になる」

署長は、ぐっとマイクを見据えて言った。

「…カイさえ見つかれば、必ず逮捕します!

…俺が誓います!」

マイクは、強い意志を持って約束した。

リンと剣持も、

「…俺たちも、マイクを手伝って、必ずカイを捕まえます!」

と、マイクの言葉を補強するように言った。

署長は、ため息をつきながら言った。

「…保証? どんな保証ができるというのか?

…これまでだって、カイは逃げ回っていたではないか」

「…過去数回は、緊急事態だったために、警察が十分な準備ができていなかっただけです。

…今回は、万全の準備をしてカイを捕まえるつもりです!」

マイクは、過去の失敗を認めながらも、今回の決意を強調した。

署長は、黙ってマイクの言葉を聞いていたが、納得した様子ではなかった。

マイクは、

「…過去の失敗を理由にして、これからの行動を否定されるわけにはいきません!」

と、署長の態度に抗弁した。

署長は、マイクたちの熱意は理解しつつも、

「…否定したいわけじゃないんだが…

…市民の通話を監視するというのは、大きな出来事なんだ。

…市民たちは黙っていても、市長や議員、それに大物たちは、自分たちの通話を監視されるのを非常に嫌がるだろう」

と、市民のプライバシーに対する懸念を口にした。

そして、署長は、マイク、リン、剣持に対して、

「…だから、市民の通話を監視する話はやめてくれ。

…もう少し、他の方法でカイを探すように検討してみてくれ」

と、市民の通話監視申請を取り下げるように求めた。

署長室を出て、マイクは重い足取りで歩いた。

リンと剣持も、市民の通話監視申請が却下されたことで、打ちひしがれた様子だったが、マイクを励ますような言葉をかけられるのみだった、有効な手立てを思いつくこともできずにいた。

マイクは、気持ちを落ち着かせると、次の行動に移り始めた。

マイクは知っている。監視能力を持っているのは警察だけではない。ユータもその一人だ。

マイクは、ユータの住居へと向かった。

部屋の中では、ユータとその仲間たちが、何やら装置のデバッグをしているところだった。

マイクの姿を見ると、ユータは目を輝かせて、

「…マイク、また来てくれたのか! 嬉しいぞ!」

と、声を弾ませた。

これは、社交辞令ではなく、心からの言葉だった。

マイクは、苦笑いを浮かべながら、

「…嬉しいのか? 俺が来ると ろくなことがないだろう」

と、冗談めかして言った。

「…前回会った仲間たち以外、滅多に友達が遊びに来ることもないんだ。それに、マイクは俺に親切にしてくれた…だから、会うのは嬉しいんだよ」

ユータは、素直な気持ちを言葉にした。

マイクは、ユータの言う“親切”の意味を理解していた。言うまでもなく、それはジェシーを助けたことへの恩義だろう。

「…そんなことは気にするな。警察としての仕事だから当然だ」

と、マイクは、気にするなと促した。

「…俺は、ずっと覚えてるよ」

ユータは、まっすぐな眼差しでマイクを見つめた。

マイクの心境は、複雑だった。

感謝されるのは好ましくないと言ったものの、今まさにユータに頼みごとをするつもりだったため、心の中では感謝してもらえると少しだけ期待していた。

なぜなら、マイクはユータに頼みごとをするつもりだったからだ。

「…実は、ちょっと頼みごとがあるんだ。今、時間あるか?」

マイクは、切り出した。

「…俺の能力の範囲内であれば、何でも頼んでくれ」

ユータは、快諾の返事をした。

「…お前も知ってる通り、俺は今、カイを追っている。

…だけど、奴は巧妙に隠れていて、警察だけではなかなか手がかりが掴めないんだ。

…お前はコンピューターソフトのエキスパートだと聞いている。

…そこで、ハッキングという手段で、カイを探し出すのを手伝ってもらえないか」

マイクは、本題を切り出した。

ユータは、少し身を縮めるようにして、マイクを見つめた。

マイクのこの頼みごとを、予想していなかったようだ。

ユータの表情は、気まずそうな色を帯びていた。

「…市民の通話を監視したいなら、警察には法的な監視方法があるだろう?

…なぜ、ハッカーという手段に頼るんだ?」

ユータは、マイクの依頼の真意を確かめるように言った。

マイクは、少し気まずそうな笑みを浮かべて答えた。

「…市民のプライバシーを考慮すると、法的な監視手段は使えないんだ」

「…どうやってカイを盗聴するつもりなんだ? ハッキングで警察署の監視システムに侵入して、カイを探すのか?」

ユータは、マイクの意図を推し量った。

「…いや、警察署の監視システムは、公共カメラの映像しか見ることはできない。

…それに、監視は続けているけど、今のところカイは発見されていない」

マイクは、現在の状況を説明した。

「…じゃあ、どうやれって言うんだ?」

ユータは、マイクの真意がわからずに尋ねた。

「…市民の通話を監視することで、カイを探し出したいんだ」

マイクは、本心を打ち明けた。

ユータは、マイクの言葉を聞いて、顔をしかめた。

「…市民の通話を監視するって? それには警察本部のシステムに侵入しなきゃないぞ?

…また俺にそんな能力があると思ってるのか?」

「…いや、たまたま警察署でユータのファイルを見たんだ。

…お前は、ずば抜けたハッキング技術を持っているのは知ってる」

マイクは、少し気まずそうに答えた。

「…なら、俺は反省文を書いて、もう二度と警察のシステムに侵入しないと約束したことも知っているはずだ」

ユータは、マイクの言葉を遮るようにして言った。

マイクは、少し焦りながらも、

「…今回の状況は前回とは違う。

…今回の侵入は、警察が容疑者を探す手助けをするためのものだ。

…これは、正義のための侵入だ」

と、大義名分を振りかざした。

「…正義のための侵入?」

ユータは、呆れたような表情になった。

マイクは、期待に満ちた目でユータを見つめた。

「…そうだ! 正義だ! 犯罪者を逮捕するため…市民を守るために…俺を助けてくれないか?」

しかし、マイクの期待とは裏腹に、ユータは首を横に振った。

「…申し訳ない、マイクさん。そっちの仕事は、お受けできません」

ユータは、断固とした態度で言った。

マイクは、肩を落とした。

ユータが断るとは思っていなかったのだ。

「…ユータ、カイは危険な人物だ。社会や市民の安全を脅かす存在なんだ。

…カイを捕まえなければ、無辜の市民が傷つけられるかもしれないんだぞ」

マイクは、必死にユータを説得しようと訴えかけた。

「…マイクさん、俺も協力したい気持ちはある…

…だけど、俺には俺の事情があるんだ。

…だから、本当に申し訳ない」

ユータは、歯を食いしばりながら言った。

沈黙が部屋を包み込み、気まずい空気が流れた。

ユータは、マイクを助けてあげることができず、心苦しい思いだった。

もしマイクが別の頼みごとをしてきたら、ユータは二言なく引き受けただろう。

一方のマイクは、ユータの非協力的態度に失望し、怒りさえ覚えていた。

マイクには理解できなかった。

ユータは、クラスメイトを監視するというような倫理的に問題のあることもできるのに、なぜカイを監視することはできないのか?

その時、ユータの仲間たちが一斉に歓声を上げた。

テレビに注目しているようだった。

仲間の一人が興奮気味に言った。

「…おい! 見てみろ! 最新鋭の調査衛星だって! TASAセンターが開発したんだぜ!」

テレビのキャスターが説明している。

「…今回打ち上げられた衛星は、ゼウス1号と名付けられ、地理情報の観測に用いられる予定です。 明後日、オリンピック・ローンチセンターに搬送され、宇宙へと打ち上げられます」

「…解像度が3センチだっていうぜ! 地上にある物体をより鮮明に識別できるらしい!」

別の仲間が加勢した。

「…それだけじゃないらしいぜ。 この衛星、色々とハイテクノロジーが搭載されてるらしいぞ。 例えば、量子通信システムを採用しているらしく、衛星の通信情報はハッカーにも解読不能なんだってさ」

仲間たちの言葉に、ユータも興味を持った様子で、テレビに視線を移した。

衛星打ち上げのニュースに引き込まれた様子だった。

マイクは、衛星など興味がなく、この科学技術オタク集団の邪魔をしたくないと思い、心の中で舌打ちをした。

テレビに夢中になっているユータの姿を見て、マイクは怒りを堪えきれず、一言も挨拶せずにその場を後にした。


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