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探偵マイク  作者: 光翔
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12 追跡の果て

病院に搬送されたマイクは、レントゲンや各種検査を経て診断を受けた。

「…右足捻挫、背中と腕の打撲ですね。安静にしていれば問題ありませんが、しばらくは激しい運動は控えた方が良いでしょう」

医師の説明を、額に冷汗をかきながらも真剣に聞くマイク。

検査が終わると、病室に戻ってきたリンと剣持は、マイクの無事を確認して安堵の表情を浮かべた。

「…リン、剣持、すまない…迷惑をかけてしまった」

ようやく声が話せるようになったマイクは、申し訳なさそうに二人に頭を下げた。

「…迷惑なんて…心配したんだぞ」

リンは、苦笑しながらマイクの頭を撫でた。

剣持は、感心した様子でマイクを見た。

「…マイク、あそこまで必死に追いかける気持ちはわかるけど…正直、俺はよくわからなかった」

「…どういうことだ?」

マイクは、疑問そうな表情を浮かべた。

「…カイを逮捕するのは、本来は局長と俺の仕事だ。おまえは、サポートに徹していればいいはずなのに…」

剣持は、自分の考えを率直に伝えた。

「…わかってる…わかってるけど…」

マイクは、歯切れの悪い言葉しか返せない。

沈黙が少し流れた後、マイクは、決意を込めた声音で話し始めた。

「…俺にとって、悪党をこの手で見つけて、牢屋にブチ込むのが、人生で一番の夢なんだ」

マイクの瞳には、強い意志の炎が宿っていた。

「…夢か…」

リンと剣持は、マイクのまっすぐな視線を受け、言葉を失った。

マイクは、病院を退院し、警察署へと戻ってきた。

「…マイク! 勝手に動くとは何事だ! 今回はたまたまカイの居場所がわかったから良かったものの、無断で行動を起こすのは言語道断だぞ!」

相変わらず厳しい口調でマイクを叱責する局長。

しかし、今回の件でカイの居場所が判明したという事実を無視することはできない。

「…だが、今回は偶然とはいえ、情報収集には役立った。だが、二度と無断で動くようなことはするな。T市での活動計画は、全てT市警が主導で行う」

局長の言葉は、いつもよりは穏やかだった。

「…かしこまりました」

渋々ながらも、マイクは局長の指示に従うことを了承した。

マイクの心の中には、複雑な感情が渦巻いていた。

カイを捕まえるという夢への一歩を踏み出したことは確かだが、その代償として、自分の行動の自由を縛られることになった。

局長は、T市内主要道路の監視カメラ映像の解析を指示した。

映像の中から、カイと部下が乗っていたバイクの特徴に一致する車両を探し出すという作業だ。

同時に、カイがこれまで活動していたエリアへの警察官の張り込みも強化された。

一度、カイの居場所が掴めれば、あとは一斉検挙を行うだけのはずだった。

しかし、事件から丸三日経っても、カイからの音沙汰は一切ない。

まるで、忽然と姿を消したかのようだった。

「…このままじゃ、お手上げかもしれないな…」

張り込みが空振りに終わると、苛立ちを隠せない様子の剣持が呟いた。

「…隠れているようじゃ、いつまで待っても出てくるわけがない」

剣持と同じく、状況の膠着状態に焦りを募らせるマイクだったが、

「…いや、必ずまた出てくる」

と、強い口調で反論した。

「…どういう根拠があるんだ?」

疑問そうな表情を浮かべるリンに、マイクは説明を始めた。

「…カイの性格を考えてみろよ。あいつは傲慢で、手段を選ばない人間だ。

必ずまた、でかいことを企むはずだ」

「…カイのことをよく知っているみたいじゃないか、マイク」

リンは、冗談めかしてマイクをからかった。

「…まあ、ここ最近の接触で、多少はわかってきた」

マイクは、苦笑いを浮かべた。

「…でも、カイの行動パターンって、どれもすごく早いんだよね。

我々が居場所を掴んだ時には、もう既に次の行動に移っていちゃってるかもしれない

…そうすると、結局は取り逃がすことになるんじゃないか…」

リンの不安はもっともだった。

マイクも剣持も、その懸念には同意せざるを得なかった。

しかし、現時点での最大の問題は、そもそもカイの居所を突き止めることだった。

不安を押し殺しながら、張り込みを続けるしかなかった。

昼になり、特に緊急の連絡が入らないこともあって、剣持はマイクとリンを昼食に外へと連れ出した。

「…ちょっと近所にある美味しい天ぷら屋さんに連れてってやるよ」

と、剣持は得意げに言った。

向かったのは、住宅街の中にひっそりと佇む小さな店だった。

「…ここのエビの天ぷら、絶品なんだぜ。それに、キノコ類の天ぷらも最高なんだ。エノキ、マイタケ、ほら見てみろよ、分厚くて美味しそうだろ?」

そう言いながら、剣持はメニューをマイクとリンに差し出した。

剣持の紹介は、いたって客観的だった。

実際に食べてみると、キノコ類の天ぷらには旨味が凝縮されており、マイクとリンも思わず唸り声を上げた。

食事を終え、トイレに向かった剣持は、そこで思わぬ人物と遭遇してしまった。

個室の中から、薬物を吸っているような不穏な音が聞こえてきたのだ。

慌ててドアを開けると、中では剣持にとって旧知の仲であるレインボーの姿があった。

「…レインボー! 何やってんだ! いつからまた薬物に手を出してるんだ! どこでそんなものを入手したんだ!」

驚きと怒りが入り混じった口調で、剣持はレインボーを問い詰めた。

かつての友人の姿にショックを隠せない剣持は、強い口調でレインボーを叱責した。

レインボーは、うろたえながらも答えを渋ったが、しつこく問い詰められると、ついに口を開いた。

「…ボニー…って奴から貰ったんだ…」

と、ようやく口を開いた。

ボニーとは、この街で暗躍する密売人の名前だった。

トイレから戻った剣持は、レストランの席で待っていたマイクとリンに、レインボーと遭遇したことを説明した。

レインボーの姿を見た二人は、事の重大さを察した。

「…そいつを逮捕するのか?」

リンが、確認するように尋ねると、剣持は

「…ああ。このままほっとくわけにはいかない」

と、決意を固めた様子で答えた。

「…今から、ボニーを逮捕しに行く。署長に応援要請を出さなきゃ…」

と、剣持は携帯電話を取り出しかけた。

しかし、マイクはそれを遮った。

「…今から局長に応援要請しても、到着する頃にはボニーはとっくに姿を消してるだろうな…」

マイクは、冷静に状況を分析した。

「…私とリンも手伝います。二人でもなんとかなるかもしれないし、手におえなければその時、応援を要請すればいい」

マイクの言葉は正論だった。

マイクの言う通りだと考えた剣持は、

「…そうだな。まずはボニーの所に向かってみよう。大勢で相手をするのが難しければ、その時局長に応援を要請すればいい」

剣持は、マイクの提案を受け入れることにした。

こうして、当初は気晴らしのはずだった昼食は、思わぬ展開へと発展していった。

こうして、当初の予定を変更し、剣持、マイク、リンの三人は、急遽ボニーの逮捕作戦に乗り出すことになった。

レインボーの案内で、剣持たちは薄暗い飲み屋街へとやってきた。

教えられたバーに入ると、カウンターで酒を飲んでいたのは、ボニーと二人のキャバ嬢だけです。

他の構成員の姿はない。

好機だと判断した剣持は、ボニーのもとに向かおうとしたが、その瞬間、ボニーは剣持の姿を見つけると、慌ててカウンターから飛び降り、店の奥にある非常口へと逃げ込もうとした。

間一髪、剣持がボニーの腕を掴もうとするも、振りほどかれてしまった。

「…くそっ!」

ボニーは、店の非常口から裏路へと飛び出し、バイクに飛び乗った。

ボニーを逮捕するために、剣持、マイク、リンの3人は、すぐに車でボニーを追跡した。

しかし、市街地を抜け、幹線道路に出た途端、車の渋滞に巻き込まれてしまった。

ノロノロと進む車列の間を縫って、巧みにバイクを操るボニーは、みるみるうちに視界から消えていった。

「…くそっ! こっちだ!」

マイクは、苛立ちを募らせながらも、クラクションを鳴らしながら車線変更を促した。

緊急走行車線に入るよう促すマイクだったが、剣持はそれを拒否した。

「…緊急車両通行帯は、緊急事態の時以外に使用すべきじゃない。それに、俺はこっちの地理に詳しい。右側の道から、あいつの行く手を塞ぐことができるはずだ」

剣持は、ハンドルを握りしめながら、必死にボニーの行く先を予測していた。

渋滞を抜け、剣持は右側の小道に入り、小道を通って、再び幹線道路に戻った、そこにもボニーの姿はなかった。

さらに迂回を重ねたものの、ボニーの手掛かりは見つからない。

次第に、苛立ちを募らせていくマイク。

「…さっき止めてた緊急走行車線に入っていればよかったのに!」

「…それは俺も…」

剣持も、少し後悔の念を滲ませた。

諦めずに、ボニーの潜伏先を探ろうとする剣持だったが、一向に手がかりを見つけることができない。

午後七時。辺りが薄暗くなり始めた頃、車を路地裏へと入れた剣持は、とうとう捜索を打ち切ろうとしていた。

その時だった。

助手席に座っていたリンが、

「…ちょっと待って、マイク。あそこの黒の車、見覚えがない?」

と、怪訝そうな声を出した。

マイクは、路地裏の奥まった場所に駐車していた黒の車のことを指差すリンの視線を追った。

「…んー、ちょっと見覚えあるような気がするけど… でも、最近の車は似たようなのばっかりだし、街中でよく見る型だから、そう感じるだけかもしれない」

マイクは、ぼんやりとした口調で答えた。

しかし、リンは、首を横に振った。

「…違う。あそこの車、カイが逃げ出した時に乗っていた車と同じじゃない?」

「…カイの車と同じだと? まさか… そんな偶然あるわけないし、そもそも根拠は?」

マイクは、リンの突飛な発言に眉をひそめた。

「…女の勘」

リンは、肩をすくめ、いたずらっぽい笑みを浮かべた。


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