11 追悼と追跡:琢見の葬儀と街のバイクチェイス①
望遠鏡越しに、葬儀会場へと向かうマイクの姿を捉えた局長は、焦りと怒りで顔を歪めた。
「…剣持! マイクが勝手に動いてるぞ! 何をしているんだ!」
局長は、インターホン越しに剣持を怒鳴りつけた。
剣持は、マイクが勝手に動いた理由が分からず、パニックになりながらもリンの方を焦った視線で見た。
リンも、マイクがなぜ弔問会場へと向かったのかはっきりと把握していなかったが、マイクには行動を起こすだけの理由があると信じていた。
「…弔問…かもしれません」
リンは、剣持に向かって小さく呟いた。
その言葉の意味を瞬時に理解した剣持は、インターホンに向かって、
「…マイクは、前回琢見さんに失礼な態度をとってしまったことを気にしており、弔問に訪れたようです。ご冥福をお祈りしたいと…」
と、必死に弁解した。
リンは、剣持の言葉を聞いて堪え切れず、吹き出しそうになりながらも、親指を立ててグッドサインを送った。
剣持は、苦笑いを浮かべつつ、心の中でマイクが余計なことをしでかさないよう祈っていた。
葬儀会場の受付にたどり着いたマイクは、受付嬢に
「…琢見さんの葬儀に参列させてください」
と、声をかけた。
しかし、受付嬢はマイクのことを知らず、
「…どなたの紹介ですか?」
と、怪訝な表情で尋ね返してきた。
マイクは、答えに窮していたその時、会場の中から一人の組員が姿を現した。
その組員は、マイクを見てすぐに認識し、
「…あ、マイクさんじゃないですか! こちらへどうぞ」
と言って、マイクを会場へと案内した。
予想外の展開に、マイクは少し戸惑いながらも、組員の後をついて会場へと足を踏み入れた。
ホール内は、琢見の葬儀が執り行われるための荘厳な空気に満ちていた。
中央には、琢見の白黒写真が飾られ、参列者はその前で焼香を上げ、冥福を祈っていた。
左側には、遺族席が設けられており、ジェシーが喪服姿で膝をついていた。悲しみに暮れているのか、顔色は青白く、身体全体からも気力が抜けきったように見えた。
機械的に焼香を受け取る仕草には、魂がこもっていないようにも見えた。
マイクは、参列者とともに前方へと進み、琢見の遺影に向かって膝をついて黙祷を捧げた。
マイクの姿を見たジェシーは、一瞬、目を大きく見開いた。
このような場での長話は無粋だ。マイクは、ジェシーの方をちらりと見やるだけで、
「…お悔やみ申し上げます」
と、声をひそめて伝えた。
ジェシーは、マイクの方を向くと、
「…ありがとう」
と、静かに返事をした。
焼香の儀が一段落つくと、マイクは後方の空席を見つけると、静かに腰を下ろした。
参列者たちの顔を眺めながら、ふと視線をジェシーの方に戻すと、ジェシーもこちらを見ていた。
しかし、視線が合った瞬間に、ジェシーは気まずそうにあわあわと視線を逸らしてしまった。
ジェシーの虚ろな瞳を見つめると、マイクの胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
言葉をかけて慰めてやりたい衝動に駆られたが、ここはそうした場ではない。
無性に居心地の悪さを感じたマイクは、視線を逸らすように、再び参列者たちを眺め始めた。
その時だった。
人混みの中で、不意にカイの姿が目に留まった。
部下数人と共に、会場の横にある非常口へと向かうカイの姿を確認すると、マイクはそっと席を立った。
気配を消しながら、会場の外へと出たマイクは、カイたちを追いかけた。
非常口の外には、数台のバイクが整然と並べられていた。
カイたちは、ヘルメットをかぶると、バイクにまたがり、エンジンをふかした。
間一髪、非常口から飛び出したマイクは、
「…カイ!」
と、大きな声で名前を呼んだ。
名前を呼ばれたカイは、ゆっくりと振り返った。
マイクの姿を見ると、カイは不敵な笑みを浮かべて、
「…久しぶりだな、マイク」
と、皮肉めいた言葉を吐いたが、それ以上の言葉を返すことはなかった。
間髪入れず、マイクはカイの方へと歩み寄った。
しかし、マイクが距離を詰めようとした瞬間、
「…行くか!」
と、カイが一声叫ぶと、エンジン音が轟音を立てた。
カイたちは、一斉にバイクに乗り込み、会場を後にしようとした。
「…待て!」
マイクは、必死にカイを止めようとしたが、時すでに遅し。
カイたちは、次々とバイクを走らせて姿を消していった。
見逃すまいと、マイクは、近くに止めてあった一台のバイクに飛び乗った。
間もなく、無線からパトカー隊員の報告が入ってきた。
「…こちらパトカー3号。市内中心部にて、バイクが追走劇を繰り広げている。バイクを運転しているのは4人で、その中にはジャック、そしてギャングのメンバーであるジョーなどがいます」
無線越しに聞こえてきた報告に、局長の顔が青ざめた。
「…剣持! マイクとカイを追跡しろ! リンも同行しろ!」
局長は、慌てふためいて指示を出した。
リンは剣持と一緒に行くと言っています。署長は同意しました。
リンと剣持は、顔を見合わせて無言の合意を交わすと、パトカーに乗り込み、無線で指示された場所へと急行した。
現場へ向かう車中、張り詰めた緊張感が漂っていた。




