7. 光陰矢の如し
それからすぐにドクターが到着して、ソフィアの治療を行った。皇太子も急いで駆けつけた。
「どうかな?」
「殿下、申し上げます。的確な応急処置のため、最悪の事態は免れました。今は落ち着いておられますが、予断は許されません」
「そうか、わかった。ドクター、これは何があったと思う?」
「確実なことはわかりませんが、呪いをお受けになられた可能性があります」
呪いは魔法を使える人が行う犯罪の中で、最もポピュラーなものの一つだ。
「ドクター、このことはまだ内密にね。何かあったら連絡させるよ。いいね、サーシャ」
「はい。かしこまりました」
「では、私はこれで失礼いたします」
ドクターは丁寧な動作で立ち去った。
「最近何か変わったことは?」
「特にはありません」
「心当たりは?」
「わかりません。お仕事のことかもしれませんが……」
「ここにいないことが多いからね。サーシャ狙いかもしれない」
ラインハルトは何とか心を落ち着かせようとした。
「はぁ、ちょっと二人にしてもらっていい?何かあったらすぐ呼ぶから」
「かしこまりました。失礼いたします」
サーシャは気丈そうにしている。ラインハルトはしっかりしているなと感心した。
ラインハルトはソフィアが寝ているベッドに近づいた。
「ソフィア……」
「私はだいじょうぶだから、泣くな」
ソフィアはうっすら目を開けた。
「泣いてない」
「そうか」
「起きてたんですね」
「だから、大丈夫だ」
何が大丈夫なのかわからなかった。ソフィアの顔は真っ青になっている。
「ずっとここにいたい」
「仕事があるだろう」
「ここでするから」
「いやすぎる」
「じゃあ、朝まではここに居る」
「しかし」
「居るから」
「……そう」
ソフィアはラインハルトが時折頑固になると知っていたため、頑固ムーブだなコレと諦めた。
「手握ってもいい?」
「つぶすかもしれないよ」
私はくるみもメロンも潰せると嘯いた。ラインハルトは本当かな?と笑った。そして、学生時代はりんごを潰せると言っていたことを思い出した。ラインハルトにとってあまりいい思い出ではない。
「ソフィア、潰れませんよ。私はあなたより大きくなったんだ」
だからなに?それ関係ある?とソフィアは不審そうな顔をした。
「えーと、その、もう少し頼ってほしい。私も成長したんです」
「……そうか、そうだね」
5年、否、ソフィアが卒業してからあまり会っていないため、その期間を入れると、8年間にもなる。その間、ソフィアはラインハルトに会う機会が激減していた。大きくなっているのも変わったところがあるのも当たり前かとソフィアは納得した。
「手を握ってもらっても?」
「はい」
ラインハルトは快く右手を出した。
「おやすみ」
ソフィアはおやすみ三秒というようにすぐ眠ってしまった。起きているのが辛かったのだろう。
それから、ソフィアは丸三日寝込んだ。