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3. 会いたくて会いたくて震える

 ここはカンラン宮。側室のソフィアにあてがわれた住まいだ。と言っても、ソフィアは仕事がとってもとぉっても忙しいため、年に数回しか来ていない。しかし、時々、ここには皇太子のラインハルトが一人で訪れていた。

 ラインハルトは後悔していた。ソフィアを側室にするために彼女の嫌いなやり方をとったことを。これは、そうでもしないと、ソフィアはふっとどこかに行ってしまうという危機感や焦りを抱いていたからだ。しかし、どこかで彼女に甘えていたのだろうと思った。ソフィアは年下の自分には優しく、何をしても結局最後には許してくれると思っていた。そして、忘れていたのだ。ソフィアは怒ったらかなり怖い。学生時代に、ソフィアの同級生のどこぞの伯爵令嬢が彼女に嫌がらせをしたことがあった。そのせいで、ソフィアが大事にしていた懐中時計を壊されたのだ。あれは母の形見なんだと見せてくれたのを覚えている。彼女はにっこり笑って、烈火の如く怒っていた。あの人は怒る時、貼り付けたような笑顔で笑うのだ。その結果、ソフィアは懐中時計の弁償や詫びの品の用意をさせ、ついでに、金輪際、令嬢一家が彼女に近寄ることはなかった。

 ラインハルトはソフィアが怒っても自分はすぐに許されると無意識に感じていた。もしくは、謝る機会を与えてくれると思っていた。愚かだった。あれから5年。彼女の顔をわずかでも見れたのは6回で、そのうち儀礼的ではあるが、話せたのは3回ほどだ。取り付く島もない。

 彼はカンラン宮に来たところで、会えないことはわかっていても、度々足を運んでしまっていた。その回数はこの宮のただ一人の侍女であるサーシャと仲良くなるには十分なものだった。侍女が一人しかいないことも、ソフィアがこの宮に住む気がない、とりあえず人を置いておくかの気持ちのあらわれだった。

「ソフィアさーん、います?」

 女の声が聞こえた。いるわけないだろう、私だって会えていないんだからとラインハルトは不貞腐れている。

「ソフィアさーん?」

 そう言えば、サーシャが出かけるので留守番を頼まれていたのだった。彼女はラインハルトに留守番や魔法に関することをお願いすることがあった。サーシャはいるから試しにお願いしたら、わりと頼み事に応じてくれているし、魔法が使える殿下は正直ありがたいと感じていた。サーシャは魔法が使えないのだ。

「ソフィアさーん!」

「ソフィアはここにはいないよ」

「あ、で、殿下?し、し、失礼いたしましたー」

 わざとらしい演技にラインハルトは皇太子殿下様がカンラン宮にいるとわかって来たのだろうと察した。

「ソフィアに何か用かな?ここにはあまり帰ってこないよ」

「そうですか、お渡したい書類があったのですが……」

「そうか、君は?」

「ソフィアさ、様の職場の後輩のイライザと申します。ソフィア様は私の指導係でいつも大変お世話になっています」

「へぇ」

 ラインハルトは彼女が魔法省の職員ということはソフィアがカンラン宮に全然帰っていないのを知っているはずだと推察した。いつも会えてます、いいでしょーとでも言いに来たのか?と見当違いの嫉妬でぐーるぐるしていた。

「あの、あまりここには帰っていませんよね……」

「そうだけど?」

 つい、棘のある声になってしまった。

「い、いえ、あのー、ソフィアさんは職場によくいるので」

「そうだね」

 ラインハルトは面倒くさげに対応した。そして、この天真爛漫さから、男に邪険にされたこと無いんだろうなーと邪推した。

「ドミトリー様とよく一緒におられるのをお見かけします」

「そうなんだ」

 うわ、出たー、定番のドミトリー・ソフィアの禁断カップルの噂。ラインハルトは毎度のこと告げ口されるため、少し飽きていた。

「殿下はご心配にならないのですか?」 

「ソフィアを信じているからね」

 初対面でここまでぐいぐい来るのは珍妙だとラインハルトは思った。付け加えると、彼はソフィアが自分やドミトリーにそういった類の大迷惑をかけないと信用している。ドミトリーも同様だ。

「ソフィアさんの本当の気持ち知りたくないですか?明日のお昼頃に資料室401に待ち合わせするので、殿下もいかがです?」

 興味ないねや嫌いと思われていたらどうしようと知るのが怖い気持ちがあったが、正直知りたいとラインハルトは思った。

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