18. 意思疎通は大事
突然タチアナに呼ばれたソフィアはサーシャを連れて転移魔法でタチアナの住むセキエイ宮に訪れた。
「タチアナさん、お茶会以来ですね」
「よくのうのうとしていられるわね!!!」
いきなりタチアナに怒鳴られたソフィアは大変驚いた。気が弱そうな見えたが、何かあったのだろうかと疑問に思った。
「いかがなされたのですか?」
「ゲオルグ様がお倒れになられたのですよ」
恐らくタチアナのもとに預けられたラーラの子だろうとソフィアは当たりをつけた。
「あなたが呪ったのでしょう?」
「いいえ、呪っていませんよ」
「しらばっくれても無駄よ!!今、祈祷師様が対応しております」
タチアナは呪い殺そうたってそうはいかないわと鼻息を荒くしている。
「ドクターは呼びましたか?」
「祈祷師様がいらっしゃるのに?必要無いわ」
祈祷師様ねぇとソフィアは呆れた。祈祷師にもいろいろいるが、大抵は眉唾物の技を披露して問題の解決を遅らせる存在だった。
「サーシャ、ドクターを呼んできて。タチアナさんのところのゲオルグ様がお倒れになられたって伝えて」
「はい」
ソフィアはサーシャを転移魔法でドクターの元に飛ばした。
「祈祷師様の邪魔をなさるの?」
「ドクターに知らせないよりは知らせた方がいいでしょう」
「呪ったくせに素知らぬ顔をして……!」
「殿下にはご連絡したのですか?」
「ええ、もちろん」
ソフィアはタチアナと話す気力が立ち消えそうになった。
「そうですか。なぜ私が呪ったと思ったのですか?」
「この後宮であなたが一番魔法がお出来になりますもの!!」
「何か呪ったという証拠は見つかったのですか?」
「いいえ、でも、私はきちんとゲオルグ様のお世話をしております。それなのにお倒れになられたというのは、呪われたに違いありませんわ!!!」
ソフィアは話が通じない人間やよくわからない価値観に支配されて喚き散らす人間が嫌いだった。目の前にいるタチアナのような状態の人と関わりたくないため、もう帰ろうかなと思っていた。
「皇太子殿下のお出ましです」
「タチアナ、何があった?」
「ゲオルグ様がソフィアに呪われたのです」
「……!?」
皇太子は困惑した。ゲオルグがいる方を見ると、怪しげな祈祷師が対処をしていた。
「殿下、先程ドクターにゲオルグ様がお倒れになられていると伝えるために、使いを出しました」
「ありがとう、ソフィア」
「お前が呪った癖に!!」
タチアナは据わった目でソフィアを見つめてきた。ソフィアは心底関わりたくなかったため、目を逸らした。
「なぜソフィアが呪ったと思っているのだ?」
「ソフィアが一番後宮では魔法が上手ですもの!それに……」
「それに?」
「あの女はラーラに呪われたというではありませんか。その復讐です!!」
ソフィアは面倒くさくなった。対人関係におけるストレスを極度に感じていた。
「それは噂だよ」
「いいえ、違います!だって、皇太子妃殿下が私におっしゃったのですよ」
タチアナは子どもを育てることが不安だったため、皇太子妃に相談した。どうやら、その時に言ったようだ。ソフィアはあちゃーっと目を瞑った。
「皇太子妃が?」
「ええ、そうです!!」
「殿下!ドクターがご到着されました」
「わかった。タチアナ、暫しの間休みなさい」
「ですが!!!」
あの女がまだという顔をソフィアに向けた。ソフィアはこっちを見ないでくれと思った。
「大丈夫だから。あなたが体調を崩してしまったら、あの子が悲しむ」
「……かしこまりました。失礼致します。」
「ドクター、ゲオルグを診てくれ」
「かしこまりました」
ドクターはゲオルグを見に行った。その後すぐに祈祷師が追い出されていった。
「サーシャ、呼んできてくれてありがとう。殿下、私は仕事を残して来ておりますので、失礼いたします」
「ソフィア」
ソフィアは呼ばれたため、足を止めて振り返った。
「皇太子妃はなぜあのようなことを言ったと思う?」
「ハル、聞きたいことがあるなら本人に聞けばいい。マリアナと話し合いなさいな」
ソフィアはセキエイ宮を出て、すたこらさっさっと仕事に戻った。