小話5. 家族の話をしてみたよ×2
母の話をしよう。
ソフィアの母は身体や心があまり強くなかった。天気や他人の噂話に影響されて、よく寝込んでいた。父は愛人にばかり足を運んで、元気にイチャイチャしていた。使用人は母が先は長くないと言い、愛人にばかり媚を売り、親戚の中には口さがない噂を流す者もいた。早く死ねば良いのにと聞こえよがしに言う人間までいた。そのような状況だったが、父は母に何もしなかった。
とうとう、母は気に病んで、自殺してしまった。ソフィアが八歳の時だ。ソフィアはこんなところに置いていくとはひどい母だと感じた。しかし、そうは思っても、母の形見の品を手放すことはできなかった。父は喪が明けるとすぐに愛人を後妻に迎えた。二人の間には男の子が生まれており、その子を跡取りにするためだろう。愛人であった義母に意地悪をされたというわけではないが、実母にこだわるソフィアに家での居場所はなかった。そのため、学校に通い始めると、休暇期間には寮に留まり、家に帰ることはなかった。卒業をし、魔法省に勤めてからも同様だった。父や義母からは特に咎める連絡も無かった。
皇太子の側室にさせられた時に、久しぶりに父と義母に会った。二人とも我が家から皇太子殿下の側室が出るなんて嬉しいと泣いていた。ソフィアは特に何も思わなかった。ただ、一つわがままを言ってもいいですかと健気ぶって聞いた。父はもちろん何でも言いなさいと鷹揚に頷いた。ソフィアは父にラリアットを打った。これぐらいしても許されるだろうと思った。
妹の話をしよう。
ドミトリーは両親や妹が薄っすら苦手だった。理由はよくわからないが、幼い頃から妹と関わることを避けていた。大きな喧嘩をしたわけでもなく、嫌いというわけでもない。妹がずっと幼い頃は天真爛漫で微笑ましく思ったこともあったが、いつからか、妹が皇太子妃となるべく教育を受けてからだろうか。ドミトリーは妹が変わってしまったと幼心に感じた。
妹は努力して学び、教養や所作を身につけていた。ドミトリーはあの熱意に尊敬の念すら覚えていた。妹は皇太子殿下のためですものとにっこり笑っていた。そんな妹を両親は非常に可愛がっていたと同時に期待をかけていた。だから、自分は可愛いと思わなくても大丈夫だろう、面倒を殊更見る必要は無いだろうと思い、勉強がある、武術の稽古があると言って、関わり合いを避けていた。兄であるドミトリーがそのようなことをしても、代わりに遊んであげる人間は余るほどいたのだ。同じ学校に通うようになっても、勉強に忙しいだの、稽古をするだの言って、あまり構わなかった。妹は、お兄様はお忙しいのねとにっこりと笑っていた。妹が皇太子妃となっても、特に関わり合いが深くなることはなかった。皇太子妃となった当初は、顔を見に行っていたが、長居はしたことがなかった。母や父が気にかけている、誇りに思っていると話をして、仕事があると言って帰っていた。妹は、お兄様お元気でとにっこり笑って見送っていた。
繰り返すが、ドミトリーは妹が嫌いなわけではない。どういうわけか、彼女のにっこり笑った顔が苦手だった。