16. 嘘も方便
ソフィアとサーシャはカンラン宮に戻った。サーシャは今日の特売は仕方なしと諦めた。
「サーシャ、怪我はしてないかい?」
「少し口の中が切れただけです」
ジュリアが率いていた警備の人間に取り押さえられた際に、彼らの肘が当たって口内が切れていた。
「ドクターに見てもらった方が……」
「平気ですって」
「とりあえず口の中見せてくれ」
「あー」
大事にはなっていないかと確認できて、ソフィアは安心した。
「それより、その格好で何してたんですか?山歩き?」
「うん!薬草探しも兼ねてね。もうすぐで頂上だったんだ、あと一歩で。そうあと一歩で……」
「それはお楽しみのところ、すみませんね」
「サーシャ、何かあったときには呼んでと言っただでしょう?」
「ええ、助かりました」
「なら、よかった」
サーシャが無事で何よりだと笑っていた。ジュリアに対してのおっかない態度は霧散していた。
「でも、頂上目前で転移しちゃったからショックで、ジュリアさんに八つ当たりしてしまったなぁ。やりすぎだったよねー」
「正直やりすぎてましたけれど、たぶん大丈夫ですよ。あれでもう手は出してこないでしょうし」
「まあ、何があるかわからないから、さっきのやつまた渡しとくね」
「あれ、使い捨てなんですか?」
「うん。転移の幅をえらく広げてるから結構消費が激しいんだ。これ、軽量化したニュータイプだよ」
ふふふ、道具は常に進化しているとソフィは笑った。
「魔法って便利なんですね」
「うん?どうしたの、いきなり」
「ほらさっき言ってた、あのー、後追いの魔法なんてあるんですね」
「あー、あれはね。悪いんだけど、ハッタリだよ。いろいろ準備すればできるけど、パッとすぐには無理」
「え?」
「ついでに、あのイヤリングは偽物じゃなくて本物だよ、ふふふ」
ソフィアはにやりと悪どい顔をした。
「どうしてすぐバレる嘘をつくんですか?」
「案外バレないかもよ。魔法を使える人間はね、自分が何を使えて何が使えないかは秘密なんだ。手持ちのカードは明かさないみたいな感じでね」
「ソフィア様が後追い魔法使えないってバレなくても、イヤリングの方は調べたらバレますよね」
「バレたとしても所詮は素人の目だからね、謝れば済むよ。それくらい鑑定は難しい。それに、ジュリアさんはおいそれと鑑定には出さないと思うよ」
「なんでですか?フツー気になりますよね」
「気になるけど、貴族は体面重視だからね。付けていたイヤリングが万一偽物だって判明する方がダメージが大きい。なら、そのイヤリングは捨てて、新しいものを購入した方がいいだろうよ」
サーシャは本当に嫌な人だなとソフィアの性格の悪さを更新した。
「それに、サーシャはやっていないから、大事にして、詳しく調べられたらあっちが都合悪いと思ってね」
自分のことを信じてくれたのかと思い、ソフィアに対する好感度が上がった。
「ジュリアさんに撤回するつもりはないけれど、言い過ぎたって謝った方がいいよなー。妊娠おめでとうのなんか持ってでも行こうかなぁ」
「やめといた方がいいですよ。行く方が迷惑です」
そっかーとソフィアは苦笑いし、妊娠しているのにストレスをかけて悪かったなと空々しい反省をしていた。
その夜、皇太子がカンラン宮を訪れた。
「サーシャ、ジュリアと何かあった?」
皇太子は何らかの報告を受けたのだろうとサーシャは思った。
「ジュリア様は何と?」
「何でもないと青ざめた顔をしていたよ」
「じゃあ、何もなかったんですよ」
サーシャはにこにこ笑った。
「……もし何かあったら、ソフィアじゃなくて、私かドミトリーに相談した方がいい場合もあるからね」
皇太子は困った顔をしている。
「学生時代からそうなんだが、ソフィアは手加減を知らないっていうか、相手を震え上がらせるまで気が済まないというか……。ソフィアに誰が何を言っても特に変わらなくてね」
「はあ」
サーシャはソフィアがジュリアの震えている様子を見て、これでオッケーみたいな顔をしていたような気がしてきた。
「私と会う前の方がもっとひどかったとドミトリーは言っていたんだが……。事を穏便に済ませたかったら、私かドミトリーに言ってくれ」
お願いねと皇太子は苦笑いしながら言った。サーシャは多分この人もソフィアに苦労したんだろうなと思いを馳せた。




