14. 思い立ったが吉日
ソフィアはドクターに言いつけられていた療養生活を終えた。四ヶ月の長い期間だった。これは、ソフィアが魔法禁止と言われていたのにも関わらず、乱発してしまい、身体が疲弊してしまっていたことが原因で、自業自得とも言える。
何はともあれ、療養生活を終えたソフィアはうきうきだった。さようなら暇!さようなら退屈な日々よ!ばんざーい、ばんざーい、ばんざーいと万歳三唱した。
「サーシャ、これからちょっとあけるからよろしくね」
サーシャは事前に報告して一定期間カンラン宮に帰らないという行動をとったソフィアに成長を感じた。今まではフラッといなくなってフラッと帰ってきていたのだ。
「そういえば、どこか行かれるのですか?」
「うん。行きたいところがたくさんあってね」
ちゃんと皇太子殿下にも伝えた気がするよとソフィアは胸を張った。
「もし何かあったら魔法省に来てね。ワンチャン私いるかもしれないし」
「はい。いなかったら他の職員の方かドミトリー様を頼ればいいんですよね?」
「うん。でも、やばいことがあったらあのボタン押してね!」
ソフィアは元気よく念押しした。あのボタンとはサーシャに携帯させている魔法道具のことだ。このボタンを押すと三秒後にソフィアが出現するという優れものだ。魔法が使えない人でも使用することができ、ソフィアが作ったものだ。
「じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃいませ~、ソフィア様」
サーシャは暇暇暇とうるさいソフィアがいなくなったので、少し清々した。
それから、しばらくは平穏な日々が続いた。しかし、ある日、側室ジュリアの使いだという侍女がカンラン宮を訪れた。
「サーシャさん、ジュリア様が呼んでおられます」
「ソフィア様ではなく?」
「ええ、あなたです」
サーシャは硬い表情をした侍女に連れられ、ジュリアの住むキララ宮を訪れた。
「あなたがサーシャね」
「はい。ジュリア様にご挨拶申し上げます。ご用件は何でしょうか?」
「会話を楽しむということをしないのかしら。あなたも、ソフィアさんも……」
ジュリアはお茶会に参加して、すぐに逃げ帰ったソフィアを思い出し、嘲笑った。
「まあいいわ。どうしてもあなたに用があるの」
「はぁ」
「ソフィアさんと殿下のことを教えてほしいの。今までなーんにもしてこなかったあの女に殿下が足繁く通っていらっしゃる。何か秘密があるに違いないわ」
ジュリアは派手に着飾った装飾品を揺らして、サーシャに目をやった。
「もちろん。相応のお金は差し上げるわ」
サーシャは自分を馬鹿にしている女の目を見た。
「ソフィアに会う前はあなた、盗みで生計を立てていたんでしょう?……それに平民のあなたはいくらお金があっても足りないはずですわ」
「結構です」
「あら、いいの?」
「ご用件は以上ですね?失礼いたします」
サーシャはカンラン宮に帰った。ジュリアにはもう会いたくないなと思った。
キララ宮にはサーシャに出て行かれたジュリアの侍女が険しい顔をして、主人の機嫌を伺った。
「ジュリア様、いかがいたしましょうか?」
「あたくし、ソフィアが帰ってきたら、自分の侍女も、殿下の寵愛も失っていた時の表情に興味があるわ」
ジュリアの笑い声がキララ宮に響いた。