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5 あれが王子の恩人

 次の日、王子と一緒に浜辺に行くと、傘を差して王子を待ってる人がいた。昨日もいた女の人。

 えっと、…ジョーだ。プリスカジョー。

「殿下!」

 プリスカジョーは隣にいる私に気がつかない振りをして軽く突き飛ばし、王子の腕に手を回し、一緒に歩き始めようとした。

 ところが、王子はその手をするりと交わし、よろけた私の腕を掴んで

「大丈夫?」

と声をかけてくれた。

 頷いて、でも一歩下がる。プリスカジョーが恐いから。

 王子の側近の人が私の手を取り、王子はプリスカジョーが再び腕にしがみついたのに合わせて歩き出した。

 元気の良いメスだ。産卵期に赤くなって相手を呼び寄せる連中を思い出す。

 金色の髪が軽くウェーブして、太陽の光でキラキラキラキラ。服もキラキラだ。布を何重にも使った服を着て、あれで海に入ったら絶対助からないだろう。特に一番上の布は厚みがあって、水を吸ったらあれだけで持ち上がらなくなりそう。

 私がお屋敷で借りている服はもっと簡単なもので、軽くて助かってる。

 (泳いでもいい?)

「オヨグ ヨシ ?」

 側近の人に聞くと、

「その格好で?」

と聞き返された。

 人間は泳ぐ時、そのまま泳ぐんじゃないのか。私の知ってる人間は服のまま泳いでた人が大半だけど、そう言えば、今の私より、ずっと簡単な格好になってた。短いズボンとか、袖がないシャツとか。

 つまり、この格好は泳ぐのには適さない、と言うことかな。


 プリスカジョーは、王子にベタベタ触りまくり、顔を寄せて、上目遣いで見つめながら話をしてる。王子はちょっと困った顔をしているけど、プリスカジョーには効いてない。

「私がお助けした殿下は…」

 二言目にはそう言って、恩をアピールして、無理を通してる。どこの世界でも弱みを握られると駄目だね。

「陛下から王城へ参上するよう、お声がかかってますのよ、是非殿下と一緒にと。…臣下として当然のことをしましたのに。ふふふ。殿下のご都合はいかが? 殿下の日程に合わせますわ」

 側近の人に

 (あそこは王様のお城じゃないの?)

「オウサマ シロ ナイ?」

と聞いて、今お邪魔しているお屋敷の方を指さすと、

「ああ、あそこは別荘だよ」

と答えた。

「殿下は王命を受けて別の街へ行く途中、船が難破し、この海岸にたどり着いたんだ。プリスカ・ノルデン子爵令嬢が打ち上げられた殿下を見つけて、子爵家に招いて世話をしてくれはしたようなんだけど、」

 プリスカジョーをちらっと見ると、急に小声になって、

「殿下以外の遭難者の救助に積極的じゃなくて…。結局殿下が子爵家から馬車を借り、みんなを別荘に連れて行ったんだ。…近くに王家の別荘があって本当に助かったよ」

 何だか側近の人のプリスカジョーを見る目がかなり恐い。相当懐疑的だ。

 まあ、打ち上げられたところを助けた、ってのは、まんざら嘘じゃないんだろうけど。

 ここまで届けたの、私だし。

 (みんなは? 大丈夫だった)

「ミンナ? ダイジョウブ?」

「船乗り達はみんな家に帰ったよ」

 そうか。みんな元気で帰れて良かった。


 海を見ると、馴染みのイルカが冷やかしに来てた。

 近づくとばしゃりと水をかけられたので、そのまま海に入ってイルカにしがみついた。

 はじめ慌てていた側近の人達も、私がイルカと遊んでいるのを見て、少し安心した様子で見守ってくれていた。

 なるほど、人間になるとイルカにまたがって乗れるんだ。いつも一緒にスピード競争してたけど、こんな風に乗っかったままジャンプとか楽しめるとは思わなかった。

 ― いつ戻れるの?

 イルカに聞かれた。

 ― 王子を殺せばすぐにでも

 ― ほんと? 帰ってくるの、待ってるから

 いっぱい遊んで、浅瀬まで送ってもらい、手を振ると、沖にいた仲間の元へジャンプしながら泳いでいった。

 そうだね。そろそろ殺す方法、考えなくっちゃ。


 びちょびちょになった私を見て、王子は笑って頭を撫でた。

「イルカと友達なんだ」

 (そうだよ)

「ハイ」

「まるで海から来たみたいだね」

 げほっ。

 いきなり言い当てられて、肺呼吸が乱れた。

「僕の大伯母が、君のように走るより泳ぐ方がうまい人でね。自分は海から来たんだって言って、イルカと一緒に泳いで見せることもあって、それがうらやましかったなあ」

 ああ、大伯母様がそんなことを…。意外と大伯母様も元人魚だったりして。

「いいなあ…」

 王子はイルカのいた海を見ながら、本当にうらやましそうにしていた。


 プリスカジョーは海の日差しはお肌に悪いから、と、自分が満足するまでいちゃついたら帰ったらしい。

 私達も王様の別荘に戻った。びちょびちょだった私は今日も大きな布に捲かれ、王子に荷物のように担がれて馬車に乗った。…乗ったというより、積まれたって感じ。


「プリスカ嬢、どう思う?」

 夕食を取っていると、いきなり王子に聞かれた。

 (どうって…? 海、嫌いそうだし、あんな格好じゃ泳げないね)

「ウミ キライ オヨグ ナイ」

 側近の人が軽くぷっと吹き出した。王子はあまり表情を変えず、

「そうなんだよな…。君のように海が好きな人なら、偶然見つけたって言われても違和感はないんだけど、どうして海で僕を見つけることができたのか」

 あれ? 助けてもらったことに違和感を持ってる?

 他のみんなをちゃんと助けなかったから?

 大して海が好きでもない人、日差しが気になる人が、たまたま通りすがりに波打ち際に王子様が落ちてましたってのは、確率としてはかなり低いだろう。でも私だって、溺れてると思って岸まで運び込んだのがたまたま王子だった訳だし。意外と王子遭遇率って高いのかも。王子オーラが呼び寄せるとか??

 プリスカジョーは、下手に恩着せがましくするから疑われるんだよね。

「そう言えば、海岸で聞けなかったな。指環を見つけた場所を確認しようと思ってたんだ」

 いきなりの話題転換ながら、王子にとって会いたかったのはプリスカジョーより積み荷の方かも知れない。

「指環があったの、どの辺りか覚えてるか?」

 どの辺りって…

 (海)

「ウミ」

 海を指さしてみたものの、この先ずっと行ったところの、沈んだ船の中にあった木箱の中、とは言いがたい。

「海か…」

 あまりに漠然とした言い方に、ちょっとがっかりした様子。

 他にも大事な物があったんだろう。遭難でいろんな物をなくし、王様に怒られたりしてるんだろうか。

 探し物の話はそこまでで、後はおいしくご飯をいただいた。


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