4 人魚は歩いてみる
晩ご飯は、なんと王子と同席だった。
一応知ってる。王族と一緒にいられるのは選ばれた者だけ。今の私は多分選ばれない雑魚のはず。
食事には海の幸のほか、噂に聞く陸の獣や陸の葉っぱが使われている。
シーフードが苦手? そんな訳ない。毎日食べてるのはシーフードだ。むしろ陸の物を食べられるか、そっちの方が不安だ。
父が持っている三叉槍に似た小型の突き刺す物で食べるらしい。魚を捕まえるには小さすぎるけど、食べ物を刺すには丁度いい。
お、なかなかおいしい。
「口に合うか?」
こくこくと頷いて答える。王子はおもてなしに成功して満足なご様子。
(何これ?)
「ナニ コレ」
「豚肉とじゃがいもだ」
? ?? …食べ物には違いない。大丈夫、毒じゃなさそう。
「マリーナは普段は何を食べてる?」
(海藻とか、小魚とか…小さかった頃はプランクトンとか)
「カイソウ サカナ チイサカッタ チイサイ プカプカ」
何だか私が話すたびに楽しそうに笑ってるけど、この翻訳、変なのかな。大丈夫かな。
「明日、一緒に海岸に行こうか」
王子からお誘いを受けた。でも私なんか連れて行ってどうするんだろう。
ま、まさか、私が殺そうとしているのを知ってて、そのまま海で抹殺…なんて事はないか。むしろ助けてもらってるし。
船が沈んで、いろいろ困ってるのかな。指環以外の物も探したいとか…? 私から何か手がかりを得たいと思うよね。拾ったのは海の中だけど。
人魚だったら手伝ってあげられることもあるだろうけど、人間としては何もできない。
できそうなことがあれば、協力してもいいか。
こくり、とうなずいたら、笑顔が返ってきた。
ちょっとドキッとする。顔だけ…、とは言うまい。今のところ対応も悪くはない。
食事が終わると部屋に戻ったけど、まだ歩き慣れてないのでギクシャクして、ペンギンのように左右に体が揺れてしまう。裸足を許してもらえてるけど、足、結構痛いし、腰の辺りからお尻があって、関節があって、前後に動くってのがまだ理解できない。
早いとこ人間に慣れないと、殺った後、逃げ切れず殺られちゃう。
完璧な殺しは、健康な体から。
部屋に戻ってからも、ゆっくりと歩く練習をした。尾びれで跳びながら移動するよりは合理的だけど、バランス取るの、結構難しい。右、左、じゃなくて、右前、左前。
そのうち、走ったりできるようになるのかな。
砂浜を走ってみたいな…




