10 王子が船に乗った理由
謁見の間には王様と王子と私が残り、側近の人も数人を残して退出した。
どうやら、王様も承知の上でのお裁きだったみたいで、王様ったら愉快そうに笑ってる。
わざわざ呼び出して捕まえるのか。ちょっと悪趣味。
王子は王様に追加の報告をした。
「目的はやはり、密輸品の証拠隠滅でしょう。沈んだ船の積荷から大量の武器が見つかっています。差出人は商会を名乗っていましたが、実体はありませんでした。積荷を手配したのは子爵家の息のかかった者で、既に捕らえています。ライバル領の支援する船会社を使い、沈めるのも躊躇なかったでしょうね」
それを聞いて、
「たまたまでもそんな船に乗り込もうとは。おまえも運がないな」
そう言って笑う王様を、王子は冷ややかな目で睨んだ。
「急な仕事で予定していた客船に乗り遅れたのです。その仕事を入れたのはどなたでしたっけね」
王様は肘おきに腕をついて顎を乗せ、完全にくつろいでる。
「馴染みの船長に会って、好意で乗せてもらえた貨物船を沈められるなんて…。おかげで武器密輸事件は解決しそうですが、まさか命をかけることになるとは思いもしませんでしたよ」
あの時気がつかなければ、本当に死んでたもんね。助けられて良かった。
退出するタイミングがわからず、二人の会話を聞きながらどうしたらいいか困っていた私に、王様が声をかけてきた。
「マリーナ殿だったかな。茶番に付き合わせてしまったな。許せ」
許せと言われても、こっちは蚊帳の外というか、そもそもこの話、私なんぞが聞いていい内容だったんだろうか。
「指環だけでなく、宝石箱も探し出してくれたと聞いた。あれは大事な物でな。改めて礼を言う」
こんなに重ね重ねお礼を言われると、こっちが恐縮しちゃう。
王様は側近に合図して、私が拾ってきたあの宝石箱を持って来させた。
「王子よ、あんな目に遭った後で申し訳ないが、今一度メルクヴェグまで行ってもらえるか」
王様は宝石箱を王子に差し出し、王子はしっかりと受け取った。
「…承知しました」
「アンシェラがおまえを待ってる。おまえも会えて嬉しいだろう?」
王子はちょっとすました顔をしながらも、まんざらでもなさそう。
そうか。あの宝石箱は、アンシェラなる人に渡すためのものだったのか。その中身に王家の紋章入りの指環が入っていたという事は…。
そうかぁ。なるほど。それであんなに探してたし、あんなに感謝されたんだ。
途中であんな事故に遭いながらも再度の依頼も受けるほど、王子にとってアンシェラという人は大事な人なんだ。貨物船に乗り込んででも急ぎ旅を続けるほどに。
私が馬車でかなり弱っていたので、王子が帰りは船にしようと提案してくれ、王都から別荘に近いツィーブラウの港まで船で戻ることになった。
そのままその船に乗っていれば、アンシェラという人がいるメルクヴェグまで直行できるのに、私を降ろすためにツィーブラウで一度降りると言った。海の王国にも近い港だ。
うっかり忘れてたけど、私は王子を殺しに来たんだった。
今夜の船で、決着をつけよう。