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死者と生者のスパイコンビ  作者: ノーム
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5話 暗躍する者

 ドアが二回こんこんとなる。

「王、バジル・トラントフォードでごさいます。本日はお話があり参りました」

「入れ」

「はっ!」

 古いドアが開けられ、古いドア特有の小うるさい音が響く。

 バジルの目の前には、見た目が二十歳くらいの男性と、三十代半ばくらいの女性がいる。

 男性の方は、頭全体を囲う小さな冠を付け、玉座に座っている。

 最近代替わりしたオリディアン王国の王、カイム・オリディアンその人である。

 開けられたドアの前で、バジルは入室する前に深く礼をし、ゆっくりとした足取りでやたらデカくて長いソファの前に立つ。

 部屋の中にはどれも高そうな絵画や装飾品で飾られてある。

 カーペットはまるで柔らかいベットの上に立っていると錯覚するほどフカフカで、これ一つで庶民の家など簡単に買えてしまう程の金額だと思い知らされる。

「…座れ」

「はっ!」

 返事をし、そのソファの真ん中に座る。

 バジルの後ろのドアが使用人によって音をたて閉まる。

「本日は何用だ?[王国宮廷スパイチームNo.9]バジルトラントフォード」

 王の秘書の女性がバジルに問う。

「いちいちフルネームで呼ぶの疲れないか秘書さんよっ。てかここ完全防音なんだろうな?知っていると思うがスパイチームって極秘の職業だかんな。そこんとこちゃんと考えてる?」

 秘書、ハラム・ハイラームの顔に血管が浮かび上がる。

「王!こんな無礼者…!」

「黙れ」

 王がハラムを一喝する。

「ですがっ!」

「黙れと言っている!」

「はっ…」

 王に気圧され、ハラムは押し黙る。

「二人で話したい。すまぬが出ていってくれないか?」

「はっ!」

 王の命令に従い、ハラムは王室を出ていった。


 ハラムが出ていきドアが閉まった後。

「いちいち会うたび敬語使うのめんどくせえな、カイム」

「ほんとそれな。王様になっていい事と言えば権力と私財ぐらいだな。仕事は非常に面倒くさいな。ところで報告ってなんだ?お前らの執務室にアルバエイドが入っていったらしいがついにやったのか?」

「ああ、殺ってついに念願の室長になったさ。これで四人目が集められる」

「確か今回は…」

「銃が効かないとかいうふざけた能力だ」

「そうか。エステルを始末した以上そいつは問題ないな。ただ銃が効かないだけというならバサラームは必要ないな。…あいつはなるべく使いたくないしな」

「あいつは少々問題があるからなぁ…。それはまあともかく、俺が行く」

「大丈夫か?」

「ああ。俺は近接戦も大得意だからな。銃なんか必要ない」

「ならいいが」

 カイムは目を細める。

「油断はするな。曲がりなりにもそいつはエステルの弟子だからな」

「分かってるさ。それに、」

 バジルは俺に紙束の資料をよこすと、顔に笑みを張り付ける。

「リオールなんかより俺の方が強い事を証明する為の第一歩だ。カイロットはエステルに拾われた[王国宮廷スパイチーム]っていう称号だけは一人前の小物さ。銃が効かないってのに銃にびびる。俺の敵じゃあない」

 バジルはペラペラとカイロットを否定する。

 それが油断だと知りながら。

「それじゃあ失礼するよ」

 そう言い、バジルは王室を出ていった。

 少々嫌な予感がしたが…。

「バジルなら問題ないか」

 そう呟きながら俺はついさっきバジルから受け取った資料を流し見る。


 ・[王国宮廷スパイチーム(バジル・トラントフォード、ネーヴェ・エイザップ、バガラ・クロスアート以外)の暗殺

 ・説)ロイズ・バーラードは既に買収済み

 現在の[王国宮廷スパイチーム]の人数は、たったの7人

 内3人が[反逆組]、内1人が傍観者

 追伸・全然問題ないぜぇー!


 …一夜でできるものなのか?

 俺は不安を拭えないまま、おうさまっていうめちゃくちゃ面倒臭い仕事を再開した。



 おにぎりを齧る。

 ひじきを買ったつもりだったのに昆布味だった。

 レシートを見るとなんと昆布おにぎりだった。

 …マジかよ。

「一睡もしてないんだろ?もう寝とけ」

「ああ…そうだな」

 ロットが眠そうな俺を心配する。

 一昨日から俺は一睡もしていないのだ。

 人間、一日寝るのを我慢するのは問題ないが、二日目となると日常生活に支障が起こる。

 ましては今夜2時43分(1時30分と書いてあった)から危険度[S]の任務が室長となったバジルからきたのだ。

 万全の状態で挑まなければならない。

「今は昼の12時30か…後12時間ぐらい寝れるな」

「幸せだな。まあその分寝てないだけだけど」

「プラマイゼロだなぁ」

 そんな話しをしながらさっさと二つ目のおにぎり(またもや昆布)に手をつけた時、

「今日のS級任務、俺と代わってくれないか?」

「え?」

 まさかの提案に俺は驚く。

「なんでだ?お前の任務がまさかの危険度MAXだったりする?」

 「いや、普通に情報屋の殲滅だけど」

 そう言いながらロットはコーラを飲む。

「危険度は?」

「もちろんC」

「頼むわ」

 ロットがいきなりコーラを噴き出す。

「きったねぇ!」

「ああすまんすまん…。まさかそんな簡単に諦めてくれるとは思わなくてな(笑)」

「いや…わざわざ死ぬ確率がめちゃくちゃ高い所に自分から飛び込みたいとは思わんだろ?」

「その分稼げるから他のみんなは自分より難易度の低い任務を他人と交換なんかしないからな」

「へー。金より命の俺には分からんわ…。それより何で?お前の事だから別に金が目当てって訳じゃないんだろ?」

 ロットは顔に笑みを張り付ける。

「室長が新しくなったからな。俺の強さの証明…的な」

「的なって…まあいいか」

 そう言いながら俺はおにぎりを飲み込みながら席を立ち、食事室を出て自分の仕事席の引き出しを漁る。

 そうして今夜の任務の書類を取り出し、食事室へ戻りロットにその書類を渡す。

 そして肉弁当を開ける。

「ほう。まあSって大体こんなだよな」

 俺がやる予定だった危険度[S]の任務の内容は、

 ・ダーベスト伯爵の護衛、カリヌン・ヘーストの殺害

 の一つだけである。

「まあそのカリなんとかがめちゃくちゃ強いからSなんだろうけど」

「一対一だからでもあるな。まあお相手さんは一人だとは限らないし」

「………」

 俺は少し不安になる。

「…いけるな?」

「ああ、楽勝さ」

 そう言い、ロットは肉まんを食べ終えて執務室を出ていった。

「…お前もいなくなるなよ…絶対に」

 俺は小さな声で、そう呟いた。


任務の危険度は全8段階

E→D→C→B→A→S→MAX

      ↓

    判断不可

基本的に[王国宮廷スパイチーム]の正式隊員は危険度C以上の任務を行う。

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