3話 疲れ、疑問
「…疲れたな」
情報屋の任務をメルとこなし、その後メルと朝食を食べに行った。
そして今から、王城にある秘密組織[王国宮廷スパイチーム]の執務室へ行き、室長であるガルーズ室長に完了報告をしなければならないのである。
[王国宮廷スパイチーム]の毎日は、昼寝て深夜仕事という昼夜逆転の生活を余儀なくさせられる職業である。
この仕事でエステルは死んでしまったから今すぐに退職したいのだが…スパイという職業上簡単に退職する事が出来ない。
勝手に辞めると最悪秘匿死刑だ。
スパイはあらゆる国の秘密やもちろん自国の弱点やら何でも知っていると言っても過言ではない。
だから国にとっての地雷でもあるのだ。
階段を下りる。
秘密組織というだけあり、執務室は地下にある。
階段を下りた後、そこにはロックがかけられた扉があった。
「[K]だ。開けろ」
俺がそう言うと、扉のロックが解除された。
「俺でーす。失礼」
そう言い、中に入る。
中には、スパイチームとは思えないくらい普通の会社のような執務室で、隊員の数分の席があった。
エステルが死んでしまい、一席だけ空いているが。
「カイか。ご苦労様」
赤髪の室長、ガルーズ・スクリュートンが応えた。
ガルーズは長髪をゴムで無理矢理束ねている髪形の男性だ。
ガルーズの業務机には沢山の書類が積まれていた。
「ああ。ガルーズさんも忙しいな」
「いつもの事だよ」
自分の席に座り、業務連絡帳に今日の情報屋が握っていた情報、メイの戦闘能力について書く。
書き終わった後立ち上がり、ふと隣りの席を見る。
エステルの席に…当たり前というかエステルはいない。
エステルの席を見つめている俺に。
「すまんね。まだ彼女は見つかっていないんだ…」
「そうですか…」
「私の第1部隊に協力させようと思うのだが…」
「いやいや大丈夫ですって。あいつは…大丈夫ですよ。きっと」
「そうか…」
ガルーズさんは、俺のエステルを探し出したいという我儘に協力してくれている恩人だ。
だからこそあまり無理をしないでほしい。
俺はガルーズの机に、自分の業務連絡帳を置く。
「お先に」
そう言いながら扉を開ける。
「ああ。気をつけてな」
そして俺は、執務室を後にした。
階段を上る。
この王城とスパイチームの執務室を繋げる階段は、やたら長い。
「相変わらず疲れる…」
俺が息をきらしながら眠気を必死に殺して上っていくていると。
「お、カイじゃん」
階段を降っていたバジルと会った。
[王国宮廷スパイチームNo.9]
バジル・トラントフォード。
金髪のイケメン。
昔エステルを俺から盗もうとした男狐だ。
今も昔もエステルは俺の物でもないが。
「なんだよ?機嫌良さそうだな」
俺は興味なさげに言う。
「逆にお前は機嫌が悪いようだぞ?エステルは見つからなかったのか?」
思わず俺は目を見開く。
エステルの死体の捜索は俺とガルーズ室長とエステルの管理下にあたる第2部隊のスパイしか知らないはず!
基本、たかが死体の捜索の為に数少ない部隊をひとつでも動かしてはいけないからだ。
「なっ…!なんでお前がその事を!」
「いやー風の噂でね?見つかるといいな」
バジルはにやりと笑う。
「…お前は何を知っている?」
俺が真剣に尋ねると。
「何とはなんだ?エステルの死体の場所の事か?エステルを殺した奴の事か?エステルのバストサイズか?いやーでかいよなーGはあるよなGは」
…何を言っているんだ?
こいつは…どこまで知っているんだ?
「おい…無論エステルのバストサイズは知っているが。もう一度聞くから答えろバジル。…お前はエステルを殺した奴とエステルの死体の場所を知っているのか…?」
「…さあな?」
それだけ言うとバジルは階段を下りていった。
「いつか分かるさ」
そして執務室へ入っていった。
…なんだかとてもきな臭かった。
次の日、ガルーズ・スクリュートン室長が死亡したという連絡が入った。