2話 目覚め、現実
「うおおおおおお!エステルー!助けろください!早くっ!早くっ!」
俺は必死で敵の玉を避け、特に名前が無い普通の銃で敵に攻撃する。
「分かってるよー!でもちょっと想定外かな…。まさかカイのキャラが崩壊する程敵の数が多いなんて…参ったなぁ」
そう言いながらエステルは[カラシ]、正式名称[カラシニコフ AK 47]というバケモノアサルトライフを連射する。
「参ったなぁじゃねえええええええええ!」
カラシとは勝手にエステルが付けたニックネームだが、可愛い?ニックネームが似合わない程バケモノ銃である。
この銃は元々サイズがデカく、玉を30弾装着できたり、殺傷力が高いというコスパがいい武器なのだが…。
それを更にエステルが改造し、小型版にしたおかげで、もう敵なしの虐殺状態である。
俺を巻き込まないように正確に敵の脳髄を…!
「あっぶねえええええええ!」
「ごめん!なるべく気をつけるけど死ぬ気で避けて!」
前言撤回、俺の脳髄もぶちまけられる所だった。
だが俺を狙うのはエステルだけではなく…。
エステルの虐殺ショーによる被害に遭わなかった奴らが、先に雑魚を始末しようとしてか俺に一斉射撃する。
「自分の身は自分で!てかカイ別に当たっても大丈夫でしょ!」
「嘘だろ嘘だろ嘘だろー!?そーゆー問題じゃねえよ!もう次からは絶対に計画たてるからなああああああああ!」
流石危険度[A]。
いくら銃で死なない体になっていても、高速であちこちから飛んでくる玉は怖すぎる。
俺は泣き叫びながら必死に敵の攻撃を避け続け、反撃に出た。
任務前、「俺達2人なら無敵だよな?」とか言ってた自分がすごく恥ずかしいくらいの戦いだった。
…もちろん、任務は達成したが。
その後、俺はエステルと共に夜のゲームと洒落込んだ。
*
「起きてくださーい。先輩」
「ん…?」
意識が現実へ引き戻される。
「終わりましたよ!コンプリートですっ!」
「そうか…」
目を擦る。
目の前にはメルが居る。
メル・ジェネラートは俺の後輩。
青い髪の綺麗というより可愛い寄りの17歳の少女。
どうやら俺は夢を見ていたようだ。
エステルとの日々の。
自分の任務が終わった途端に敵のアジトで寝る。
どんどんエステル化しているなと思う。
「んじゃ帰るか」
「はい」
俺はメルを連れて廃ビルから出ると、駐車場に出た。
今回の任務は危険度[C]である、廃ビルにて行われている敵国の情報屋による情報共有会の阻止。
情報屋とは、いわゆる「スパイになりたかったが、戦闘能力が皆無だった」奴らが敵国の懐に入り込み、敵国の情報を収集する仕事だ。
だから大体の新人スパイは上官のスパイと共に情報屋に殴り込み、経験を積む。
情報屋も簡単にやられないよう、それなりのボディーガードやらを雇ってはいるが、所詮普通の人間が鍛えた程度。
ボディーガードはそれなりになろうとするには難しいらしいが、所詮人。
まるで俺が人間ではないみたいに言っているが、間違ってはいない。
どういう訳か…俺は銃に撃たれても死なないのだ。
正確には、銃から撃たれた物。
別に体が鋼鉄で出来てる訳でもなく、刃物で切られたら普段に肉薄され、普通に出血する体だが。
「いやーすごかったですねー先輩の体。先輩が先輩側のボディーガード達を全て倒してすぐ寝た後、私が殺り逃してしまった1人のボディーガードが寝ている先輩に一発頭に撃ったんですよ。…でも先輩無傷(笑)!」
そう言ってメルは笑う。
俺からしたら全然笑い事じゃないが。
「この体に感謝しかないな…てかお前殺り逃すなよ、減点だな」
「えー!」
「えー!じゃねーよ。俺じゃなかったら死んでたからな?」
俺は思わず溜息をつく。
まるで昔の自分を見ているようで。
メルを見るとほっぺたを膨らましてむくれている。
エステルも拗ねた時よくやってた仕草だ。
…いかんいかん。
死人にいつまでも想いを寄せていてはな。
完了報告を、[王国宮廷スパイチーム 室長ガルーズ・スクリュートン]にする為廃ビルの駐車場から出て、王国の王城へと歩き出す。
大体3時を回った頃の街は暗い。
ここから王城まで大体40分くらいの距離があり、交通機関を使いたいが…ある理由で金があまりなく無駄遣いをしたくない。
「んじゃーガルーズに報告した後[デリ]にでも行くか」
[デリ]とは俺が勝手にレストラン[デリシャス]を省略しているだけである。
「嫌ですよ昨日も一昨日もそうだったじゃないですか。流石に飽きます」
「そりゃそうだよな、あいつがおかしいだけか」
エステルとの食事と言えばこの国にいる時はずっと[デリ]だったからな。
「あいつって…またエステルさんの事ですか?」
「ああーすまんな。エステルが死んで…もう2週間か。時間が経つのは早いものだな」
「ですねぇ。…そういえばエステルさんのお墓は後どれくらいで完成されるんですか?」
「後1週間後ぐらいだってさ」
「それって…早い方じゃないですか?普通お墓って1ヶ月以上はかかるんじゃ?」
「大金はたいたからな。そうしてくれなきゃ困る」
スパイを生業としている人は、大体身内がいない。
スパイという職業は、身内にさえ知られてはいけない。
だから…身内がいない為エステルの墓は作られる事がないので、その分俺が大金を支払い作ってもらった。
[王国宮廷スパイチーム]は国の秘密機関によって構成されている重大な職業なので、もちろん給料はそこそこ高いが…。
「墓って滅茶苦茶高いな。いい墓って普通に3桁超えるんだな」
墓が高すぎて、もう俺は全然金がない。
「そりゃそうですよ。相場は150万ぐらいが妥当な金額ですからね」
「おー詳しいな」
「私両親殺されていますからね」
「…生々しいな」
するとメルは微笑むと。
「まあ今となっては気にしてないですけどね。ところでどれくらいの値段のお墓にしたんですか?」
俺はケータイを弄って購入画面を開き、メルに見せる。
「あー。これ」
「どれどれーまさかケチったりは流石にしてませんよ…!ね?」
俺が金額を見せた途端にメルが固まる。
「どした?」
「いや…まさかこの国で一番高いお墓だとは思いませんでしたよ」
庵治石。
300万円。
「どれだけ好きだったんですか…!?」
「無論、今も好きだがな。…どうやら俺は知らないうちにあいつに依存していたらしい」
「そうですか、まあ知ってましたけどね。お墓ができましたらすぐお参りに行きますか」
「ああ、そうだな…そこにあいつはいないだろうが」
俺はボソッと呟いた。
「ん?何か言いました?」
「いや、何でもない。そういやどこ食べに行く?」
「えーとじゃあー………」
墓が出来たとしても、そこに埋めてやるエステルの死体は、無い。
これは、エステルが死ぬ前の記憶。
「お前は俺の敵じゃない。銃の扱いがたけた子供だ。そしてこのエステルという女も…。こいつは少々手強かったが…俺の敵ではない」
「エステル!おいエステルッ!起きろよ!」
「だが…上の変態からの命令でな…死体はこちらで保存する事になる」
「ゴフッ…」
エステルが血を吐く。
「エステル!大丈夫かっ!?くそっ!」
俺はエステルの胸に手押し当て、一生懸命に胸骨を圧迫させる。
自分の背中に切り刻まれた傷は気にせずに。
「なので綺麗に殺さなければいけない」
エステルから血が出る程、心臓が弱くなっていっている。
血止めはしているが、効果は薄い。
「お前はこいつが死んだ事を報告する係だ。俺の雇い主は2人いるからな。お前だけは帰還させなければならない」
人口呼吸をする。
このままじゃ!
エステルがっ!
「そろそろ効いてきたな」
呼吸を辞め、もう一度胸骨を圧迫させようとするが…。
「は?」
いきなり体に力が入らなくなり、俺は倒れた。
「効果は薄くしているが…以外に効いてしまっているな…しょうがない」
するとリオールは俺とエステルを持ち上げ、歩き出した。
「何を…する気…だ?」
だんだん脳が働かなくなっていき、ぼうっとした頭で聞く。
「いつかお前も殺す。絶対にな」
恐ろしい声で言ってきた。
「俺が、先にお前を…殺してやるよ…」
「ふっ」
そいつは笑った。
…そこで俺の意識は途切れた。
次に目を覚ました後、どこを探してもエステルは見つからなかった。
…死体さえも。
この世界のスパイの定期とは、
・敵の情報の収集
・敵の企画書、実験結果や戦争兵器などの奪取
・敵の暗殺
などである。