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死者と生者のスパイコンビ  作者: ノーム
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1話 在りし日の記憶

 それは、俺がまだ[王国宮廷スパイチーム]に正式入隊したばかりで、エステルと肩を並べられるよう必死に頑張っている時期であった。

「私は負けた事がないからね。今回も確実に成功するよ」

 よく聞き慣れたセリフだ。

 毎度毎度緊張せずに、例えどんな重大な任務だって平然と遂行する事ができる。

 だが…彼女も一応人間。

 だから負けた事はないって言っても…。

「まあ確かにお前は負けた事はないが…失敗は結構してるだろ?」

 失敗はよくする。

 何度危険にさらされたか数え切れない。

 負けない?

 よく失敗する?

 ああ、主語が抜けていたな。

 俺達は、

「もっとスパイとして作戦とかたてないか?俺とお前のコンビがそろそろ認められつつあるんだからさ、そろそろノープランだと困ると思うのだが…」

 スパイだ。

「そんな事言ってもねぇ。動きが制限されないからノープランの方がいいと私は考えてるんだけど」

「…俺達ぐらいだぞ?作戦立てずに命令された瞬間に行動するチームは」

「てか失敗って言っても任務自体は成功しかした事ないからいいんですー」

「はいはい最強の[S]様」

「分かったのならよろしい[K]君」

 そう言ってエステルはハンバーガーを口に運ぶ。

 此処は俺達の所属する[王国宮廷スパイチーム]の元隊員のロード・クリスペルが運営しているジャンクフード店、[デリシャス]。

 俺達の師匠とも呼べるロードさんの店。

 ロードさんが急にスパイをやめてジャンクフード店を開店すると聞いた時は流石に驚いた。

 しかも名前が安直すぎる。

 ともかくこの[デリシャス]は俺達の溜まり場となっている。

「おいしー」

「ジャンクフードしか食べてないって言っても違いないのになんでお前は痩せてんの?」

 つくづく不思議に思う。

 なんでエステルはジャンクフードばっかり食べるのに痩せているんだと。

 本人曰く。

「その分人を吹っ飛ばしてるからねー」

「お前ぐらいしかそのセリフは使えない」

 そう言い、俺もハンバーガーをかじる。

 何故かすごく美味しい。

「ロードさん、あんたがスパイやめた理由が分かったよ」、と初めて食べた時俺は思わずロードさんに言ってしまったくらいだ。

 メロンソーダを飲みながら、俺は今日の夜の任務が書かれたケータイの画面をもう一度見直す。

 今更ながら緊張してきた。

 今はこんな風に俺とエステルは緊張感無くハンバーガーを食ってはいるが、今日の深夜1時27分から危険度[A]の任務があるのだ。

 はっきり言って今の俺のレベルでどうにか出来る危険度ではない。

 主戦力であるエステルは…。

「何度食べても飽きないね!」

「不安だ…」


「では、今日もやっていきましょう!」

「ああ、なんかいける気がする!深夜テンションって恐ろしいよな」

 目の前にはいかにも貴族様の家という感じの豪邸が。

 その庭に俺達は迷彩柄の服を着て寝っ転がっていた。

 いや、今から侵入する家の庭で寝っ転がっているのはおかしいと分かっているが、エステルと共に任務をこなしていくたび、すっかり慣れてしまった。

 …嫌な慣れだ。

 現時刻2時30分。

 作戦実行まで後10分。

 何処で誰に見られたり聞かれたり知られていてもいいよう、命令された時刻の1時間13分後に任務をこなすように決められている。

 まあ1時間13分についても知られていたら意味を為さないが。

「久しぶりだよね。私達が攻める側って」

「そうだな。人員不足が激しいからだそうだぞ」

 俺達は普段、こうこっそり誰かの暗殺、とかではなく、基本指定された場所の防衛。

 厳密に言えば俺達はスパイではなく、いわゆるスパイのスパイだ。

 そんな俺達に、今回は珍しくエザレルド伯爵家が開発中の戦争兵器の毒の対象の依頼。

 俺は、室長からの命令を思い出す。

「この毒は薄く、体に回りにくい分無臭で気付かれにくく、一度外に出すだけで1週間は残り続けるというある意味普通の猛毒より恐ろしい毒だそうだ。

猛毒などは色が濃いため気付きやすいからな。

それを大量生産される前に研究に関わる者、製作に関わる資料の暗殺、又は奪取。

その危険度は8段階中の6番目に値する[A]だ。

まあ頑張ってこい」

 まあ頑張ってこいって軽いよな。

「ねえねえ今作戦を思いついたよ」

 エステルの言葉で俺は思考を中断する。

「一応聞くけど言ってみ」

 するとエステルはニコッ!と笑い。

「今思いついた作戦は、まず私が敵さん達を倒す。その後私は敵の毒をどうにかする。カイは私の援護。おっけい?」

「それを作戦とは言わないが可愛いからいいや」

 エステルの作戦では俺は完全にいらない子となっているが。

 異様にエステルのニコッ!が可愛いので何も指摘しない。

「やっぱカイって私の事好きでしょ?告白なら今の内にしといた方がいいよー。私ってばすごくモテるので」

「あー遠慮しとくよ。別にお前はめちゃくちゃ俺のタイプだけど」

「それ告白みたいなものだよ。もう…奥手だなぁ。このヘタレ!」

「うっせーよ。この自意識過剰め!」

 そんな事を言い合っているうちに。

「時間だね」

「だな」

 エステルは立ち上がると。

「今日もちゃっちゃとクリアしちゃってカイん家でゲームやろうね」

「ああ、俺達2人なら無敵だよな」

 そう言って、俺とエステルはエザレルドの豪邸に侵入した。

 舞台はオリディアン王国

 

 

 

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