10話 回戦
…なんでこいつ舞い上がってんの???
今、俺はガスマスクをして毒ガスか充満している部屋に背伸びをしている黒装束を着た男と一緒にいる。
もちろん黒装束の背伸びはマスクもなんもつけていない。
普通なら即死してもいいくらいの毒が充満する中、そいつは深呼吸する。
「すはー」
「ちょっ…え?…え?」
俺が混乱していると、そいつ、バリッテット・ナイラームは笑いながら言う。
「あーお前らでも知らんかったか。俺実は…って言う必要ないか。自分の手の内を晒す三流に成り下がるところだったぜ。と、言う訳で」
急に真面目な顔になったバリッテットが、俺に向かってナイフを三本投げつける。
「ちっ!」
俺は舌打ちをしながら急にきたナイフを自分のポケットにぶら下げていた子刀で捌く。
俺が捌いている隙をつき、バリッテットが背後に回り、またナイフを今度は五本投げつける。
三本を対処している内に冷静さを取り戻した俺は簡単に五本を対処すると。
パシャッ!
「なっ!」
「うっしかかった」
五本の内最後の一つを切断したら、その中から透明な毒が噴出する。
正確にはナイフの側面に小さなプラスチック製のケースに入った毒が付いているだけだが。
俺の利き腕である右腕に液体がへばりついている。
…簡単な罠にかかった!
最初の三本で油断してしまっていた自分に嫌気が差す。
何かしらの毒をくらって隙がうまれてしまった俺にバリッテットは銃を乱射する。
俺はその攻撃を回転しながら避ける。
…まずい。
どんどん右腕に力がなくなっていく。
麻痺毒か。
ていうかバリッテットに俺が噴出した毒ガスの効果全然出てねぇ!
特異体質かなんかか???
「動きが鈍くなってるぞ?」
「だろうな…!」
逆にバリッテットは模擬戦の時よりも倍以上強え!
ドーピングでもしてんのか!?
バリッテットと距離をとると、バリッテットは動かずに銃を乱射する。
それを俺が小刀で弾き、毒針をバリッテットの銃口にピンポイントで投げつけて、つまらせる。
投げつけたのが毒針なのはそれしかなかったからであり、特に意味はない…。
「毒で動きが鈍くなり、相手の想定以上の強さに動揺し、想定外の展開に動揺し、余りの自分の迂闊さに動揺する…。はっきり言ってお前は俺の想定以下だ。そんなんで俺に勝てると思うな。三流が」
バリッテットは銃口が詰まった銃を俺に向けながら言う。
「……っ!」
一瞬感情任せにしようとした自分がいたが、踏ん張った。
それは…正論だったから。
…確かにバリッテットの言う通りだな。
少しずつ冷静さを取り戻していく自分が居る。
俺ははっきり言って凡人だ。
だが…俺の強さは強差だけではない。
そう…俺がこいつに勝つ方法とは。
「来い!ラオール…」
俺は背をのけ反りながらその名を叫ぶ。
そう。
最強の殺人鬼兼、暗殺者。
「バサラーム!!!」
「なっ!?」
だが…。
静寂。
二人の間に沈黙が走る…瞬間。
「ひゃはっ!」
「くそったれえええ!」
俺は自分の太腿に巻いていた巻物からナイフをバリッテットの肩に投げつけ、命中した。
「フェイクかよっ!」
バリッテットが痛がっている隙を見逃さず、俺は最後のスプレー缶から毒ガスを噴出。
今回は目眩しの為で、だ。
「しっ!」
そうして俺は、逃げた。
*
「はぁーはぁーはぁー、はあー」
肩で何度も呼吸をする事10数秒。
呼吸が整い、ネーヴェとバガラがイヤホン越しで話しているのに気付く。
俺は今度はその会話に集中する。
すると、
[ラオールに任せちゃいましょうよ!]
[ラオールがやれば一瞬で殺ってくれる!]
そんなネーヴェとバガラの声。
…ラオールには、大切な役割がある。
「駄目だ」
「殺れ」
「命令だ」
俺はそんな言葉を立て続けに使い、ターゲット達を集合させてはならないなど適当な理由をでっち上げた後。
「死ぬぞ?」
と、脅したら…。
プツンー。
突然バガラの回線が落ちた。
「なっ!?どうしたんだアイツ!」
[…さっきバガラはロットが居るって言ってたわよ]
「…そうか」
…少しの間沈黙し。
[もしバガラ死んだら…許さないから]
プツンー。
そうして、ネーヴェが回線を切断した。
*
バジルが連絡を取っている壁裏で、バリッテットは盗聴していた。
恐らくバジルも分かってやっているだろう。
ネーヴェとバガラとバジルとリオール…じゃなくてラオール。
んで多分ヤーナも買収され、傍観者とかそこら辺だろう。
アイツは裏切るけど弁えているからな。
戦力としてはこっちが三であちらが四。
しかもそのうちの一人は滅茶苦茶に破茶滅茶に強い。
…今、俺の手でバジルは殺しておかなければ!
そう決めた瞬間、俺は一歩踏み出した。
…裏切り者を処罰する為に。
…最近どんどん投票率が悪くなっているような。気にしないで下さい…。あっ!そう言えばこれ見る人全然いませんでしたっけか!…虚しくなってきます。