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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
新章 カゲツ編2

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第997話 新商品を作る新商品

 ゲーム内大会も終わり、リアルコラボする入賞者の料理も出そろった。この後は、ハルの仕事。

 その料理たちを日本に具現化ぐげんかすることは、ゲームを作ることに関しては無敵の神様たちにも頼めないことだ。


 鉄は熱いうちに打てではないが、大会からコラボまであまり日にちが空きすぎてもよくない。

 ハルは今、その準備の最終確認に追われている真っ最中なのだった。


「自業自得とはいえ、準備する物が多すぎる……」

「ほんとーに自業自得ですねー。ゲームじゃないんですよー。いっそ、魔法使っちゃいましょー」

「ダメだよカナリーちゃん。ゲームじゃないんだから」


 この時代、物流の記録に乗らない物品の存在はなかなかに違和感として目立つ。特に企業としての行動ともなれば。

 なので魔法でぱぱっと用意して終わり、ということも、なかなかはばかられた。


 そして、物理的な必要品が多いということは、それだけ関わる人間も多くなり、それだけ処理せねばならない手続きもまた多くなる。

 ある程度はルナに投げているハルだが、やはりハル本人でなければ分からないことも多く、常に忙しく自分が動く以外にないのであった。


「でもさでもさ? 何がそんなに必要なの? どんな料理でも、万能のエーテルで合成して終わりなんじゃないの?」

「そうです! ナノさんが頑張れば、<物質化>のようになんでも出来ると聞きました!」

「まあ、実際に出来ないこともない。ただ、どうしても素材が必要になるんだ。空気や水からいくらでも変換できる、なんて便利なものではなくってね」


 それでも、直接料理の材料を必要とすることを考えれば楽に済む。新鮮な食材を大量に仕入れて在庫を抱えることを考えなくていいのだから。

 しかし、それでもある程度“近い”物質が必要だ。完全再現をうたっているハルのシステムは、簡易な合成食品用のペーストだけでは少々弱いところがあった。


「料理の『調理時間』がかさみすぎる。特に、メニューを増やせば増やすほど」

「どーしても、複雑になりますからねー。細かな味の再現には、通常供給されるペーストからでは変換に時間が掛かり過ぎるんですー」

「むむむ! 魔法を使う時に、工程が多いと大変だから、一部を事前に専用装備で補っておく、みたいなものでしょうか!」

「魔石だ魔石。一工程で発動可能な、マジックアイテムを作っておくのだ」


 アイリとユキが、それぞれ自分の得意な領分にて理解を進める。概ね、近い例えを見つけて納得を得られたようである。


 俗称『プリンター』の名で親しまれるエーテルマテリアライザ。物質生成装置だが、その生成速度には弱点がある。

 生成物が複雑になるほど、そして種類が多岐たきにわたるほど、当たり前だがスピードは落ちて行くのだ。


 今回、ハルが行おうとしているのは、まさにそのどちらも含まれる。

 思い付きのように、『落選者の料理も味わえたらよくない?』、などと考えてしまった為に、自分の首を絞めることになったのだ。


 今もこうしてカナリーたちと喋ってはいるが、現場では分身が忙しく対応中だ。分身出来て本当によかった。

 いや、欲を言うなら分身を多数送り込んで、同時並行的に処理したいくらいだ。場所が日本なので、それは出来ない相談だが。


「そもそも、どういう設定にしたん? 全員が平等になったら、大会の意味なくない? 私が優勝者だったら、怒り狂う。がるるる」

「お怒りを、お収めください!」

「がるるー」

「ユキは恐いどころか可愛いけど、確かにそんなだったら嫌になっちゃうね。せっかく頑張ったのに」

「なので今回は、あくまでメニューには乗らないんですよー」

「そうなんだ?」


 そうなのである。あくまで、店のメニューに掲載されるのは入賞者のみ。落選した者は、コラボ表示される栄光にはあずかれない。

 しかし、それでも注文を可能することは簡単だ。装置に、ソフィーたちの料理も登録してやればいいだけなのだから。


「ゲームを、大会を知ってる視聴者はね、その中に出た料理を『裏メニュー』として注文することで、同じように店内に召喚できるんだよ」

「食べ物召喚魔法だ! 時代がゲームに追いついてきたのう」

「……召喚されたお食事は、元々はどこにあったのでしょうか?」

「アイリちゃんアイリちゃん。真剣に考えない。それは、『ゲームだから』ね」

「魔法の言葉、久々なのです!」


 まさに料理を呼び出す現代の魔法。しかし、その魔法も万能ではない。

 それだけ多数の参加者の料理を登録するがゆえに、必要な素材数もまた膨大となる。


 マテリアライザは、前時代のコンピュータがメモリにまずはデータを移して処理するように、事前に材料ペーストから自機内に使いやすい形で素材を事前準備しておく。

 そこが、今回問題となる部分だ。料理の幅が広すぎる為に、どう考えても事前準備がしきれない。


「足りなくなった材料は、もちろんその都度、装置の中で補充されるんだけど、その時間でただでさえ遅めな待ち時間が更に嵩むんだ」

「店に行列が出来ちゃうんだねぇ」

「人気店の、宿命なのです! ハルさんの世界でも、そこを解消はしきれないのですね。意外ですー」

「そう、そこなんだよアイリ」

「??」


 画期的な新技術! として紹介するはずのハルのゲームと、そのリアル展開。それが、ハルのワガママによりケチが付こうとしている。

 待ち時間や行列は盛況ぶりを表しはするが、一方で『前時代的』と揶揄やゆされかねない。

 最新技術のお披露目のはずが、『なんだこんなものか』、というイメージを与えてしまうのだ。それでも、冷静に考えれば中身は凄いのだが、そうした第一印象は馬鹿にならない。


「なので僕は絶対に、今回のコラボ店舗にて、注文からの待ち時間を作ってはいけないんだ!」

「……別に、作ってもいいと思いますけどー。待つのも楽しみなことですしー」

「変に気にしすぎなんじゃないハル君? てか、この状況をゲームとして楽しんでるんじゃない?」

「いっそのこと、作っている時の姿をお見せしちゃいましょう! むしろ、わたくしが見たいです! どうやって出来るのでしょうか!」


 ……なんだか、女の子たちには特に問題視されていないようだ。ハルが一人でから回っているようにも思える。


 しかし、社長であるルナもこの判断には同意しており、製造工程はなるべく高速に済ますようにとのお達しだ。

 その為の予算には無制限に承認が下りており、ハルはそれを使ってなんとしてもこの事業ミッションを成功させなければならない使命があった。

 なので、今ハルはイベント準備として、届けられた大量の資材と向き合っている真っ最中。『なんだか昔のイベント設営みたいですね』、という関係者の無邪気な一言が胸に刺さる。


「まあ幸い、物の準備は滞りなく整った。パイプラインだけじゃ供給しきれないマテリアルが、大量に搬入はんにゅう済みだ」

「それが現代風の『下ごしらえした食材』って訳だねー」

「すごいですー!」


 加工に手間が掛かるのであれば、必要とされる物を事前に見積もって加工しておけばいい。

 開店前に下ごしらえする。基本だ。だかそれではまるで、昔ながらの飲食店だ。最新技術だったはずが、何故か時代に逆行していた。


 ハルは現地の大量に積み上げられた資材の山を、ユキやアイリにモニター越しに中継して見せてやった。


「おおー。こりゃ、アイリちゃんじゃないけど『すごいですー』だねぇ」

「ですー……」

「しかし、こんなに大量のマテリアル、本当に食べきれるの? 在庫過多になるよハル君? 赤字だ赤字。経営責任だ」

「経営者は僕じゃないし、今回はどれだけ赤字を出してもイベントが成功すれば許されるの」

「現代は『食材』が余ったところで大した問題にはなりませんしねー」


 前時代なら廃棄しなければならない所だが、現代では再分解してやればいいだけだ。

 大量に用意しておいて、デメリットなど特にない。ただし保管スペース以外。


「それに、この荷物の山は全部が食材って訳でもないんだよ。せいぜい半分かな」

「おや? いったい、何に使うのでしょう? わたくしでは、想像がつきません……」

「きっとお店の材料だぜアイリちゃん。建材だ建材。イベント用に、店を作り替えるのじゃ!」

「なんと! 一日二日でそんなことが!」

「半分正解だねユキ。店は作り替えたりはしないけど、装置は作り替える」


 今は、既存のマテリアライザに専用プログラムを読み込ませて強引に使っているが、専用機があるに越したことはない。

 今の物を流用できることも強みだが、高速な新製品があって困ることもないだろう。ついでに会社にとっても新たな収入源になる。

 ……なんだか、どんどんゲーム会社からかけ離れて行っている気がするが、今は気にするのをやめよう。イベントの成功だけを目指して思考停止するハルだった。


「その為の、マテリアライザをマテリアライズする巨大マテリアライザを発注した。まあ、実は無くても作れるんだけど、言い訳の為にね……」

「舌かみそだねハル君」

「工業装置を作る、工業装置です! 実在したのですね!」

「そりゃしますよアイリちゃんー。ゲームだって、現実が元になってる物が多いんですからねー」


 工場経営ゲームでも思い出したのか、興奮気味なアイリだった。確かに、日常生活においては一切接点のない装置であろう。

 ちなみにハルも接点がなかったのでここは少々楽しい。人の目が無ければ、自力で作ってしまうので用がないのだ。


「僕のゲームから出力することに特化した、専用機ってとこかな。ついでに、こいつのお披露目にもなるはずさ」

「これは売れる」

「売れますね! 一家に一台、なのです!」

「そこまで安くはならないと思いますよーアイリちゃんー」


 そんな風に、また思い付きで社会に大きく影響を与えそうな物を作り出しているハルである。

 ここの所、少々ハルにしては大きく動きすぎている自覚はあるが、これも半ば意識しての行動だ。


 月乃に言われたから、という訳ではないが、少々思う所のあるハルだ。ただ、この行動が吉と出るか凶と出るか、それはまだハルにも読めない。

 とはいえ、きっと皆はこの結果に喜んでくれるはずだ。今のところは、それで良いことにするハルなのだった。

※誤字修正を行いました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 新しいゲーム作るためにコントローラとかのハードから作ってるゲーム会社もありますし、それを思えば出力ハードを作るぐらいは許容範囲でしょうかぁ? 別会社が作ったハードを改造するならそのノウハウ…
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