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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
新章 カゲツ編2

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第989話 集めろ海の幸に山の幸

「さてさてぇ。皆さまお料理りょーり作ってますかぁ? 本日はこのゲーム、初の公式大会ということで、どなた様も盛り上がっていきましょ~。実況は私カゲツと~?」

「解説のハルでお送りします。よろしく」

「開発者のハルさんですぅ。ハルさん本日はよろしゅお願いします。お忙しいトコどうもどうもぉ」

「まあ色々と、ルールも複雑だしね。なにせ初めてのイベントだ」


 普段はランク毎に区分けされたランダムマッチで料理勝負をするくらいしか対人マルチ要素のないこのゲームだが、ここにきてついに公式大会が開かれることとなった。

 大会とは言っても前回のゲームのように、莫大な賞金が得られる訳でもない平和なもの。優勝しても、限定の『ブース』が入手できるくらいのものだ。


 しかし、初回のこのイベントでは試験的に、新たな入賞報酬が設定されていた。

 その内容は、最近ハルによって開発されたゲーム外への料理の『輸出』、その権利を得ることだった。


「もう味わってくれた人も多そうだけど、改めて説明しておこう。今このゲームでは店舗コラボとして、協賛店様にて実際にゲーム内と“同じ”料理を味わうことが可能だ」

「画期的ですなぁ」


《マジで画期的》

《味の革命じゃあ!》

《ゲームも進化したなぁ》

《美味しかった!》

《そうなんだよね。普通に美味しいのびっくり》

《頭おかしい技術》

《ゲームと同じ味だった!》

《めっちゃ並んだ(笑)》

《混みすぎー(笑)》


「失礼。次は、協力してくれる店舗数をもっと増やしていく予定だ」


 ハルは簡単に、この新しい技術について参加者と視聴者に説明していく。

 理論上、あらゆる物を自在に組み上げられても良いはずのエーテル技術。しかし今まで、こうした自由な料理の再現が出来なかったのも、ひとえに味覚のデータベースが存在しなかった為だ。

 今後は手探りでレシピの登録を行う必要はなく、この分野は飛躍的ひやくてきに発展を遂げるはずである。


 視聴者の中にも、そのことに気付いている者も一定数おり、また大会の参加者にも、どうやら早くも料理業界の者が混じっているようだった。


「ではではではでは? まずは大会の概要を紹介いたしますぅ。本大会の参加条件は、現行の最高ランクに到達したプレイヤー様のみ。逆に言えば、それ以外の要件はございません~」

「それなりに多くなったね、参加者数」

「みなさま頑張りましたなぁ~」

「カゲツ、平気そう? 全部試食できるかい?」

「まかせてくらはいー。私の胃袋は、神界に通じてるんですよぉ」

「嫌だなその神界……」


 異界ならぬ胃界いかいだろうか? まあ、冗談は抜きで言えば、ここはゲーム内で料理はただのデータ。カゲツがどれだけ食べようが、このすらりと綺麗なおなかが膨れることは一切ない。


「食材は現地調達、調理器具は持ち込み自由。一方、『ブース』は持ち込み数三個までと限らせてもらいます~。また、ランダムブースは今回登場いたしません~」

「ふむ? どうしてかな? 所持ブースのレアリティによる格差の是正かい?」

「それもなくはないですがぁ、今回はあくまで皆さまのおりょーりの腕、そこに重きを置かせてもらいたいと思っておりますのでぇ」

「なるほど。しかしそれなら、ブースは完全に無しで競った方が良いんじゃないの?」

「それもそれで、このゲームである意味がなくなりますからなぁ」


 客寄せと、序盤の加速の為には実に役立った『ブース』だが、リアルコラボを前提とした場合、微妙に扱いに困るようだ。

 なにせ、現実にはブースは存在しない。いや作れないこともないが、あったらあったでちょっとマズいだろう。


 なのでブース込みでの評価を重視しすぎてしまうと、いざ日本へと出力した際に、『なにか違う……』といったようになりかねないのだった。


 まあ、そこもある意味では利点として考えられるだろう。ゲーム内でしか体験できない味であるのなら、あえてこのゲームにログインしてくれる価値も出るというもの。

 それもコラボの醍醐味だろう。ぜひ実店舗とゲーム内でのブース込みの、味の比較を楽しんでほしい。


 そんな運営の思惑によるルール設定の成された初イベント。その開始時間が、そろそろ間近に迫ってきていた。





「さぁ~、各選手いっせいにすたーとぉ~。この広大なバトルフィールドに、思い思いに散って行ってますなぁ。ファイトですぅ」

「バトルではないけどね。フィールドにはそれぞれ、特色あるエリアで分けられている。各人、得意なジャンルがあってそこで食材を集めることになる」

「狩りをするんですなぁ」

「しないよ……、そういうゲームじゃないんだから……」


 残念ながら、狩りも釣りもしない。フィールドの見た目も、あくまで雰囲気を出すためのただのセット。海、山、平地に畑。変わったところでは砂漠など、様々なエリアが円形の中にぎゅっと詰め込まれていた。

 とはいえ実際は通常のランク戦と同様に、採取ポイントからランダムで食材が収集できる。狩りも釣りも必要ない。


 この一回きりの大事な大会において、材料がいつもと同じような運任せではやりきれない者も多いだろう。

 そこで、ある程度のゲーム要素は残しつつも、望んだ傾向の食材を確保できる形式にしたという訳だ。

 ランダムならではの楽しさは、普段の何度でも繰り返せる試合で楽しんでもらいたい。


「しかしこうなると、リアル料理人さん有利でしょーか? ゲーマーのセンスが問われる場所が少なそうですなぁ」

「確かにね。だが、スタートダッシュには皆迷いがない。料理人もゲーマーも、それぞれ各々の戦略を準備してきたようだよ?」


《動きで案外分かるもんだな(笑)》

《ゲーマー機敏すぎぃ!》

《料理ゲーとは……》

《素材収集タイムアタックでもしてんのか》

《料理人さんは足遅いけど迷いがないね》

《遅い訳じゃないから(笑)》

《変に速すぎる奴らが居るのが悪い》

《もう完全にレシピ決まってんだろうなー》


 片や、対戦アクションにでも臨むように、移動経路を的確に捉え、対戦相手との経路衝突バッティングを回避し、海へ山へとアクロバティックに駆けて行くゲーマーたち。

 片や、移動は彼らに比べゆっくりなれど、一切の迷いなく地図とレシピを片手に目的の素材を目指す料理人たち。


 食材の幅が大きく広がった今、彼らが実際に現実リアルで作っている料理の再現もここでほぼ可能になっていた。

 それを実直にこなすだけで、そこらの素人しろうとには負けぬという確固たる自信があるのだろう。


「しかしハルさん~」

「なんだい?」

「料理人さんたちは、この大会でわざわざ結果を残す必要はあるのでしょーかー? ゲーム経由でリアルに出力しなくともー、自分のお店で作ればいいだけのお話ですよねぇ」

「まあ、そう言ってしまえばそうなんだけど。でも宣伝にはなるよね。店の外で自分の味を知ってもらう良い機会だ」

「自分のとこのおりょーりを、合法的に他店で提供させる良いチャンスだってことですなぁ」

「言い方……」


 この場合やはり、使用料ロイヤリティは支払うべきだろうか。考えておいた方が良いのかも知れない。

 ただ他店で店のメニューの食事をされて、自分の所には来ないで終わり、となる懸念けねんだってある。

 もちろん入賞したことが店の宣伝にはなるだろうが、そのことで敬遠けいえんされて参加者が減っても仕方ない。


 とはいえ、あまり商業色の強い大会にしてカジュアルな楽しさが減ってしまうのもハルの望むところではない。

 そこは、これから少しずつ、慎重に考えていくとしよう。


「さぁーて、はやくもおりょーりに移った方もおりますなぁ。これは、ジャンルを絞りきった方々のようですぅ」

「そうだね。例えば、魚介一本に絞れば、ほぼ海エリアに行くだけで採取は終わる。その分、調理の時間をしっかりと確保できるだろう」

「やはり、今回も大量生産、大量出荷こそが正義なんですかぁ?」

「そうとも限らない。今回重要なのは、いかに『最高の一皿』で評価を稼げるかにかかっている。そこがおろそかだと、いかに品数を稼いでも順位は知れているだろう」

「なるほろぉ~」


《だったら材料集めはしっかりやらんとな》

《味に深みが足りん!》

《分からんぞ?》

《何でも入れれば良いってもんじゃない》

《海の料理は、海の素材だけで十分!》

《一か所だけで粘ってる奴もいるな》

《あれはレア素材狙いだろう》

《最初から特定の素材狙い撃ちだな》

《それが出るまで帰らない》

《タイムロスでは?》


 そうとも限らない。実際、一つの採取ポイントで粘り続ける者には、料理人系のプレイヤーの割合が高かった。

 自らの目指す『最高の一皿』の為に、食材に妥協は一切しない。その決意でもって、時間効率の悪さなど完全に無視し続けていた。


 とはいえ、そこに欲をかきすぎて調理時間が切れてしまっては本末転倒。

 その辺りの見切りの早さは、やはり普段からゲームに慣れ親しんでいる者たちの方が一歩リードしているようだった。


 レアアイテムの出現確率から逆算し、“体感”でどの程度時間を掛ければ出るかを読み取る嗅覚を彼らは持っている。

 ……その嗅覚が、どのような地獄を見てつちかわれてきたかは、あえて問わないハルだった。彼らにもきっと、色々とあったのだ。


《流石は爆死し続けて鍛えた嗅覚だ》

《ゲーマー陣もほぼ理想武器揃え終わったな》

《武器って言うな》

《バランス感強し》

《料理人さんはちょっと粘りすぎちゃってるね》

《そこはしゃーない。慣れてないだろ》

《いいバランス調整なんじゃない?》

《でもよ、もしゲーマーの料理人が居たら?》

《そらもう最強よ》


 素材集めは終わり、多くの者が調理に入った。カゲツの操作する視点が、モニターにその様子を次々と映し出していく。

 本職の者たちによる華麗な手さばきに視聴者は見入り、次々に出来上がっていく料理に舌を巻く。

 ゲーマーたちも負けてはいない。こんな大会に出るくらいだ、ゲーマーでありつつも、料理の腕には元々自信アリの者たちばかりなのだろう。


 その中には、事前発表会から引き続きミナミの姿も存在した。

 持ち前のゲームスキルによって、各エリアから現実的なラインでレア素材の数々を収集完了した者の一人のようだ。


「ミナミ、このゲーム結構やっていてくれたのか。大会に出てくるとはね」

「知っててあげてくらはい~」

「そうだね。すまない。しかし、ふむ? ミナミはともかく、これは使えるのでは?」

「ともかく、とか言わないであげてくらはい~。時に、何が使えるのですかぁ?」

「人気プレイヤーの手料理さ。マテリアライズしたら食べたくない?」


《食べたい! ミナミはともかく!》

《アイドルの手料理、だと……? ミナミはともかく》

《まあ、ミナミのもついでに食べてやってもいいぞ》

《どうしてもって言うならな。仕方ない》

《ただし優勝したらなミナミ》

《おまえら素直じゃないんだなぁ(笑)》


 コピーでしかないのが残念なところだが、しかしデータ上は、アイドルの作った手料理と全くの同一な物。

 これを食べられることに、ある種の需要は確実にあるだろう。


 ハルはそんな新たな商売の種について考えを広げつつ、真剣な顔で調理を続けていくプレイヤーたちを、一人ずつ確認していくのであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ある意味、ユーザーの味覚データとか含めて全て解析に回されていることを考えたら、このゲーム自体がカゲツの神界に収められていると言えますなぁ。そうなるとエメは胃液ということに~……? 雑な味…
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