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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
新章 カゲツ編2

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第987話 夢で見た味が再現される

 休暇から帰って数日、ハルたちはまたカゲツの料理ゲームの運営に奔走ほんそうしていた。

 データ採取は順調に進み、ゲーム内で再現出来る味覚の種類もそれに伴って順調に増えていっていた。


 今ではその噂を聞きつけたプロ、ここで言うのは現実リアルの本職料理人が、『どんなものか』と続々と参戦してきているらしい。

 ハルたちは、正確にはルナは、早くもそのことを利用すべく動き、彼らとのコラボレーション企画を迅速に組み上げたのだった。


「おおかた話は纏まったわね? 存外、乗り気な人達が多くてよかったわ」

「彼らとしても、待っていた部分はあったんだろうね、こうしたゲームが出てくるのを。いや、ゲームが出てくるとは思ってなかっただろうけど」

「そうね? でも、何だっていいんでしょう。ゲームだろうと、環境ソフトだろうと彼らにとっては」


 電脳世界ヴァーチャル現実世界リアルが密接に交差していて当然のこの現代。味覚を取り扱う商売である料理人たちにとっては、不遇ふぐうの日々が続いてきたと言っても過言ではない。

 それを打破するサービスが登場したとあっては、一も二もなく飛びつくのも自然なこと。

 特に売れている者たちほど、更に上を目指してサービスの向上を日々求めているのだ。


 ハルたちが今から訪ねて行くのも、そんな野心ある者が経営する実店舗が一つ。


 コラボと言っても今回のものは特殊だ。いつものように、ゲーム内に有名人を招いてパフォーマンスをしてもらうのとはまた違う。

 現実世界にて、ゲームの関連商品を物理的に販売してもらう形のコラボなのだった。


「わたくしも、行っていいのでしょうか!? わたくしが居たら、バレてしまわないでしょうか!?」

「大丈夫だよアイリ。ただ、また変装はして行こうね」

「はい! 頑張って、ナノさんでおめかしするのです! わたくしは、何もしないのですが、えへへへ」

「うん。可愛く仕上げるから、じっとしててね?」

「ハル君、私も変装してー。外出るの、なんかはずかし」

「ユキは変装した程度でどうにかならないでしょうに。色々と、規格外に大きいのだから」

「うー。そうなんだよねぇ。めだって、こまる」

「贅沢ねえ? あなたの体形、欲してやまない女子は多いでしょうに?」

「そうなんだろうけどさぁ。それはそれで、悩みは大きいと伝えてやりたい。あっ、そだ! ログインして参加はできないの?」

「だめ。ユキは日本では、体のユキでいなさいな」

「ぶーぶー。ハル君はいいのにー」

「ハルさんはプロフェッショナルですからねー」


 ユキもキャラクターボディを扱う能力はプロ級だが、それはあくまで電脳世界においての話だ。

 現実リアル、それも日本でとなると、不測の事態に対する対処が心配となる。ハルも、今日は横着おうちゃくせずに本体で参加予定だ。


「ところで、問題はやはりハルではないかしら? このメンバーで外出するならば、ハルこそ変装しないと目立ってしまうでしょう?」

「女装はしないよ……」

「まだ何も言っていないわよ?」


 だが、言い出すに決まっている。ルナのことだ。

 確かに、『ハルと女の子たちのハーレム』という組み合わせはセットで目立ってしまう。アイリとカナリー、異世界人を連れ歩くには危険と言えば危険。

 しかし、女装だけはゴメンこうむりたいハルだった。最近までずっと『ローズ』だったのだ。それで十分だろう。


「そもそも今日は、女装して行ったら意味ないんだよ。開発者のハルとして、相手先に挨拶しないといけないんだから」

「いいじゃないの。女装して挨拶すれば」

「よくないから……」


 別に、法に反しているという訳ではないが、今回はハルの性別は男だと相手もあらかじめ知っている。『実はリアルでは女の子だった』は通じない。

 しかも正式なコラボレーション相手なのだ。今日のことは公式にレポートされ公表される可能性だってある。

 アイリやカナリーの事は伏せてもらう事はお願いできても、ハルとルナの二人はそうはいかない。大々的に、『女装趣味のある青年』として世間に広まってしまうかも知れないのだ。


「断固拒否」

「まあ、仕方ないわね」

「お、めずらし。ルナちゃんがあっさりと引き下がった」

「私だって、未来の旦那様が女装趣味だと知れ渡るのも望みはしないわ?」

「夫婦だけの、秘密の趣味! なのですね!」

「その通りよ?」

「いやルナだけの秘密の趣味だから」


 とはいえ、別に何かしなくともたまに、ボーイッシュな少女と見紛みまがわれる事もあるハルである。

 そこが密かに、悩みといえば悩みなのであった。





 日本にあるユキの家に転移してそこから、皆で連れだって店舗へと移動する。他に家屋の無いひっそりと静かな丘の上から坂をくだり、お金持ちの多く住む閑静かんせいな住宅街を抜けて街に出る。


 今日の行き先は、ユキもたまに顔を出すというお菓子のお店。つまりは通りに面した、高級感溢れる有名店なのだった。


「わ。今日は混んでるよー。またにしよっかハル君」

「今日行かないでどうする……」

「相変わらず“こっち”のユキは臆病ねぇ?」

「大丈夫です! みなさま、きっと良い人ばっかりなのです、突撃です!」

「そうですよー? 今日はおやつをたらふく食べるんですからー、ここで引き返すなんて許しませんー」

「うううぅ……」


 人混みが苦手なユキが、いつもは落ち着いている店内が今日はコラボでごった返している様子に尻込みしている。

 その大きな背を小さく丸めておどおどしている姿は可愛らしいが、生憎あいにくそれほどビビる必要など特になかった。というのも。


「ほら、こっち。従業員用の裏口から入るよ? 今日はお客さんとして来たわけじゃないんだからね」

「あ、そだった。そだった」

「バラすのが早いわハル? もっと、ユキをいじめて楽しみましょう?」

「『いじめる』って言い切っちゃってるしルナちゃ……」

「海での恨みが、晴れていないのです!」


 キャラクター状態のユキに散々弄られた仕返しを、体のユキで晴らすつもりらしい。

 まあ、自業自得なので、ハルは止めない。女の子同士のじゃれ合いを見るのも良いものなのだ。『君子危うきに近寄らず』ともいう。


 そんなかしましいハルたち一行は、従業員用の通用口からこっそりと店内に入り、表の混雑を避けて専用スペースに通される。

 そこでは既に、店の店長であろう人物が待機しており、ハルたちの到来を待ち構えていた。

 お菓子職人のイメージにそぐわぬ大柄な男性は、ハルたち一行の姿を認めると素早く席を立ち、表情も明るくこちらへ歩み寄ってきた。


「おお、ようこそいらっしゃいました。今回は、初の貴重な試みに抜擢ばってきいただき、感謝にたえません。わたくし、ここのオーナーをやらせてもらっているものです」

「代表のハルです。よろしく。こちらが美月社長」

「よろしく」


 一歩後ろで控えたまま動かないルナの代わりに、ハルが大柄な店長と握手する。

 対応としては失礼と言って差し支えないが、相手も特に気にした様子はないようだ。まだルナが少女だからか、それとも良家の子女しじょ逆鱗げきりんに触れたくないためか。


「それで、こっちが社員の者たちです。……まあ、今日はお菓子が食べたくて付いてきただけのようなものですが」

「いえいえ構いませんよ? お若い方が多いのですね。流石、勢いのあるメーカーさんだ」

「オーナーさんのとこも、似たような感じじゃないですか」

「ははっ、確かに」


 大柄な店長の他には、店員は皆若い女性ばかりだった。まあ、ここは華やかなお菓子店として、そうした傾向が出るのは仕方ないのかも知れない。

 一方ハルの方はゲームメーカーとなっている。それでこのメンバーは、少々特殊か。


 そんなハルと店長は、数少ない男同士で話を進めることとなり、早速このコラボについての成果を報告し合うのだった。


「売り上げは上々です。大忙しで嬉しい悲鳴を上げておりますよ。なかなかの話題作ですねぇ」

「いえ。この人気も、スピンオフ元の広告効果あってのこと。僕の手柄ではないですよ」

「ご謙遜を。この技術があれば、いずれ経済効果はあちらをゆうに超えますよ」


 店長はハルにおべっかを使って持ち上げているという風でもなく、当然の未来を予見よけんするように断言する。

 この様子であれば、今回の『コラボ』の内容にはかなりの手ごたえを感じているようだった。


「……そう断じるということは、今回の『商品』は?」

「ええ。最高です。まさかこれほどの物が、再現出来るとは。感動しましたよ」


 店長の合図で運ばれて来たのは、皿に盛られたいくつかのお菓子。それはコラボの響きが示す通り、どれもゲーム内で実際に存在するアイテムだった。


「『カゲツ風タルト』、『アイリスのういろう』、『コスモスブルーベリーケーキ』。どれも、ゲーム内で頂いた味そのままです」

「なるほど。オーナーさんほどの方にお墨付きを貰えるのなら、僕も自信をもってよさそうですね」

「もちろんですとも、ご安心ください。お墨付きどころか太鼓判たいこばんも押しますよ」


 これらは、単にゲーム内アイテムと似たような物をこの店長が作って店で提供している物ではない。

 仕組み的に、ゲーム内と『同じ』味がこの場に再現されている。その新しい試みが、今回のコラボのキモだった。


 現代では食材を扱うどの店舗でも、ほとんど全てにエーテル技術を利用した食品生成機が存在している。

 地下に張り巡らされたパイプラインを通して送られてくるペースト状の素材を使い、簡単な食材をプリントするように作り上げられるのだ。


 とはいえその味は(ゲーム内食ほどではないものの)天然物に劣り、望んだ味の再現もまた難しい。

 それが、ゲーム内で料理を作る以外の操作が不要で、全く同じ味の商品を再現できるとなれば、これはまさに食品業界の革命と言っても過言ではないのであった。


 そして、ハルとしてもこの結果には大いに満足している。

 ゲームで感じた味覚を、現実においても多くの者が味わってくれることで、そのデータはより強固なものとしてデータベースに定着する。

 その二つの世界の相乗効果にて、味覚データ完成に向け、さらなる加速が見込まれるのだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いやいや、スピンオフ元とコラボということにして、許可を取った上でローズのコスプレをしたことにすれば通るかもしれないですなぁ。再現度が高ければ話題性も抜群ですねぇ。 [気になる点] コラボど…
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