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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部終章 コスモス編

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第955話 裏面へようこそ!

「そもそもお兄ちゃんはさ、魔力がどうやって生まれてっか、その細かいところは理解してっか?」

「いいや。一応、概要は知ってるつもりだけど、その詳細は理解しているとは言い難いね」

「そーなんよ。そこはまだまだ、謎の多いとこでな?」

「ハッ! 訳知り顔で語っているが、このアイリスだってカナリーたちに比べれば出遅れ組だ! オレらはこのシステム提供を受ける以前は、魔力についてなにも分かっちゃあいなかったのだから……!」

「うるせーぞリコリス! 縛られたままドヤ顔でなさけねーこと言うんじゃねーのよ!」


 そう、魔力に関してはまだまだ謎が多い。地球で生まれ、次元の狭間を通り、異世界に送られる。

 それが人間の意識活動の結果ということは分かっているが、細かい原理などは不明なままだ。

 一応、前提として、意識だけでなく人間の形をとっていることが条件だったり、その人型の存在、つまりキャラクターが集まれば集まるほど効率は増すことも分かっている。


 そのことをハルが口に出しながら整理していると、それについてアイリスから待ったがかかった。


「その人型ってのさ、物理的な人型である必要はねーってのは分かってるかなお兄ちゃん?」

「……ふむ? まあ確かに。言われてみればその通りだね。このゲーム、いやこの世界の基礎となった『妖精郷』は仮想空間。そこでは人は人の形をとっていれども、実際は形のないデータにすぎない」

「そーなんよ。だから実際んとこ、『実は人型である必要ねーのでは?』、と私は考えた」


 それで、お金から魔力を生み出そうという考えに至ったのか。たしかに形が必要ないことが予測できるとはいえ、そこからいきなりお金に行きつくとはずいぶんと考えが飛躍ひやくしている。

 いったい、どういった論理をもってその結論に至ったのか。それとも、神様特有の直感なのか。


「私はな? 人が人らしく活動すること。それが魔力を発生させる条件じゃねーかと思ったんよ。体が必須なんじゃなくて、体があると自然にそれっぽくなるってだけな」

「なるほど。それで、同様に人がお金を使うことも」

「おおよ! ものすげー人間っぽい行動だとは思わねー?」

「……少なくとも、僕はイメージが湧きにくいかな」

「お兄ちゃん世捨て人だかんなぁー」


 別に、世捨て人であるつもりはない。単にあまりお金が必要でないだけである。


 まあ、それは置いておくとして。確かにお金を使うことは、人類史を語る上で切っても切り離せない大きな事柄だ。

 人類の魂に深く刻み込まれた、ごうのようなものと言っても過言ではないかも知れない。


 そうした業から、まるで怨念のエネルギーを抽出するかのように、アイリスは魔力を生み出す方法を探り当ててみせた。

 これにより、異世界の魔力事情はまた一歩解決へと近づくだろう。

 そしてよりいっそう、魔力についての謎は深まったともいえる。一体誰が、そんなルールを定めたというのか。そして何故、魔力は世界を渡るのか。


「まあその辺は、コスモスが気にしてた奴だわな。しょーじき、私はどーでもいい。原因がなんであれ、生まれた結果を有意義に活用できればいーのよ」


 そんなハルの疑問を表情から読んだようで、アイリスは真相について興味がないことをあっけらかんと言ってのける。

 確かに、人間には分からないことだらけだ。宇宙の生まれた理由を知りたがる者は多けれども、そこに辿り着いた者は一人も居ない。

 魔力についても、同じことなのかも知れない。そんなことなんかより宇宙のエネルギーを利用する技術の方が何倍も重要で“お金になる”。


「まっ、気になるならお兄ちゃんはモノリスとやらを追っかけてみればいーのよ。私は私で、今後もお金稼ぎにはげましてもれーます」


 既に次のプランがあるのか、アイリスは『にかっ』といった良い笑顔でハルへと笑いかける。そんな彼女の背後には、空間から浮き出るようにしていつかの巨大魚が何処からともなく湧き出てきた。


 これは、彼女がお金から生み出した魔力で作った魔法なのだろうか。

 だからこそハルに取り憑いた指輪は、異物としてこの魚を排除しようとした。


「『魚類ちゃん一号』……」

「そーよ? イケてるっしょ! そんで、今の私の力は魚類ちゃんで留まることはないのよ! 出でよ! 爬虫類ちゃん五号!」

「……四号までは?」

「省略した!」


 アイリスの周囲を泳ぐ複数の『魚類ちゃん』が集まり融合するようにして、徐々にその体を変容させていく。

 それは進化の道程どうていを早送りでもするかのように、両生類を経て爬虫類へ。徐々にその身を肥大化させていくその姿は、元から大きかったこともあり実に巨大なものとなっている。


「冥王じゃん……」

「手抜きだなアイリス! ラスボスのデザインを、自動進化シミュレートに任せるとは! まったく。もっとオレたちを頼ればいいものを……」

「うるせー! だったらおめーも手伝えよなー! 肝心な時に捕まりやがってー! ……コスモスはお兄ちゃん陣営に行ったって大義名分でサボりだし、ガザニアもやる気ねーしよー」

「苦労性だねアイリス。思えば君が、いつもこのゲームの発展を一番に考えていてくれたのかな」

「……まー、そーしねーと儲からねーかんな」


 通常の進化の系統樹を外れ、ドラゴンのようなボディへと変身した光の獣。トカゲからずいぶんと出世したものだ。

 ここが、一旦の進化の終着点であるようだ。魚類ちゃんは変態を終え、冥王とよく似た姿でその輪郭を安定させた。


「さて、どーするお兄ちゃん? せっかくだし、一戦交えっか? その為に私のこと、ずっと追っかけてたんだろ?」

「別に、倒す為じゃないけどね。良からぬことを企んでないか、確認する為だ。まあ、でも、それはそれでいいかも知れないね……!」

「よっしゃ! 裏ボス戦としゃれ込もうぜー」


 この世界のラスボスは無事に倒されたが、ハルはその戦いには直接参加していない。正直なところ、消化不良感があったというものだ。

 もうユーザーは誰も感知することのなくなったこの世界。こんな最後の最後くらい、ローズではなくハルとして好きに暴れさせてもらっても構わないだろう。


 そうして、最後まで頑張ったハルに与えられた、おまけの裏ボス戦がスタートしたのであった。





「いけいけ私の爬虫類ちゃん! 最後までやりたい放題だったお姉ちゃんに運営の力を見せてやれ!」

「はっ! この程度で僕に敵うと思うなアイリス! 運営はしょせん、ユーザーのおもちゃだということを教えてやる!」

「問題発言だー!! 保護者のひとー! ……も、敵か。しゃーねー。ユーザーなど所詮、運営の食いモンだってことを教えてやるのよさ!」


 自分も大層な問題発言である。むしろ、立場があるぶん聞かれたらそちらの方が不味い。


 とはいえ強がってはみたものの、その運営としての権限は絶大。いちユーザーであるハルからの攻撃など、その一切が通らないのはお約束なようだった。


「……まあ、そうなるね。今回は助けてくれないのかな、保護者の人」

「もうゲームオーバーしたからなーこの世界。無事に終わったその後のことなんざ、指輪は知ったこっちゃないんだろな?」

「くっそう。アフターケアのなっていないサービスめ……」


 ゲームの仕様を乱すシステムとして、最初の邂逅かいこうでは剣となってアイリスの魚類ちゃんを両断した指輪。

 しかし、もうその守護すべきゲーム進行は無事に完了クリアされたとして、右手の人差し指にはまった指輪は動く気配を見せなかった。時間外労働はしないタイプだ。


「分かっていたが、この体じゃあ無理か! 無敵の<神王>の名が泣くね!」

「はっはー! 気分いいじぇー! ゲーム内の力でイキってたプレイヤーが、その力を取り上げられて絶望すんのはー!」

「……お前ホント発言には気をつけなよ? 運営そんな嫌なことあった?」

「あたりまえじゃー! どいつもこいつも運営わたしらに言いたい放題言いやがってー! ユーザーなんかなー! 私らが本気になればこうじゃ! こう! もうリアルに帰る時間なんじゃー!」

「うわあ……」


 ずいぶんとまあ、鬱憤うっぷんが溜まっていたようである。

 しかし申し訳ないが、ハルのリアルはそれはそれで強力な存在である。そのことを、アイリスにも理解してもらうとしよう。


 ハルはまるで効果を発揮しない<神聖魔法>を撃つのを諦め、冥王と同じように放たれる無数のレーザーの回避に集中する。

 本編でも非常に強力であったこの攻撃だが、今はまごうことなく即死の威力が付与されていることだろう。かすっただけで死ぬ。


「おらっ、おらっ! 最後に一回くらい、負けてご退場くだせー!」

「そうはいかない。僕は非常に、負けず嫌いなんだ。……セレステ!」


 ハルはその二人の戦いを、愉快そうに観戦しているセレステに声を掛ける。

 彼女が無事にこの場に居るということは、“あれ”とはもう接触したに違いない。


「なにかなハル? この私の手助けが欲しいのかな? いいとも! なんでも言ってくれたまえよ。君の騎士が、邪悪なる竜を見事、ほふってくれようじゃあないかっ」

「そういうのいいから、さっさとルシファーがどうなったか教えるんだよ!」

「つれないねえ」


 やれやれ、と首を振り両手を肩の高さに上げて残念そうなポーズを取るが、それでも迅速にハルの要求にセレステは応えてくれた。

 縛り上げた隣のリコリスを小突こづき回して何かしら命令すると、すぐにこの世界の下部から、奈落の底の底から這い上がってくる巨大な影があった。


「大してリソースは頂いていないよ。私は省エネが得意だからね! しかしだ、ルシファーに乗ったとてなんとかなるのかい? 対消滅ついしょうめつエンジンは停止しているようだったが」

「ああ。コスモスに反物質反応を禁止されたからね」

「グッジョブコスモース!」


 ルシファーの登場にヒヤヒヤしていたアイリスが、心の底から嬉しそうに叫びを上げる。

 彼女の爬虫類ちゃんでも、反物質で稼働するルシファーのエンジンパワーは脅威のようだ。


「まあ、問題ないさ。こいつには、対コスモス用の切り札を積んだままだ」

「むっ!?」


 器用にレーザーを避けつつ、ルシファーに搭乗するハル。その後はルシファーの機動力によって、まるで苦もなくアイリスの攻撃を回避し続けた。

 そして、その隙間を縫うようにルシファーは飛び、冥王改め爬虫類ちゃんに肉薄にくはくする。


「ドレインモード起動。こいつの体は魔力なんだろう? さあ、ならその体ごと吸い取ってやれ」


 ハルは変質し変形し巨大化もしたルシファーの右手で、捩じり上げるようにその巨体を掴み上げる。

 その右手の能力は吸収。この世界を構成するリソースを、問答無用で食いつくし自らのエネルギーにする反則チートとしか言いようのない力だ。


 そんな、運営とチートの争いはチートの側に軍配ぐんばいが上がる。

 少し他のリソースデータと性質が違い苦労させられたが、ルシファーはその身体そのものを右手から吸い取り吸収してしまうのだった。


「あーーっ!! ドロボー! その魔力はお金から生まれたもの、つまりお金! すなわち私のお金なんよ!? 人のお金を取るんじゃねーのよーっ!」

「アイリス……、守銭奴キャラを演じているうちに、ついに心の底からの守銭奴に……」

「はっはっは。哀れだなぁアイリスっ! 我々にとって、手段でしかない金などに執着するなどっ! 運営の風上にも置けないなっ!」

「ふんじばられた哀れで風上にもおけねー見た目で口出すなリコリスーっ!」


 これ以上その身の魔力おかねを奪われてはたまらぬと、なりふり構わず自分に向けてレーザーを放つ爬虫類ちゃん五号。

 さすがにルシファーも直撃は痛いので、右手のドレインモードを盾にいったんその体から離脱する。

 全てを食いつくす右手は、全ての攻撃からも身を守る絶対の盾として作用した。


「さて、少し縮んだねその冥王も。このまま繰り返していけば、僕の勝利かな?」

「ふふん! 舐めてもらっちゃ困るのよさ。爬虫類ちゃんの身はお金! だったらその身が減ったなら、『増資』してやればいいのよ!」

追証おいしょうって奴か」

「増資な! ぞ、う、し!」


 ライバルに脅かされ傾いたその身に、社長アイリスから魔力しきんが追加される。

 それにより経営たいせいを立て直した冥王の身は、再び元気にハルへと襲い掛かってきた。


「どーよ! 私の資金力は、まだまだ潤沢じゅんたく! これを削り切れるわけねーのよーっ!」

「ふむ? 出来なくはないが、確かに面倒そうだ。なら、僕からも増資させてもらうとするか」


 ハルは変形した右手から、逆にこちらも魔力を放出する。

 それは冥王の体に吸い込まれ、そのままその一部となっていった。


 はたから見れば、何をしているのか分からないことだろう。ただ敵に、魔力を供給してやっただけ。

 しかし、もちろんハルがそれだけの事をするはずもない。


「その身はお金なんだろう? なら、過半数を取れば経営権は僕のものだよね?」

「うげっ!?」


 これも、コスモス戦の際に生み出された反則級の力。ルシファーの魔力を、逆にこの世界のリソースへ変換して射出することが出来る。


 そんな風にして、常時愉快に騒がしく『裏ボス戦』は進んでいった。

 その戦いはこの世界の名残を惜しむようにしばらく続いたが、まあ勝敗についてあえて語るまでもないだろう。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 大罪と美徳の考察が楽しすぎて、連投失礼します。 シャルトは仲間外れというか、美徳要素が強すぎて大罪に振るのが難しいですねー。 節制もそうですが、なんだかんだ梔子の国を引き受ける慈善と…
[良い点] 神様が人らしく活動するところにも魔力が生まれるようなことがあれば、カゲツやモスモスの行動にも別の意図が生まれたのかもしれないですねー。実際にそれで魔力が生まれてしまったら、暴食の時代が訪れ…
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