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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部終章 コスモス編

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第942話 進む攻勢と第二形態

 多くのプレイヤーがモンスター津波に押しつぶされる中、それに耐え、抗う者の存在も中にはあった。ハルのクランメンバーを始めとする、歴戦のプレイヤーたちである。

 その中には、先の戦いでも活躍したワラビの姿も存在し、新たなダマスク神鋼の鎧と共に仲間を守る盾として敵の侵攻を防いでいた。


「《『フルメタル・わらびー・ギガント』! 新型に乗り換えた私は無敵なの!》」

「《うーん、やっぱ主人公機の乗り換えは熱いよなぁ。……ってそれロボット風だけどただの鉄の塊だよね!?》」

「《こまかいことは良いの!》」


《そうだぞミナミ》

《もてないぞミナミ》

《やっぱ細かい男は嫌われるんだな》

《……言うほど細かいか?》

《やめろ、突っ込んだら負けだ》

《あれはロボットあれはロボット》

《どうみてもワラビさんの数倍はあるけど》

《どうやって動かしてんだ?》

《筋肉》


 新生した鉄巨人の大きさは、もはや『大きな鎧』という範疇はんちゅうでは説明しきれぬ威圧感、そして重さを兼ね備える。

 手足の先までワラビの体は届いておらず、どうしてマトモに動けているのか謎は深まるばかりであった。


「《みんなは私が守るのー! どーん!!》」

「《だったらもっと周囲に気を配れよなぁ!? その体に当たったら死んじゃうからさぁ!》」

「《ごめーんね?》」


 当然、大きさが増せば重さも増す。これを地上で使えば、どんな地形であろうが粉砕し沈み込むことだろう。移動すらままならない。

 しかし、この神界であれば地形は破壊不可設定になっているので、どれだけ負荷を掛けても問題ない。まさに、最終決戦仕様であった。


「《しかしキリがねぇ! 俺のユニークスキルの真髄は、プレイヤー特攻でモンスターには効かないしなぁ……》」


《嫌がらせスキル》

《偏向報道スキル》

《ミナミはこれまで十分に役立った》

《もう休め》

《あとは仲間に任せていいぞ》

《震えて眠れ》


「《なんか違うよなぁ!? くっそー、伯爵側に付いてローズちゃんと戦えばよかった!》」


 ワラビとは逆に、ミナミにとってはこのラストバトルは逆風だ。彼のスキルは対人特化であり、戦闘面では特にプレイヤー相手で真価を発揮する。

 対戦相手の過去の放送から、その人の失敗したシーンを切り抜くと、それが弱体効果として表れる意地の悪いスキル。ついでに精神的ダメージもあるオマケ付きだ。


 しかし、当然ながらモンスター相手では何の意味もないスキルである。そもそもモンスターには指摘するための過去がないのだ。


「《でも通常デバフが効かないとは言ってないんだよねぇ~。そして食らえ! 『邪竜炎舞じゃりゅうえんぶ黒爪極こくそうきわみ』!》」


 とはいえ、今までハルと共にアイリスの国の政治動向を独占報道し続けた彼の人気ステータスから放たれる<暗黒武技>は一級品。

 ワラビが押しとどめる冥王の分身モンスターを、次々とその腕で狩りとっていった。


「《っしゃ! 進め進めワラビちゃん! 吹っ飛ばせ!》」

「《うん! いっくよー! 『ジェットパック・わらびー』!》」

「《ってそこまでやれとは言ってなーいっ! 待って! マジまって! 俺まだ至近距離に居るから!!》」

「《はっしーんっ!》」

「《ぎにゃああああ!》」


 全てを吹き飛ばして進むワラビの突進の風圧に巻き込まれ、きりもみで吹っ飛んで行くミナミ。

 それでも、なんとか死なずに踏みとどまっているのは流石のしぶとさだ。そんな彼らの活躍によって、外周エリアの一つはどうにか制圧完了したのであった。





「《脆弱ぜいじゃく! 数だけは多いようだが、こんなものか!》」

「《油断なさいますな姉上! 所詮、今はまだ前哨戦ぜんしょうせん。この程度で済むはずがありません!》」

「《ならばこそ余計に恐るるに足らぬと思わぬか弟よ? こんなに無駄に、考えなしに、雑兵ぞうひょうを配置する将など、底がしれているというもの!》」

「《ゲームなんだからある程度倒しやすいように配置されるものなんですって!》」

「《うーん……、わからんな……》」


 むしろ、アベルは何故そこが分かっているのか。異世界人でありながら、ずいぶんと理解が深まっているものだ。最もプレイヤーと触れ合っているだけはある。


 そんな、アベルとディナの瑠璃るりの国からのゲスト姉弟。共に所属国を別としながら、最後はこうして仲良く合流し共闘している。

 ……まあ、アベルの方は苦手意識のある姉との合流に、若干言いたげなことはあるようだが。それでも血縁の織りなすコンビネーションは、なかなか様になっていると言えるだろう。


「《しかし、やるではないか弟よ。集団戦となると見違えたようだぞ。将としての才に目覚めたと見える》」

「《それはどうも……》」

「《お前はもっと、猪武者いのししむしゃのように突撃することしか知らぬ愚昧ぐまいかと思っていたのだがな》」

「《それはどう考えても姉上の教えのせいでしょうが!》」

「《はっはっは。人のせいにするでない愚弟ぐてい。出来るだけ部下を危険に晒すまいとする臆病さが原因だろう?》」


 なんだか共闘しているのか、しばらく会っていなかった弟の成長チェックをしているのか、どうにもやりづらそうなアベルであった。


 それでもこのゲームの中では、ハルの騎士として働いていたアベルの方がステータスは上。

 そして、ファンクラブの女の子たちを隊員として従える組織力は、姉であるディナも認めるところであった。


「《うむ。いいだろう。ここは私もお前の指揮下に入ろうではないか。そこの娘たちと同様に、我を使いこなし勝利してみせよ》」

「《姉君さまといっしょ!?》」「《どうしよう、緊張しちゃう……》」「《私、臭くないかな》」「《姉殿下とも握手できるかな!?》」「《狼狽うろたえないの!》」「《そうそう! 私たち、ローズ様で鍛えられてるもん!》」「《それちょっと違わない?》」

「《愉快な奴らだな……》」

「《ええまあ……》」


 扱いとしてはアベルの親衛隊しんえいたいだが、彼女らは『ファンクラブ』で『プレイヤー』。異世界人であるアベルもディナも、その特殊性にはまだ押され気味のようだ。


「《だが、そんな娘どもも使いこなすお前の手腕だ。期待しているぞ弟よ。さあ、この姉をどう使う!》」

「《ああ、では、姉上は単身で敵陣に突撃で。慣れておいででしょうし。あっ、これ持って行ってください。『生命保険』です》」

「《くっ……、従うと言った言葉に二言はない、二言はないが……。覚えておれよ愚弟!》」


 仲が良いのか悪いのか、そんな猪武者、もとい姫騎士の姉を厄介払いすると、アベルもようやく普段通りの実力を発揮できるようになったようだ。

 ディナの方もなんだかんだ言って突撃が性に合っているらしい。流石は祖国よりリコリスが似合う姫君だ。


 そんな彼らの活躍により、外周がまたいちブロック制圧されたのだった。





「ふむ? 有力プレイヤーの入った遺跡は、敵を完全排除するブロックも出始めたね。これは、隔壁を下ろすべきか……」

「我が方の陣地として、確定させるのですね?」

「そうだよアイリ(サクラ)。そうしたらそこの防衛はもう無視して、他に戦力を割り当てられる」

「どう判断するか、指揮官の腕が問われますね!」

「だね。現場に丸投げしたいところだけど、現場が楽になるというならやぶさかではないが。ふむ?」


 これは現状がどうこうというよりも、次にどうなるか、それを予見して動かねばならないだろう。

 機能があるので使ってしまいたくなるのが人情だが、それが必ずしも正解とは限らない。罠機能が混じっているゲームなど、ごまんとあるのだ。

 ハルも、『なんでこんなマイナスでしかないシステムが?』、と首をかしげたことは数え切れない。


「ここの運営は特に、わざとそうした機能を混ぜて選択を迫って来るしね」

「あー! おねえちゃんがまた運営批判してるー! 私らだってな? 良かれと思ってお客さまの為に便利な機能をご提供してるんよ? 批判されるいわれはねーのよ?」

「でもそれで僕が失敗したら?」

「そんときゃ大声で笑う! あっ、いたいいたい……、引っ張っちゃやーのー……!」


 生意気なアイリスのほっぺたを引っ張りつつ、ハルはしばし隔壁を下ろすか考える。

 現場から<神王>への要請は特にない。一つの『街』を制圧した部隊は、街同士を、バトルフィールドを繋ぐ『道』を通って次のフィールドへ、冥王に近い内周へと進軍していっているようだ。


「こうやって制圧したエリアを順番に封鎖して、『確定』させれば、徐々に敵の陣地は狭まっていくが……」


 だが、結局ハルは隔壁を下ろさなかった。平定したエリアは放置し、確定させることはしない。

 それにより、道を伝って新たなモンスターが流れ込んでしまうが、見かたを変えればそれも『受け皿』として有効だ。

 敵の侵攻により減って行く封印値を緩和する為の、緩衝地帯かんしょうちたいとなる。


「封印の効果を全体で分散する、という判断ですね!」

「うん。それに、今居るモンスターを倒して、中央まで進軍していけば勝利という甘い話だとも思えない」

「ディナ王女も、『弱すぎる』といったことを口に出しておりましたね」

「そうなんだよね」


 そして、アベルは『ゲームだから最初は弱い』とも言っていた。その感覚は正しい。アベルもしっかりとゲームに浸かってきた。

 では、最初は弱い小手調べで始まるゲームは次にどうなるかといえば、それは決まっている。強い第二波がやってくるのだ。


 ハルはしばし、次々にエリアを平定していく絶好調のプレイヤーたちを眺める。そして、相変わらずダメージの通っている様子のない冥王を観察する。

 そうして次々に攻略が進み、全体が楽勝ムードに包まれたあたりで、その中央に座して動かぬ冥王の様子に変化があった。


「《むっ! ケイオスさん、注意した方がいいかも!》」

「《ほう! 貴様も感じたか! 当然、この我も感じ取ってはいたが、ここは答え合わせをしてやろう! 何を感じたのだソフィーよ!?》」


《つまり『教えてソフィーちゃん!』》

《魔王様ブレねーな(笑)》

《我も感じたんですがー? 分かってるんですがー!?》

《来たか、ついに……》

《ああ、始まったな……》

《何が?》

《わからん……》

《第二形態かな?》


「《たぶん膨らんで、全体攻撃が来る! と、思う!》」

「《危険ではないか! 我の後ろへ下がるがよい!》」


 何だかんだ優しい魔王様は、ソフィーを庇い防御魔法を展開する。魔法に関しては、流石の器用さだ。

 その魔法が何とか間に合った次の瞬間、ソフィーの宣言した通りに冥王のオーラは膨れあがり、闇の炎を放射するように彼女らの居るバトルフィールドを燃やし尽くした。


 いや、その炎の勢いは中央ブロックのみに留まらない。道を伝って水が流れ込むように、全てのブロックにまんべんなく行き渡る。

 それはプレイヤーもモンスターも区別することなく押し流し、その勢いが収まると、炎の中からは新たなモンスターが誕生してきたのだった。


「……なるほど、そして冥王は、少しその身が縮んだと」

「第二幕の、スタートですね!」

「ああ、これは僕も、ここから忙しくなるかもね」


 使い魔の目を通してみれば、この地上に湧き出るモンスターも勢いを増しているように見える。このままでは現地のプレイヤーの防壁を突破し、街へとなだれ込むだろう。

 そうはさせじと、ハルは再び神国の空へと舞い上がるのだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自然発生しているだけで指揮も何もありはしないから将の器は見れないけれど、アベルのゲーム漬け度合いは計れたみたいですねー。目指せアイリ級ですねー。 エメ級ではないのか? 独自MODの開発適用…
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