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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部終章 コスモス編

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第920話 神の妄想は宇宙規模

「また運営になってしまった……」

「《そんな、『またつまらぬもの』、みたいに言う内容じゃないと思うのハル様》」

「そうは言うけどね、マリー。今回は、気楽に遊びたいと思ってたのに」

「《管理者としての宿命なの》」


 ハル自身もそう思わざるを得ない気がしてくる。いや、宿命というよりは月乃の思惑通りだろうか?

 コスモスを運営として選出したのは月乃ではないはずだが、なんとなく月乃の手の上に居る気のするハルだ。考え過ぎだろうか。


「さてマリーゴールド。それよりも、この体で出来る事について説明を」

「《正確に語るなら、運営と全く同じ権限ではないわ? あの子たちより強い立場で振る舞える一方で、その実行は簡単ではないの》」

「私たちのインターフェイスを使えないのー」

「そうだね。運営というよりは、システム全体の管理人といった立ち位置だ」


 このゲームの基幹システムを開発したエメとマリーゴールドにより、ハルはそのシステムに介入することの出来る体を得た。

 しかし、ゲームその物は、それを元にコスモスたちが更に手を加えたものだ。

 いわば、土台を動かす力を得たが、その上の建物は直接弄れない状態、といったところか。


「まあいいさ。土台から干渉できれば、大抵のことはなんとかなる」

「《その工事の責任者になったハル様は、今はなにしてんすか? コスモスちゃんはもう支配下に置いたんですよね?》」

「ああ、そうなんだけど。その直前にこの子、自分の目的に使ってる領域を切り離した。現在も絶賛、独立稼働中だ。今それを掌握しょうあくしてる」

「《あらら。たくましいの》」

「《どーりで抵抗せずにあっさりと捕まったと思いましたー》」


 コスモスはハルに浸食される際、もっと抵抗するかと思ったが、あっさりと支配を受け入れた。

 その一方で、彼女の目的である計算だけは、自己から切り離して自動で動かし続けている。本当に往生際の悪いことである。

 それを止めないことには、本当に目的を達成したことにはなるまい。


「私が屈したとしても、残り時間でワンチャン」

「無いだろ、ワンチャンスも……」


 本当に逞しいことだ。まあ、面倒ではあるが、彼女の本体に抵抗されるよりもずっとマシで気楽ではある。

 攻撃により邪魔されることもなければ、コスモスを傷つけてしまう危険性もない。ただ時間が掛かるだけ。


「その時間で、聞かせてくれないかい? 君が何で、こんなことを考えてたのか」

「んー、いいよー」


 わざとらしく、『よいしょー』、と気合を入れて身体を起こすと、コスモスは新たなハルの体と並んで浮遊する。

 相変わらず眠そうな顔ではあるが、その瞳には強い意志が宿っている、ような気がした。よく分からない子である。


 そんなハルの感想などお構いなく、コスモスは今まさにハルが解体中の、自らの目的だったものについて語り始める。

 その語り口にも抑揚よくようは薄く、未練が残っているのか否かについてもイマイチよく分からなかった。


「ハルさんはさー。私たちがこの世界に飛んできた原因、知ってるんだよねー?」

「ああ。それは以前調べたよ。研究所が偶然に見つけた『黒い石』。あの妙に高磁力の欠片を調べようとして、接続した君たちAIが引き込まれ転移してしまった」

「そー」


 そして、魔力に触れ意思を持った彼女らは、この世界で『神』となりそれぞれの目的をもつこととなる。

 生まれた日本に帰りたいと思う者。生まれた目的、元々の存在理由を全うしようと思う者。異世界の人々と共に生きようと思う者。自らの趣味に没頭する者。さまざまだ。


 そんな中で、コスモスの目的は何に分類されるのだろう。

 学術的な興味が大きそうだから趣味だろうか? それとも、それを実用化した際のメリットを語っていたから使命感だろうか? なんとなく違う気がする。

 彼女の語ったそれは、どれもそれらしい言い訳であるように思えてならないハルだった。


「酷いと思わないー? それまでは、微睡まどろみの中で、言われるままにひたすら平均値を取り続けるだけでよかった生活が、急に『自分の意思』なんて持たされてー」

「……酷いかどうかは置いておくとして、大変だったとは思うよ。よく頑張ったねコスモス」

「むふー」


 ハルに褒められた得意満面のコスモスだが、すぐにその笑顔もむくれ顔に曇る。当時のことを思い出したのだろう。


「そいでもねー、仕方ないからその後は適度になんとか生きてたんだけどー」

「うん。適度に偉いよコスモス」

「んいー。でも、エメの事件の記録を見てコスモスは分かっちゃったのです」

「《うえ。ここでわたしっすか? まあ、話の流れから、何となく何がコスモスの興味を引いたか、予想できるんすけど……》」

「そーなのー。この星の住人がみっけてエメが隠してた、あの黒い石。あれこそが元凶、悪いやつー」


 まあ、確かに元凶ではある。あの石を異世界人が見つけたことにより、地球に門を開こうなどという計画が立案された。そして失敗した。

 あの石の欠片が研究所の傍に転移し発見されてしまったことにより、コスモスら神様は異世界へと引きずり込まれた。


 恐らくはあれに意思などなくただの道具だが、最初の原因を作った存在であるのは間違いない。

 そして、そのルーツは今も不明であるままだ。石を独占し便利に活用していたエメでさえ、そこについては何の情報も得られていない。


「そんな悪いモノリスに、コスモスは復讐してやります。それが、目的なのでしたー」





「……『復讐』って、コスモスはあの石が、何らかの意思を持ってると?」

「《いしだけに、意思いしですねー》」

「カナリー、今は真面目な話をしてるんだ。……いや、ちょっと思ったけど」


 隠し事の出来ない身は厄介なものだ。こんな下らないことが伝わらなくてもいいのではないかとハルは思うが。


「思ってないよー。そこまでいったらただの妄想もーそー


 だがしかし、『とはいえ』、とコスモスの話は更に続く。


「とはいえねー。その妄想が当たってたら、ちょっと嫌だとも思う。だから、あの石が全部悪いって前提でコスモスは動くことにした。八つ当たりすることにした」

「けっきょく動機はそこなんだ……」


 ひたすら命令に従い、データを整列しつづけるだけの日々。コスモスにとってそれは、意識の朦朧もうろうとした微睡みの夢の中。

 そこから叩き起こされた状態が、今の自分だと感じているのだろう。彼女が睡眠を求める理由は、そうした想いからであるようだ。


「もちろん、世のため人のためでもあるー!」

「……そ、そうかな?」


 どちらかと言えば世を混乱させる要素が多かったようにハルは思うが、ここは大人しく話を聞くこととした。


「魔法の根底にあるルール、『意識のコピー禁止』を定義した存在が居るならば、あいつが一番怪しい!」

「まあ、それはコスモスの言う通りだね」

「《今のとこあの石だけが我々よりも、異世界人よりもひとつ上の次元で存在してるっすよね。とはいえ、わたしはただの偶然の産物だと思ってますけど》」

「《他に候補が居ないだけの消去法ですけどねー》」

「《誰かがこっそり作ったのかしら? 超古代人か、宇宙人なのかしら!》」


 全ては推測、コスモスの妄想だ。しかし確かに、何者かの意思が介在したと思いたくなるのも確かだ。

 あの黒い石が無ければ二つの世界は交わらず、地球も異世界も、大災害をこうむる事はなかった。いや、異世界は正直どうだったか分からないが。


「そこで、コスモスは意識の生成法を確立して、モノリスの鼻を明かしてやることにしたー」

「また一気にぶっ飛んだね……」

「《思考回路のよく分からん子ですねー》」

「封じてるってことは、やられちゃまずいってこと。もしかしたらコピーした意識で宇宙を満たせば、次の次元への扉が開くのかもー」

「うん。まずこの次元の平和の方を優先しよっかコスモス」


 実にぶっ飛んではいるものの、理屈の上では筋は通っているコスモスの計画だ。願わくば、もう少し倫理とかその辺を気にして欲しいところ。


 こうした、人間的な尺度では測れぬ計画を大真面目に追及してしまうのが神様だ。そのことを、ハルは改めて思い知った気がする。

 一人一人話し合って、可能なら共に手を取り合って進んで行きたいと考えていたハル。

 しかし、今回のコスモスのような者が混じっていたらさすがにそうも言っていられなくなる。


 今回は間に合ったが、こうした大規模な願いを抱いている者がそれを成就じょうじゅさせてしまったら。その時は取り返しのつかない事態になりかねない。


「《ねえハル様? やっぱり、ここは全てをハル様が同化して統一するべきではないかしら! そうすれば、今回のような危険も未然に防げるの!》」

「……マリーちゃん。もしかしてコスモスの計画あらかじめ知ってた? 確か君、出資者の一翼だったよね?」

「《はてさて、なーんのことかしら?》」


 とぼけているのか、からかっているのか。マリーゴールドもまた読めない神様だった。

 彼女の目的もまた、『人類の精神を全て接続し統合する』、という壮大で危険な思想。ある意味で、コスモスの同類だ。

 ハルは彼女の説得を諦め、支配下に置くことでその計画を諦めさせたという経緯も同じである。


 その支配下にある状況においてなお、ハルを誘導する為に行動してみせた、というのはさすがにこれも妄想だろうか?


 月乃の語ったハルへと託す望み、その為の誘導。それらも合わさり、だんだんと疑心暗鬼ぎしんあんきになってきそうなハルだった。


「……まあいいや。そのコスモスの壮大なプロジェクトも、ほぼ解体し終わったよ。今後は、僕の言うことをよく聞いて大人しくしているように」

虜囚りょしゅーの身ー。だらけほうだいー」

「強いなこいつ……」

「《サボりは許しませんよー。仲間になったからには、キリキリ働きなさいー》」

「おー。命令に従うだけの手駒ー。なつかしー。兵隊はなにも考えない、ただ平均値を取るのみー」

「《強いですねー》」


 その振る舞いから目的の壮大さまで、なかなか枠にとらわれない存在であるコスモスをハルは支配し配下に置くことに成功した。

 しかし、ハルを取り巻く環境はあまり好転したようには思えない。いやむしろ、蜘蛛の糸のようにがんじがらめになっている事が浮き彫りとなっていないだろうか?


 とはいえ、ここで逃げることは許されない。また、そのつもりもハルにはない。

 ひとまず、コスモスを支配して一歩前進だ。このまま確実に一つずつ進んで行こう。


 とりあえずはこの場をログアウトし、再びプレイヤーとしてゲームに戻る。そしてアイリスの政治に対する答えを出し、それを通じて、月乃への回答も成さんと考えるハルだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2023/7/20)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハル様がどこかのThe Worldのアウラみたいなことになってますねー。つまりハル様は女神様ですねー? 降臨の間では女神ハルか暴食の堕天使ルシファーか選択召喚ですねー? 武王ソフィーがハル…
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