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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部終章 コスモス編

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第908話 出来る方の武神さまのお誘い

「おや、メタちゃん」


 コスモスと別れ、一度ログアウトすることにし天空城に帰還したハル。今はコスモスの国の封印イベントが解禁されそちらが大盛り上がりなので、このタイミングでハルたちは交代するかのように休憩だ。

 そこでハルのことを真っ先に出迎えてくれたのは、廊下の真ん中で眠るメタであった。

 安らかにすうすうと寝息を立てて、堂々と通路を塞いでいるのは自由気ままな猫らしい。だが。


「どうしたメタちゃん? コスモスに対抗してお昼寝かな? それとも、僕らが子猫に構ってばかりだからかな?」

「ごろ♪ ごろ♪」


 ハルが撫でると、気持ちよさそうに喉を鳴らす可愛らしい猫。だがこのメタも、夜を知らぬ哀れな一族が一匹。

 こうしている間も、意識はきっちり覚醒している。ハルが戻るのを今か今かと待ち構えていたのであろう。


「ここに居たらメイドさんの邪魔になる。行こうかメタちゃん」

「うな~~」


 ハルが抱きかかえると、されるがままに、びろーっ、と伸びてぶら下がるメタであった。

 そんな我が家の猫をぶら下げながら、ハルは同様にログアウトした家族たちに合流していった。


「ただいま、みんな」

「おかえりなさい! ねこさんも、おかえりなさい!」

「うなー」

「お返事してしまうあたり、可愛いたぬきさんね? お帰りなさいハル」

「ハル君おかえりー。なんだーメタ助、猫からタヌキになったんかー」

「ふみゃみゃ……」


 不名誉な扱いには、寝ながらも断固として抗議するメタである。この辺りが狸寝入り。

 夢の中で蝶を追うような仕草で、じたばたと駄々をこねるメタだった。


 そんなメタをアイリに預け、ルナとユキも代わる代わるメタを撫でてゆく。ひと時の安息を実感するハルたちだが、ここで自分たちもお昼寝してしまう訳にはいかない。

 カナリーとエメがまだだが、先ほどまでのことと、今後のことについて話し合うハルたちである。


「さて、無事にコスモスの加護も得られた訳だけど」

「あっけなかったね」

「はい! わたくしも、もう一波乱くらいあるのかと思っていました!」

「だよねアイリちゃん。また、『神の試練だー』、とかあるんじゃないかと」

「ですよねユキさん!」


 ユキとアイリ、ゲーマー女子二人が肩透かし感を確かめ合う。確かに、お約束では『加護が欲しければ試練をこなせ』、なんてものが定番だ。

 ただ、実際はそんなものはなく、無条件で加護を与えてもらった。


「……ただ気になるんだよね。まるで、『加護をあげるから早く出ていけ』、って言われたみたい」

「……実際、そうなのではなくって? あのままだと、こわいこわい時空ストーカーに寝込みを襲われてしまいそうだったもの」

「まあ、脅しはしたけどさ。確かに」

「でもそうね? 妙と言えば妙かも知れないわね?」

「ルナちゃん、何か気になったところあるん?」

「ええ。少し心変わりが急すぎたと思うわ? いくらお昼寝しているといっても、彼女はずっと起きて働いているのでしょう? ねえメタちゃん?」

「ふ、ふにゅ~~」

「ええ、そうよねーメタちゃん。メタちゃんは寝ている時だって、いっつも空気の読める良い子だものねー」

「な、なうー……」

「ルナさんの前では、流石のねこさんもタジタジなのです!」


 お昼寝中のメタを見つけると、時おりからかうように目の前でいちゃいちゃしようとするルナだ。メタはその度に空気を読んで、さりげなく目を覚ますとお出かけをする。

 悪趣味なルナである。可哀そうなメタである。


 まあ、それは今はいいとして、要はコスモスだって条件は同じなのだ。寝ている時であろうがなんだろうが、呼び出しに応じることには何の問題もない。

 一応、彼女らは嘘をつかないので、本心の一部であるのは間違いないのだろうけれど。


「それに、彼女の了承したタイミングも気にはなる」

「あなたが脅迫したから、ではなくて?」

「うん。コスモスが受け入れたのは、僕が彼女に疑念を持ったタイミングだった。そこがどうにも引っかかっている」

「心読まれたん?」

「そうじゃないよユキ。ぼくの心を読める相手は少ない。セフィくらいだ。でも、推察することは出来るかも知れない」

「コスモス様は、視聴者さんたちの意識を読み取って、イベントを作っておられる方ですものね!」

「なるほど。そゆことかぁ」


 そういうことだ。例えるなら、ハルの意識の表層に『疑念のオーラ』のような物が浮かび上がってしまったのかも知れず、コスモスはそれを読み取って先回りしたとも考えられる。

 これ以上、ハルに加護を与えるのを渋っていると、無用な疑いを持たれてしまう。ならばここは自分から折れて、ハルにお帰りいただこうという訳だ。


「そっかあ。そんじゃさ、ハル君が裏世界を探索するぞーって脅したのも効いたのかも知んないね」

「かもね。ユキの言う通り、加護を貰うためにストーキングされては、不都合な何かがあったのかも知れない」

「それは、コスモス様の望みの部分でということですね!」

「……確かに、あの子だけはまだ自分の口から、個人的な願いを聞き出せていないわ?」


 リコリスの制限が事故じみた外れ方をしたので、その彼女からコスモスの目的は聞いているハルたち。

 しかし、先ほど会った当人からはそうした話をするタイミングは一切与えてもらえなかった。


 これは、生放送を点けていたハルたちも悪い。外部に公開できる話ではないだろう。

 しかし、今ハルは<契約書>の効果により、そうした部外秘の会話はシステムで自動カットされるようになっている。多少なら問題ないはずだ。


「そうした話をする間もなく、逃げられたとも考えられるわ?」

「まあ、一応はさルナちゃん。これからは直接通信が出来るようになったから……」

「ですが、その通信も、お休みのところ無暗にかけてはいけないのです……!」


 そう、通信で聞こうにも、『今は眠い』、などと理由をつけて断られてしまうのが容易に想像できる。

 最低限の目的は叶ったが、そうした神としての目的を聞き出すこともまた、ハルたちの重要な目的の一つだ。


「そう、今のところコスモスの奴は、実に怪しいと言わざるを得ない。私としても、君たちのその意見に賛成だとも」


 そんな風に、頭を突き合わせてうなるハルたちの前に、その背を後押しするように一陣の風が吹き込んだのであった。





「……どこから入ってきているんだい、我が家の武神さま」

「ははっ、まるで他にも武神が居るような口ぶりじゃあないかハル。まさかとは思うが、あの脳筋のうきんの女と比べているのではなかろうね?」

「僕も今まではリコリスよりセレステの方が頼りになると思ってたけど、こうして窓から入ってきた瞬間、考えを改めた方が良いかなって思ったよ」

「そう言わないでくれよハル。私も、入るタイミングを逃して出かたを窺っていたのだから」


 その一陣の風は、なんのことはない物理的なものだ。精神的な突破口が開けたイメージとは関係なかった。

 大きく開け放たれた窓から、我が家の騎士様がシャツ一枚に短パンというラフな服装で爽やかな風と共に侵入してくる。長く伸びる裸足が健康的だ。

 ……セレステもメタと同様、構って欲しかったのだろうか? 別に、普通に入って来ても歓迎するのだが。


「……それで、セレステもやっぱり、コスモスの行動は怪しいと?」

「うむっ! それに、私だけではない。神界ネットにおいても、コスモスの怪しさは話題になっているのだよ」

「まぁ。それは、お話に聞く邪神の皆様がたが、ということでしょうか、セレステ様」

「その通りだねお姫様。だが安心するといい。悪い邪神が束になろうと、私が姫君には指一本触れさせないっ!」

「いや別に悪くはないだろ……、ただの通称なんだから……」


 怒られないだろうか、こんな勝手なレッテルを張って。我が家の神様の騎士ロールプレイに巻き込んだ外の神様には申し訳ない限りである。


「いや実際ね? 邪神ロールが気に入っちゃった奴もいるようで、最近は邪神界隈も賑わっているのだよ」

「どんな界隈だ……」


 もうその時点で邪神らしさの欠片も感じない。ハルは悪そうなコスチュームを着た神様たちが、井戸端会議に集っている姿を想像してしまい頭を抱えた。


「いやなに、最近は主君がゲームしてばかりだから警備も暇でね。私もごろごろしながらネットに興じるくらいしかやることがない訳さ」

「……自宅警備ごくろうさま。……その暇つぶしの神界ネットで、外の神様とも交流してたと?」

「うむっ。彼らの中でも、『フラワリングドリーム』は熱い話題だ。特に、リコリスによる情報開示があって以降は」

「ふむ……」


 当然ながら、ハルたちが関わる二つのゲームの運営以外の神様も、その進行状況は確認できる。

 基本的に口出ししたりはしないのだが、それがもし自身の望みとぶつかる事があるならば話は別だ。

 今居るこの異世界も、そんな『邪神』と呼ばれた彼らの襲撃を受けたことがあった。


 特に直近では、ハルが奥様の、月乃へのカウンターとして神界ネットへ情報を流し協力を求めたという事情もある。

 それにより、今回の計画に怪しさを覚える神様も増えてきたという話をセレステは語ってくれた。


「特に、コスモスの目的は『新たな神の誕生』だと言うじゃあないか。私たち全員に、関りのある話だ。それを、ことさらに隠そうというのだ、疑いの声も出るというもの」

「ネットで運営批判が出てるのか。可哀そうに」


 面白いのが、人間からではなく神様からの批判というところだが。そんな裏事情を知らぬ日本の人々からは、画期的なゲームであるという賞賛がほとんどだった。


「まあ、丁度いい。そんな彼らの解析で、何か分かったことはある?」

「多少はね? まあ詳しいことは、実際に現地を目にしたカナリーやエメの判断待ちなんだけど」


 今この場にまだ揃っていないカナリーとエメは、先ほど目にしたコスモスの部屋のデータを必死に解析中で、そこから彼女の目的に迫ろうとしている。

 そのデータから何か決定的な証拠が得られればいいのだが、二人が言うには期待はしない方がいいとのこと。


 どうやら、やはり人々の意識を読み取り、それを集合したデータを使って何かを成そうとしているようだが、それが何なのかが分からない。

 コスモスがハルから逃げ回っているとも取れる態度も、その怪しさに拍車をかけていた。


「そこで、私からハルに提案があるんだ。聞いてくれたまえよ」

「どうしたのセレステ、改まって? 暇だから何かしたいかな?」

「うむっ、その通りだとも! どうだいハル? もはやゲーム内からの調査ではらちが明かない。ここは、思い切って私と、リアルの方から攻めてみようじゃあないか!」


 高らかに宣言するセレステの案は、ハルたちも想定だけはしていた最終手段。

 この異世界の地上に存在する『魔力サーバー』、あのゲーム世界を構築する膨大な魔力の塊へと、物理的にアタックを仕掛けようという誘いなのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここにきてコスモスにも不審点。こうなるとリコリスがコスモスを引きずりだそうと画策してたのか、リコリスが単純に怪しいだけなのかが分からなく……リコリスが単体で怪しいだけ? コスモスはコスモス…
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