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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部終章 コスモス編

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第888話 苦手は部下に丸投げしよう

 ハルは月乃の計画の動機を予測し、その証拠も突き付けることが出来た。しかし、これで何かが変わるかといえばそうとも限らない。

 月乃が素直に自白してしまったから、ではない。これで彼女の行動が止まることはないからだ。


「さてどうするの探偵さん? このまま私を捕まえて、ハッピーエンド?」

「立証できないでしょう。それに、貴女を捕まえてしまえば僕らも共倒れだ」

「そうね? だからこそ、私は好き放題に動けたし、こうしてペラペラと計画を喋った」


 異世界に関わることは、現行法では裁けないし、明るみに出た時点でハルたちにも多大なダメージがある。

 それもありハルが完全に抜け出せぬ深みにはまっているからこそ、月乃はこうまで楽しそうに自白をしてくれたのだろう。


 ……一応、ルナの生まれの件や彼女自身の身体改造、ブラックカードへの仕込みなどで罪に問うこと自体は出来るだろう。

 だが、それをしてどうするというのだろうか? ハルは月乃を社会的に罰したい訳ではない。言ってしまえば自らも同じ穴のむじなだ。


 では月乃を失脚させて社会的な地位をぐのか? それもまた本末転倒。

 二つの世界の健全な接近にとって、彼女の力が必要だからこそハルは月乃を頼った。その彼女の力を封じれば、不利益をこうむるのはハル自身。


「それならば、お母さんを傀儡かいらいにして裏から操るかしら? お母さん、そういうプレイも悪くないと思うの!」

「プレイ言わないでください。それに、それでも月乃さんの計画通りなんですよね?」

「そうよ! あなたは私すら従える偉大な<王>様になる!」

「……その僕を誘導したのが月乃さんなら、いったいどちらが王なのでしょうね」

「なんにせよ、気付いた時点で逃げ場はなかったのよハル君!」


 止める手段がない。月乃を止めるということは、ハルの頼った彼女の力を封じるということ。

 月乃の上を取り支配するということは、彼女の望みに大きく近づくということ。


「そもそも、どうしてそんなに嫌がるのハル君? 私はなにも、今の生活を捨てろなんて言ってないわ! 煩雑な手続きや面倒な折衝せっしょうも、全部私に任せればいい!」

「それはそれでどうなんですかね……」

「あら? 異世界ではそうしているのでしょう?」

「あれは、あえて丸投げしてるんですよ。いずれ僕らがフェードアウトする為に」


 異世界で、梔子くちなしの国においてはハルは首都の上空に天空城を置いて住み、物理的にすら高い立場を演出している。

 しかし政治には介入せず、殆どは現地の<王>に委ねていた。


 これは、別に影から政治を操る黒幕を気取っている訳ではない。いずれ、その視界からも完全に消えて、全てを彼らに委ねる為だ。


「あの世界には、まだ僕らが必要だ。でもいずれは、彼らの力だけで歩いていける」

「ならこの世界にも、まだ管理者ハルくんが必要よ?」

「いいえ、別の話ですよ月乃さん。あちらの手出しが外に向かう為なら、こちらは逆に内向きだ。例えいびつすぎる積み木遊びでも、積み上げる権利を奪いたくはない」


 月乃の計画の終着点は、ハルによるエーテルネットの完全管理。

 全人民の合議で決まる、修正不能なシステムの積み上げ。そんな将来的に確実に穴だらけになるシステムを是正すべく、月乃はハルを再び管理者の座に据えようとしている。


「積み木遊びの結果、崩れて怪我することになっても、きっと自分たちでなんとか出来ますよ」

「遊びじゃ済まないわハル君? “必ず”取り返しのつかないことになる。システムの抜け道を抜きにしても、このまま人が増えすぎるだけできっと自重に耐えきれなくなるわ!」


 自重、というのはコミュニティに属する人間が増えすぎた際に起こる弊害へいがいを指しているのだろう。遠く未来を見通す月乃らしい考えだ。


 安定を経て、飽和した意識の集合は、共通の方向を見失い次第に衝突を起こす。

 要は目指すべき道が増えすぎるのだ。異なる道はぶつかり争いが生まれる。

 その時、現行の積み上げ式のシステムでは対処しきれず、残るのはバグだらけの欠陥OSのみ。


「そんな未来、ハル君だって見たくないんじゃないかしら?」

「まあ、見たいかどうかで言えば見たくはないですね。……しかし、少し面白いです。ジェードと協力してプロジェクトを立ち上げたのに、彼とは見据える未来が真逆なんですね」

「あらら?」


 急にどうしたのか、といった顔で月乃が首をかしげる。

 かつて語っていた緑色の神、商売の神ジェードの望みは『成長し続ける未来』。そして危惧していたのは『内向きに完結する世界』だ。

 これはある意味、月乃の目指す未来でもある。ハルにより管理された箱庭の世界。それは平和かも知れないが、発展性に欠ける。


 ジェードは例え月乃の語ったように『腐り木の積み木』でも、穴だらけの欠陥システムが生まれようとも、がむしゃらに進む人類の未来が見たいと語るだろう。

 その結果問題は起きるだろうが、それでも前に進む輝かしいエネルギーが人類にはあると信じている。


 月乃の望む未来は、そんな彼にとってはきっと退屈な物だろう。


「……という訳でジェード。君の共同経営者と意見が割れているようだ。君の方で話をつけてよ」





「《ははは。困ったら部下に丸投げですか。非常にいい性格ですねハル様。まさに暴君!》」

「やかましい。元はといえば君のミスだ。なんとかして」

「あららら? ジェード先生ね? ご無沙汰してるわ!」


 ハルの宣言と共に表示された空中投影ホログラフには、落ち着いた大人の男性の姿。

 緑の長髪をなびかせる眼鏡の男は、今回のゲームの発案者であり月乃の協力者でもあるジェードであった。


「彼がどうしたのハル君? 未来がどうとか……」

「ああ、それは単に理由のこじつけです。僕だけじゃ八方ふさがりなので、仲間に頼ろうかと」

「いい考えねハル君! お母さんの教えが生きているわね!」

「《ええ。優秀な経営者としてご成長なされている》」

「意気投合しろとは言ってないんだけど……」


 確かに何でも自分でやるワンマンチームにせず人を雇えとは言われていたハルだが、そこを褒めてもらう為に呼んだ訳ではない。

 神様と組んで事を起こした月乃に対抗すべく、こちらも仲間を呼んだまでだ。


「それで、分かったかいジェード。月乃さんの協力者は」

「《ええ。アルベルトとメタの解析したデータ、そしてアイリスの協力もあり割り出せました》」

「アイリスが?」

「《そだよぅーお兄ちゃんー。私が資金データの流れを追ってたの、知ってるっしょー》」

「そうなんだ。ただの無邪気な守銭奴しゅせんどだとばかり」

「《ここに来て放り投げんなー! めっちゃ疑ってたじゃねーかー!》」


 まあ、もちろん冗談だ。アイリスがお金を使って何かしらの調査をしていることは分かっていた。

 彼女が月乃の協力者だという可能性は低いと思っていたが、こうまで明確に対立するのもまた予想外なハルだった。


「それで、誰だった?」

「《ゼニスブルーです。ハル様もよくご存じの》」

「邪神系アイドルのゼニスちゃんね。確かに、日本に何らかの干渉をしているようなことを、ちらっと聞いたけど」

「彼女はこちらでアイドル活動をしたいみたいね。それで、お母さんに協力してくれないかって接触してきたの!」

「またこの人はあっさりと認めるし……」


 動機はゼニスらしい。七色の国ではなく、日本におけるアイドルデビューを目指し活動しているようだ。

 マリンブルーのライバルという設定を自らに課した彼女にとっては、反撃の一手となる良い案だったのだろう。


「それで、月乃さんの代わりにゼニスが指輪のプログラムを組んで、ジェードはそれに気付かず受け取ったと」

「《……面目次第もございません》」

「《それが全容だわなー》」


 これにて、『共犯者』まで含めた月乃の計画の全容が明らかとなった。

 だが、先ほどもハルが言ったようにこれで解決ではない。探偵が事件を解き明かしても、犯人はお縄につくことはないのだから。


「《さて、重要なのはここから》」

「《そだぜー。今回の件で、月乃かーちゃんの行動はめでたく『危険』と判断されました。今後は、私らのきびしー監視下におかれます!》」

「あれれ、お母さんピンチみたい! 悪い敵に見つかっちゃった! ハル君、助けて、きゃー」

「いや僕がその敵の親玉ですからね……」


 月乃が神々と手を組んで暗躍するのならば、ハルもまた彼らと協調し抑止する。単純だが、現状を停滞させることの出来る手だ。

 月乃が計画を進める大きな要因となったのは、この神々の存在あってのこと。ならばそちらを抑えてしまえば、それは大きく遅延できる。


 今回、ゼニスブルーを使ってある意味『神を騙していた』ことが証明された事実は神界ネットではそれなりに重く捉えられ、今後の接触は慎重を期することが合意された。

 さらには、金銭面でも日本に影響力を伸ばしているジェードとアイリスが牽制けんせいすることで、より月乃の行動を抑制できるだろう。


「なるほど! 日本の法では無意味だから、神様の法に訴えたのね! お母さん一本取られちゃった!」

「……の割には楽しそうですね月乃さんは」

「ええ! どうあっても、私はハル君の成長が見られることには変わりないもの! でも、こんな対処療法がいつまで持つかしら?」

「持たなくなる前に、次の対処療法を見つけますよ」


 結局、社会だって同じことだ。問題が起こり、それに対する対処療法の連続。その果てなきくり返しが、ジェードの語る輝かしい成長なのだろう。

 正直ハルには気が滅入る面倒さだが、自分の選んだ道だ、甘んじて受け入れよう。


 月乃の策に、終わりはないのかも知れない。だが、それに終わりなく付き合うのもまた一興。それもまた、楽しいのかも知れない。


「さて! それじゃあハル君のお手並み拝見ね? 結局なにも解決はしてないのよ? 指輪だって付いたまま!」

「……思い出させないでくださいよ。まあ、ひとまずこっちのローズの事情をなんとかしますか」

「楽しみだわ! 結末を一緒に鑑賞しましょうねー」

「《おもしろそーなっ!》」

「《それも一興ですね。では私も失礼して》」

「……君らは帰れ、運営責任者」


 一歩前進はしたものの、根本的な解決には至らず。立場が平行線になったところで、月乃は再び『同時視聴』に戻る構えのようだ。

 ハルも現状は、それに従うより他にない。とりあえずジェードとアイリスは戻らせて、今度はゲーム内から『ローズ』として、更なる進展への道を探り、またゲームのクライマックスに向け進んで行くのであった。

※誤字修正を行いました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 来た! ジェード先生来た! これでかt……黒幕対決の実現では? 邪神ってゲーム内都合的な呼称のはずだけど、傾倒するほど嵌っちゃいましたかゼニスちゃん。いや、奥様の協力神として出てくるのも…
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