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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部終章 コスモス編

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第869話 恋と信仰は盲目で

 本日より新章。二部の最終章です。きちんと纏めて終わりに迎えるよう、がんばります!

 ログアウトし、ハルは天空城のお屋敷にて皆を集める。

 リコリスからもたらされた情報、それを共有、精査する為に、皆の知恵を借りたいハルだった。


「……という訳で、奥様、ルナのお母さんの月乃さんがあのゲームのシステム作成に関わっている。リコリスが言うにはそういう話だ」

「まあ、お母さまなら特に不思議な話ではないわね? いつかやらかす人だとは思っていたわ。娘として残念よ?」

「あはは、ルナちゃん、お母さん相手でも容赦ないね」

「当然よユキ。むしろ親子だからこそ、あの人のヤバさは誰よりも知っているわ?」


 自らの母親が容疑者扱いされたルナだが、むしろこの場の誰よりも落ち着いていると言える。

 当然といえば当然だが、最も月乃と付き合いが長いのがルナだ。そこにはハルも知らぬ、親子に特有の心の機微きびがあるのは当たり前のことだった。


「で、ではルナさん。お義母かあさまが本当に今回のことの首謀者だったとして、何を目的としているのかは分かりますか?」

「そうね……? そこが少しね? 今のところ、実害は出ていないし、ただハルにちょっかいを掛けたいだけ、なんてのも十分あるのよね」

「好きな子ほど、いじめたいのですね! わたくし、知ってます!!」

「アイリはすぐロマンスにしようとするのを止めるように……」

「しかしハル? お母さまはそういう人よ? 深読みのし過ぎもよくないと思うわ?」

「まあ、ね」

「単なるいたずら、サプライズかもなんですねー」


 ルナもこう言っている通り、月乃が何か壮大な悪事に手を染めているという考えはハルにも薄い。

 身内びいきと言ってしまえばそれまでだが、この長年の付き合いからくる経験則は非常に信頼性の高い情報だと言って構わないだろう。

 彼女の根は善人で、優しい人だった。それはハルもルナも保証するところ。


「私もよく遊びに行ってますけど、何かを隠している素振りは見せませんでしたねー」

「わたしはその方の事は詳しくないですが、逆の意味で早合点は危険だと言っておきますハル様! なにせ情報の出所がリコリスっすよ。特に、なんすか? モンスター化したから制限に引っかからなくなったって? 誓約がいい加減すぎて怪しいっす。怪しすぎるっす!」

「そですねー。それについては、最初から『破るために』ルールをそうして設計しておいたと思うべきでしょー」


 カナリーとエメの神様組は、むしろ情報提供者のリコリスを疑っているようだ。

 指輪の力を逆手にとることで、秘密厳守の縛りから外れたリコリス。その唐突過ぎる展開に、罠の可能性をハルに警告している。


 ハルの目を月乃に向かわせることで、自分たちから注意をらそうとしていると考えるのもまた妥当であった。


「そんなに悩むことかいハル? 君の育ての親なのだろう? 本人に聞けばいいじゃないか」


 そうして深刻な顔をするハルに、一人で大きなソファーひとつを占有してだらけながらセレステが言う。

 何を悩んでいるのかと呆れるように、寝そべりながらお菓子を食べていた。これでも一応ハルの護衛が彼女のお仕事である。


「セレステはー。また適当なんですからー」

「ハルの観察力は絶大だ。君の前で、隠し事が出来る人間など居ないさ。それに“向こう”は完全なエーテルネットの影響下。君に逆らえる者など居ない」

「まあー、そですねー」

「お母さまを強引に拘束して閉じ込めて、真相を吐くまで尋問しましょうハル?」

「お母さんになに言ってんのルナ……」

「大丈夫、あのひとも内心望んでいるから」

「本当になに言ってんの!」


 望んでいるかどうかはともかく、出来れば穏便に済ませたい。

 しかし、セレステの褒めてくれたハルの洞察力に関しても、今回は微妙に不安の残る気持ちが隠し切れないのが本音であった。


「……奥様、月乃さんに関しては、それこそ深く観察するまでもなくその本心が分かる自信があったんだけどね」

「ああ、なんだっけね? 本音を見破る翻訳システムが働かなかったんだっけ?」

「うん。どれだけ厳しい態度をとっても、その内心が読み取れるほど彼女のことは知っていたはずなんだけど……」

「それなら、改めて知って行けばいいだけじゃあないか」

「前向きだね、セレステは」

「うむっ! もっと褒めてくれたまえよ!」


 確かにセレステの言う通りである。家族に己の知らぬ一面があったなら、そこも改めて知って行けばいい。

 普通の人間であれば、それが当たり前のこと。ハルのように『知っていて当然』と思う方が、むしろどうかしているのだろう。


「それよりもだハル! 今考えるべきは君の愛しのお母さんの方じゃない」

「愛しのやめようね?」

「まあ愛しの私の話を、黙って聞きたまえ。問題なのは誰が、彼女にプログラム知識を与えたかだ。しかも『フラワーネット』を構成する為の、特殊なそれを!」

「確かにそうだねセレステ。そこが、一番不気味ではある」


 ハルはそこも含めて月乃の意思と考え、月乃の意思を探ることで自動的にそこも明らかになると考えていた。

 だが、セレステはそちら側から探ることで、逆に月乃の考えが読めると主張する。

 人間寄りのハルと、神様寄りのセレステの違いだ。こうして新たな視点を得られることが、皆の力を借りる大きな利点だろう。


「そう多くはないですからねー。あの仕様を知ってる子はー」

「そっすねカナリー。あの仮称『フラワーネット』は、マリーゴールドの『妖精郷』をベースに組まれた新しめのシステムです。神界ネットに繋がってる神であっても詳細は知らない者が多く、それだけで候補も絞られるっす」

「犯人はこの中に居るー。ですねー」

「……ふみゃーお」


 この中には居ないだろう。猫のメタも呆れてそう主張しているようだ。


「むー。メタちゃんは何か知りませんかー? メタちゃんも、奥様ちゃんの所によく遊びに行くでしょー?」

「にゃーう。にゃーう」

「そうですかー」


 メタは申し訳なさそうに目をつむって、首をゆっくり左右に振る。知らないそうだ。

 月乃の家によくロボット猫としてお邪魔しているメタだが、しかしその身は当然ながら純機械式。そして純日本製。

 こちらの世界の量産型メタより更に性能の落ちるセンサーでは、得られる情報にも限りがあった。


「ぬーん、ふみゃっ!」

「そですねー。これからは注意して見ていきましょー」

「なおん!」


 のんびりと気合を入れなおす微笑ましい一人と一匹。

 ハルも、今すぐにでも月乃の元に行って問いただしたい気分だが、こんな状態ではまた何も成果は得られないだろう。

 まずは何か、外部から証拠を掴んで行かねばならなかった。


「それじゃあ、まずは手分けして調査かしら?」

「はい! わたくしも可能な限りお手伝いします!」

「お義母さん側と、協力者の神様側の二方面かな?」

「三方面ですよーユキさんー。リコリス本人を、疑うことを忘れてはいけませんー」

「そっすね。さっきも言いましたが、これは自分たちから目を逸らさせる為にあえて流した情報の可能性があります。とはいえ、こっちに関してはやること今まで通りっすね。運営の六人と接触して、その目的を探る!」


 そう、そこも忘れてはならないだろう。特に、新たに明らかとなったコスモスの目的。

 これは何時だかハルがたわむれに予想した、『新たな神を作り出す』、という内容が的中した形だ。

 危険度、世界への影響度を考えれば決して無視できない。


 さて、そんな大きく分けて三つの目的。まずはハル自身はどう動くべきなのだろうか?





「やっぱり、ハルはお母さまを追いなさい? それが良いと思うわ、私」

「しかしねルナ。僕は現状、月乃さんに対し無意識に手心を加えていると自己評価せざるを得ない」

「そうね? ハルのお母さまに対する『信仰心』は異常だもの」

「異常て、信仰って……」

「愛情と感謝で盲目になっているわ? 信仰と言わずしてどうするの」

「わたくしが、カナリー様に向ける気持ちのようなものでしょうか!」

「そうですよー? アイリちゃんも、気を付けないとダメですよー?」

「あはは。カナちゃん、自分で信者さんを盲目扱いしちゃだめでしょ」

「すみませんユキさんー」


 まあ、どの世界でも信仰というものは盲目さを生みやすいものだ。それについては今はいいだろう。


 ここで考えるべきは、ハルが例え無意識に月乃の不都合な真実を意識から削除オミットしていたとしても、その元となる経験データその物は変わらず存在しているということ。

 その記憶に対し、今までとは違う視点でアクセスすることで、無意識に見ないようにしていた何かが見えることもあるだろう。

 それは、確かにハルにしか出来ないことだろう。


「でもさルナちゃん。ハル君に隠れて悪いことするなんて、本当に可能なのかな?」

「ハルだって神様じゃないわ? ああ、ここで言うのは『全知全能』の方ね? それにさっきも言ったようにハルはお母さまに甘いから。事実私やお母さまがこっそりハルの下着を盗んだとしても、気付かなかったもの」

「何言ってんのルナ!?」

「あ、あははは。まあルナちゃん。今はえっちなお話はおいといてさ……」

「ごめんなさいね?」


 いや、置いておかないで欲しい。気になって仕方ないハルだ。

 確かにそんな事実はハルの記憶にないが、果たして意識の裏を突いた完全犯罪なのか。それともただの冗談なのか?

 そこをあっさりと迷宮入りさせて、ルナは真面目にユキへと向き直った。


「確かにハルは現代社会において万能だわ? だからこそ、お母さまもハルに頼っている部分が大きい」

「うんうん。ハル君、調べれば何でも分かっちゃうもんね」

「でもそれは、『調べれば』なのよユキ。ガザニアで探偵ごっこをしていた時にあったでしょう? 現代犯罪のキモはいかに意識に乗せないか」

「そか。まず調べないと、発覚しないんだ」


 物的証拠であれ、データであれ、まずは調査を行う意思があって初めて明らかになる。

 確かに事件現場をエーテル技術をもって捜査すれば、証拠はたちどころに上がるだろう。だがそれは、事件現場が明らかになっていてのこと。


 月乃はその『事件現場』を発見するのが非常に上手い。ハルとて、常に全世界のあらゆるデータを走査そうさしている訳ではない。脳が持たない。

 そこに明確な方向性を月乃が与えることで、ハルの力を十二分に有効活用しているのであった。


「でもさ? 今ならハル君は月乃お義母さんを疑ってる訳じゃん? そんなら、改めて調査しちゃえばいいんじゃないの?」

「確かに、そうなるわね……?」


 怪しいと分かったのだから、その『事件現場』を改めて調べればいい。そうすれば一発だ。ユキの言葉はもっともである。

 しかし、あくまで勘だが、ハルはその方法では『証拠』は出てこないと思っていた。


「もちろん調べてみる。ただ、やっぱりそれで解決するほど甘くはないと思うんだ」

「どして?」

「いくら僕が奥様に甘いと言っても、これまでの年月ずっと完全に見逃してたとは考えにくい」

「そだね。ハル君、すごいもん。それは確かにだ」

「そうね? だけどハル? あなたの目が“本当に”届かない場所なんて、日本の何処にもないのでなくて?」

「いえ! あるのです!」


 そう、ある。そしてアイリが元気よく手を上げるように、その場所をハルたちも知っている。


 空を満たすように、あまねく世界に存在するナノマシン、エーテル。だがそれを遮る存在が、既に確認されているのだ。


「うちの学園、じゃないわね。ああ、あの病院、いえ研究所の地下施設にあった……」

「うん。アンチエーテルの黒い壁だ」


 これも最近、ハルが何となしに考えたことだ。これは、無意識になにかを感じ取っていたのだろうか?


 エーテルネットという絶対的な監視網から逃れる最も現実的な策は、アンチエーテルの黒い塗料にて封鎖した地下施設を作ること。

 その内部であれば、神の如きハルの目であっても決して届かない。


 ハルはひとまず、その方向で調査を開始することにしたのであった。

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