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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第3章 アルベルト編

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第86話 転移

 考える、と言うのは容易いが、この状況では思考を巡らすのも容易ではない。

 地面に降りれば絶え間なく住人達が襲い掛かってくる。なら空に上がれば安全かといえば、飛行可能な店員型が突っ込んで来るし下からは魔法も飛んでくる。

 ハルはセレステとは違い直上と直下には対応していないのだ。普通に死角になる。

 それをカバーするために目玉を増やせば、また思考力が奪われる。


「それでも空中の方が多少はマシかな。下だと体力がガンガン削られるし」

「普通の人なら逆なのでしょうね。飛行は魔力を大量に消費します。普通だったら体力より先に尽きるはずです」

「<飛行>対策が甘く感じるのはその為か」

「はい。こんなに常時飛んでいられるのは、ハルさんくらいなのでしょう」


 絶え間なく魔法が飛んできているとはいえ、それでも地面に居るよりはずっと良い。

 魔法を使える住人は、いや正確には上空に有効打を与えられる魔法を使える住人は、一部に限られている。

 これが地上になると相手をしなければならないのは全員だ。漏れなく武器を持った住人達が入れ替わり立ち替わり飛び込んでくる。しかも完璧な連携で。

 どれも体力は一般人並みで一撃で消滅するとはいえ、数が多い。全員を倒す前に、最初に倒した一人が復活して再び参戦するだろう。無限ループだ。


「定番だと、どこか施設に入って立てこもるんだろうね。こういう場合」

「現実的ではありませんね。個々が打撃力を持った上にあの人数……」

「すぐに突破されちゃうね」


 ホラー映画の定番だ。だが相手はホラー映画のような鈍重な怪物ではない。走るし武器を振るうし魔法も使う。

 特に魔法がやっかいだ。バリケードなど何の役にも立たないだろう。


「バリケードを強化するために魔法で防壁を張ったら休憩にならないしなあ」

「そもそも、住人は家の中から出てくるのですよね?」

「そうだね。一人は必ず相手をしなきゃならないか」

「考えるのは別の事にしましょうか……」

「そうだね。意味の無い事に思考を使ってしまった」


 現在は膠着こうちゃく状態。打開策を探り、思考が右往左往する。

 ハルとアイリにも、アルベルト達にも決定打は無く、お互い牽制けんせいのような攻撃で削りあっているだけだ。


 いや、こちらが一方的に削られているだけか。アルベルトの魔力には底が見えない。

 対してハルとアイリは、ただこうしているだけで体力を消耗して行く。


「アイリ、ずっと同じ姿勢で辛くない?」

「はい! 平気です! ずっとこのままが良いです!」


 いや、消耗しているのはハルだけなのだろうか? アイリはハルに抱き上げられてご機嫌だ。

 首筋に、ぎゅっ、と抱きついてくる。


「余裕だね、アイリは」

「この程度、なんともありません。ハルさんも、わたくしのお尻をお楽しみいただいてますか?」

「いや……、戦闘中はそんな余裕なくてね。申し訳ない」


 戦闘中は、思考の方向性をそちらへ振り切っているハルだ。

 抱きついてくるアイリの柔らかな感触や、むにむにと腕に押し付けられる彼女のお尻の事を気にする余裕は無い。ほとんどオートで遮断している。

 唯一気にしているのは、アイリの体温や鼓動、呼吸などから推し量れる彼女の体調だ。今のところ、全くの平常。


「アイリは本当にいつも通りだね。実戦経験なしとは思えないよ」

「こんな攻撃よりも、ハルさんの体温を感じている事の方が、呼吸を乱されちゃいます」

「警戒は忘れないようにね?」

「はい! 後ろはお任せください!」


 しばらくそのまま、二人で飛行しながらの迎撃を続けるのだった。





「アルベルトさんは、このままで良いと考えているのでしょうか?」

「かもね。無理に打開策を用意しなくとも、僕らが消耗して行くのは必定ひつじょうだし」


 眼下に群がる無数の住人達を見ながらそう語る。しばらくこうして此処に留まっているが、散発的な攻撃以外には動きは無い。

 ある種の安定した状況と化している。この状況が続けば、対応はパターン化し、精神的な余裕が生まれ、思考を回す余地が出来るというものなのだが。


「果たしてそれを彼が、……彼女かな? 許すだろうか。僕らに考える暇を与えるのを」

「与えたくはなけれども、奪う手が無いのかも知れません」

「そうだね。銃を持ってなくて良かったよ、彼らが」

「じゅう、ですか?」

「この世界には無いんだったね」


 魔法があるからか、銃は必要ないのかも知れない。

 科学的な発展度合いからすれば、銃は生まれていても良い時代だろうと思われる。

 まあ、あんな物はあっても戦争を加速させるだけだ。それを抑制するために、神々はこちらには伝えなかったのかも知れない。


「最近は使ってなかったね。僕が使うこの魔法」


 ハルは<銃撃魔法>で、飛行して迫る店員タイプのアルベルトを打ち落としながら言う。

 最近は、威力ではこの世界の魔法攻撃、即応性ではエーテルを直接爆破しての攻撃と、<銃撃魔法>よりも対応力のある攻撃が身について来た為、あまり使う事が無くなっていた。


「費用対効果、コスト面ではまだこれに軍配ぐんばいが挙がるかな。コアを打ち抜くには丁度いい」

「単純ながら、効果的な魔法です。使えるのでは?」

「《コアのロックは私が担当しましょう。ハル様がするよりも領域を抑えての処理が可能なはずです》」

「なんだか目的がズレてきてる気がするけど……、アイリが見てみたいならやってみようか」

「はい! 楽しそうです!」


 この状況で楽しみを見出す余裕は見習うべきだろう。

 このままこの位置から、銃弾の雨を降らせるのも良いが、それは少し効率が悪い。ハルはアイリを抱えて、銃撃に適した場所まで移動して行った。





 <飛行>して来た場所は商店街を抜けた丘の上、階段を登った先の噴水広場だった。

 噴水もまた例に漏れず、ぐにゃりと輪郭を曲げて、影絵として単純化されている。噴出す水もその一部として簡易なアーチ状に描かれ、ハルが上に乗っても水に濡れる事は無かった。


「ハルさんと離れてしまいました……、言い出さなければ良かったです……」

「アイリには背後を担当して貰わないといけないからね。立ってるのが疲れたらまた抱えてあげるから」

「わたくし、疲れました!」

「おやおや」


 良いつつも、アイリは背中合わせにハルの背後に回る。今は全員が階下に行っているので誰も来ないが、じきにそちらからも復活してくるだろう。

 噴水広場が通じているのは、まず商店街に、そして住宅地に繋がる大階段。ハルが向いている方向だ。

 そして横方向に、各種の遊戯施設。カジノや闘技場など、それぞれの神が担当する物。バニーアルベルトや受付嬢アルベルト、水着アルベルトなどが出てくる。

 そして背後、階段をまた登った先に神殿がある。馴染みの深いスーツアルベルトはそこだ。


「一番数の多い住宅側を僕が銃撃で担当する。アイリはバニーとかをお願い」

「……あのー、これでは、わたくしハルさんの活躍を見れないのでは?」


 腰に手を回され、脇下からアイリの顔が出てくる。

 見えないが確実に不満顔をしているだろう。効率を考えて最初の目的を失念していた。ハルの落ち度と言えよう。


「……確かにそうだね。まあ、しばらくはこっち見てて良いよ。後ろ側はたいした人数じゃないから」

「ありがとうございます!」


 一応ハルは目玉を作り出して、念のため背後に浮かべる。

 施設従業員のアルベルトは、全て合計してもそう大した数にはならない。さほどの負担にはならないだろう。


「来ました!」

「神界でもなければ地響きがしそうだ。凄い迫力」


 大量のアルベルト達が階段を駆け上がって来る音が響く。

 二人の位置からは見えないが、幅一杯に埋め尽くして来ている事だろう。ここから鉄球でも転がしたい。

 アルベルト達の機動力は高い。すぐにこの噴水広場まで到達する。


「《ロック完了。いつでもどうぞ》」

「じゃあ、アイリ司令官、号令をお願い」

「えっ、わたくし!? えっと、では、撃てっ!」


 一斉に魔法の銃弾が発射される。コアを打ち抜かれたアルベルト達は、すぐに全身を輝く粒子に変えて消滅して行く。

 魔力によって織り上げられたプレイヤーや敵モンスターは、頭部にあるコアを失うとその体を維持出来なくなって消えてしまう。アルベルトは分類上はNPCだが、扱いとしてはプレイヤーに近い。

 神の操作するプレイヤーだ。性質上、コアへの狙撃にはめっぽう弱かった。


「面白いように消えていきますね!」

「確かに、まるでボーナスステージだ。状況を忘れて少し楽しくなってきちゃうかも」

「《撃破した中に従業員型が混じり始めました。背後に警戒を》」


 余裕たっぷりのアイリに釣られて、ハルも何だかゲーム気分が戻ってくる。

 気分は無限にスコアが稼げるボーナスステージ。開発者の設定ミスで、つぎ込んだコストの分以上の報酬リターンが出てしまう場面があったりする。そんな気分だ。


「このまま、こうしてハルさんのけいけんち、を稼ぎませんか?」

「アイリ、目的。目的忘れてる」

「《確かにこのダンジョンは通常の二十倍は効率が良いですね》」

「まあ」

「黒曜も妙な冗談を覚えたね……」


 近距離で敵がどんどん消えて行く為、残滓ざんしの魔力がハル達の元まで届いて来ている。

 それを吸収スキルで吸い取れば、銃弾に使ったコスト以上の回復が可能だ。

 完全黒字ステージが大好きなハルだ、黒曜の反応にも内心では同意する。


 しばらくすると一巡したのか、襲撃がまばらになった。位置の近い、店員系のアルベルトの率が増えてくる。


「もっと来て下さると楽しいですのに」

「アイリが何か変なスイッチ入っちゃった」

「だんまく、好きですから!」

「《ハル様の教育の成果ですね》」

「なるほど僕のせいか」


 彼女を自分の色に染め上げたと言えば背徳的な感じも出るが、実状はちょっと残念な感じだ。

 そんな、気の抜ける事を考えるくらいには心の余裕が出てくる。アイリのおかげだろう。


「アルベルトは、このまま撃たれるのを分かって攻めてくるのかな?」

「アルベルトさんはお優しい方ですから、ハルさんに沢山けいけんちを下さるつもりなのでは」

「……そこだ、アルベルトは優しい。そこを考えていなかった」

「?? どういうことなのですか?」


 アルベルトがこの試合を挑んできた際、彼はハル側が敗北した場合の要求に、即時ログアウトを設定してきた。

 ハルが勝利しても、敗北したとしても、ハルの抱える問題が解決するようにと。


「ならば逆に考えて、アルベルトが敗北した場合に得られる物は何か」

「確かに、どう転んでもお互いに得られる物があるように、と考えるのが自然かも知れませんね」

「彼らAI(かみさま)は、特にね。セレステだってそうだった」

「王子が負けても、それを利用してハルさんと戦えるようにですね」


 セレステの場合は、アベルを倒すほどの強者と自らが邂逅かいこうできる様に、あの時から周到に計画していた。

 同様に、アルベルトにも何か目的がある。その視点を、ハルは忘れていた。


「しかしハルさん、今回、こちらは何も要求をしていません。ハルさんのお手伝いをする事が、目的なのでしょうか?」

「そうだね。特に利点があるようには見えない、か……」


 最初よりも間隔を空けて攻めてくるアルベルトを打ち倒しながら、背中合わせにアイリと考える。

 ちょうど、アイリが当のアルベルト、神殿から現れたスーツ姿のアルベルトを魔法で排除した所であった。

 お茶を飲みながら試合の相談をした情景が、ハルの脳裏に想起される。


「ハルさんは素敵な方なので、アルベルトさんも一緒に居たいのですよ! わたくしでもそうします!」

「あはは、嬉しい評価だけどね。それを目的にするのはアイリだけかなあ」

「ルナさんやユキさんだって、きっとします!」


 逆に言えば、ハルもアイリを手に入れるためならそうするだろう。もし自分が敗北する事になっても。そんな事よりも優先度が上だ。

 その問題は、プライドや、保有するリソースよりも上に来る、優先順位の高い問題。ハルにとっては、自らを定義する重要な。


「存在価値の問題……、彼にとっての」

「アルベルトさんは沢山いますから。どのアルベルトさんの問題なのでしょうー……」

「……むしろ、それが問題なのかな」


 この試合の勝利条件。それは“本物のアルベルト”を見つける事。


「つまり裏を返せば、僕らに、本当の自分を定義して欲しいと思っている、のか?」





 自己の定義。これは人間にとってもしばしば問題になる。一体どの自分が“本物”なのか。

 家で、学校で、職場で。友人と遊ぶとき、恋人と語らうとき、嫌いな相手と、対峙するとき。演じる自分はそれぞれ異なる。

 ハルたちの中では、アイリが顕著であろう。

 王女としての真面目なアイリ。ハルに甘える子供っぽいアイリ。どちらも本物のアイリだ。彼女はそこで迷う事は無い。


 だが、迷わない人間ばかりではない。

 自分は嘘の仮面を付けてばかりで、本物の自分とは、どういった者か分からなくなる。

 電脳世界の仮装アバターが生んだ問題などと言われているが、何の事は無い、どの時代にも共通する人類普遍の悩みだ。


「アルベルトさんは、本当に沢山の“自分”がありますものね」

「そういう悩みを抱えていても不思議じゃないね」


 この世界の神様、AI達はとても人間的だ。いや、セレステを見るに、人に成ろうとしている過渡期なのか。

 ならばアルベルトは最も人間を演じやすく、最も人間に成り難いタイプだろう。


「わたくし達が、どれか一つを決めてあげれば良いのですか?」

「……実は適当に『見ーつけた』って言えばそこで勝ちになったりしないだろうね」

「もしそうなら、悩む事など無かったのですね」

「でも、もし本当にそうだったとしても」

「そんな勝ち方は嫌ですよね?」


 ハルの気持ちを汲み取ったアイリが言葉の先を引き継ぐ。

 そう、そんな勝利では拍子抜けだ。やるからにはきっちりと勝ちたい。


「アイリ、アルベルトの神威は感じる?」

「うっすらと。以前は分かりませんでしたが、これだけ大勢集まれば分かるようです」

「よし、じゃあ、手伝ってもらえるかな」

「はい! なんなりと!」


 ちょうどまた迫って来たスーツ姿のアルベルトを撃ち抜き、ハルはアイリを抱え上げて再び場所を移す。





 ハルが<飛行>してきたのは商店街の上空。

 ここも円形道路ラウンドアバウトのように、どの方向にも行けるように広場状に取られた通りだ。

 ここが最も多くの人数を集められそうだった。


「まずは時間を稼がなきゃ」

「どんどん集まって来ますねえ……」


 階段上に居たハルを追っている最中だったアルベルト達は、続々と広場へ集合してくる。最後尾の住民キャラは既にここへ到着しており、後は近所の住人が復活するのを待つのみだ。

 飛行キャラを適当に相手しつつ、周囲に自分の魔力を開放しそれを待つ。


「集まりました! ハルさん、どうするのです?」

「こうする。<物質化>」


 集合し、ハルの認識の、魔力の範囲内に収まった集団全てを一斉に<物質化>する。

 アルベルトの体はプレイヤーと同じ。つまり<物質化>を掛ければ操作不能となり、しかも自動復活リスポーンもされずに足止め出来る。


「ユキの悪辣あくらつな発言が役に立った」


 ぼとぼとと落下する飛行型が落下の衝撃で死なないように、<念動>で着地させる。


「これで時間は稼げましたね」

「そうだね。じゃあ黒曜、手早く統合を」

「《御意ぎょいに。十二領域、接続します》」


 ハルの分割された意識が、“僕”に統合される。しかし意識拡張は出来ない、ここにはエーテルネットワークが存在しない。

 だが、接続出来る場所が無い訳ではない。


「アイリ、君の心に僕を繋ぐ。受け入れてくれるかい?」

「ふえぇっ!? しょんないきなり! そんなこと、い、良いですけど!」

「ありがとう。ごめんね、説明してる暇が無くて」

「にゃんとなく察してましたぁ……」


 抱き上げたままの彼女と視線を合わせ、意識を接続してゆく。

 ここ最近顕著(けんちょ)だった、アイリに僕の心を読まれる現象。それはつまりハルとの間に経路パスが通っているという事だ。接続が可能だと考えられる。

 今までずっと謎だったあの感覚。それを今こそ発芽させよう。彼女の見ている世界を、僕も見たい。


 少しずつ、彼女の心の壁を押し開き、僕が彼女に侵入して行く。

 混ざり合った僕とアイリは“僕ら”となり、ハルの視界とアイリの感覚が同時に使用可能になる。


「《ハル様、あまり帯域を広げるのは危険かと》」

「今何パーセント?」

「《0.7%です》」

「1%に限定して」

「《御意に》」


 僕とアイリが完全に“僕”になってしまうのは互いに本意ではない。ハルはハル、アイリはアイリ。ふたり居るからこそ互いを想える。

 神を感じる感覚だけ残して、互いの心を引き離す。うっとりとした表情のアイリが、少しだけ名残り惜しそうな顔をした。


「このまま、アルベルトを見つけるのですね」

「うん、僕の目を使ってね。出来そう?」

「もちろんです!」


 アイリの瞳が閉じられ、僕の<神眼>が起動する。周囲のアルベルト達へと通じる操作ラインを辿り、アルベルトの本体、彼の意識を見つける。

 ラインと言っても、操り人形のように線が伸びている訳ではない。コアに直接、操作命令が送られている。


 あまり時間は無い。操作不能に陥ったアルベルトは、すぐにでも自壊して再度復活してくるかも知れない。次は同じ手は食わないだろう。

 だがここで僕が焦っては、繋がっているアイリにそれが伝わる。アイリを信じて待とう。

 僕はその間に、次の段階の準備を行って待機する。


「見つけました!」

「よくやったね、アイリ」

「後で撫でてください!」

「うん」


 アイリが到達したアルベルトの本体。淡く輪郭の無い発光体のような形をしていた。

 どんな場所にそれが存在しているのか分からない。だが今はそれに興味は無いし意味も無い。形も、意味をなさないだろう。

 重要なのはその情報、彼を構成する式を<神眼>で読み解いて行く。


「本物はどれか、って君は言ったね。でもいくら探しても本物は居なかった」

「ずるいですね!」

「ああ、ずるいね。だから僕らもずるい事をしよう」

「本物を、作りだしちゃいます」


 最も馴染みの深いアルベルト、スーツ姿の彼の体を浮かせて<魔力化>し、本体の情報を転写して行く。

 僕が、この身に行ったように。神を、この地へと貶める。

 本体と同化したアルベルトが居れば、それがまぎれも無く“本物”だろう。その屁理屈を、強引に現実化していく。


 そうして、全ての情報が転写された。形を与えようと魔力を込めると。アイリの視界の先、形を持たないアルベルトの姿が消失する。


「《ハル様、<転移>のスキルが習得されたようです》」


 同一の情報を、マーカーとしてエーテルへと打ち込む。やはりその行為が<転移>であったようだ。

 複製との違いが気になる所だが、今はそれを気にしている場合ではない。

 この試合を、終わらせなくては。


 アイリを地面に降ろし、二人で彼を指差すと、僕らは高らかに宣言する。


「アルベルト、」

「見つけました!」


 満足そうに彼が微笑んで膝を付くと、僕らの勝利を告げるアナウンスが響き渡るのだった。

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