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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部5章 リコリス編

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第852話 天より来たる破滅の使徒

 遠く、飛空艇の砲撃音が響く。空を裂く金切声かなきりごえのごとく凶悪な主砲の発射音がとどろいたかと思えば、次いで土砂崩れのごとく断続的な副砲の連射音が届いてくる。


 ハルが現場の状況をモニター越しに確認してみれば、主砲の一撃で陣形を崩され、分散した所を副砲で各個撃破されていた。


「……今のところ、相手になっていないね。とはいえ数が多い」


《かいじゅーは出ないか》

《相手に出来るのローズ様しかいないし》

《かいじゅーを呼べるレベルのイベントがない》

《そろそろ追いついてこれない?》

《誰がだ? 引き離す一方でしょ》

《魔王様とか》

《ソフィーちゃんとか》

《怪獣騒ぎ当時のローズ様くらいには?》

《なってるかも?》

《つまり怪獣は出るってことか》


「かもね? 特に、ケイオスの奴は怪獣向きだ。出て来てもおかしくはないよね」


 ハル以上に派手な魔法を操る『魔王ケイオス』。彼女かれに関係するイベントであれば、怪獣じみた規格外のモンスターが出てきたとしてもおかしくはない。


 特に、かつてハルが戦った紫水晶から生まれた怪獣であればどんな状況から出て来ても不自然ではない。

 なにせ、紫水晶アイテムさえ手に入れてしまえばそれを使用するだけ。主義も主張も陣営も問わず、誰でも呼び出しが可能だった。


「……しかし、それだと一つ困ったことがあるんだけど。まあ、今考えても仕方ないか」


《えっ、なになに?》

《言いかけて止めないでー》

《気になっちゃう!》

《今はまだ語るべき時ではない……》

《強者ムーブやめて(笑)》

《ローズ様は圧倒的強者だから》

《事態をややこしくするやつだ(笑)》


「ふふっ、そうだね? まあ、このゲームにおいては、ややこしくなってもそれはそれで、面白いだろう?」


 思わせぶりな強キャラ感を演出する気はなかったのだが、視聴者が楽しそうなのでこのままにしておく事にするハルだ。

 ファリア伯爵の製造していた紫水晶。その生成装置は既にハルが抑えている。確実に出てくるといった保証もない。


「さて、僕は僕で急がないとね。ある意味、広域分散は怪獣よりも強敵だ」


 リコリスの首都を中心とした、ドーナツのような円周上に次々と出現しているモンスター。

 ハルと、仲間たちの乗った飛空艇は左右に分かれて対処に当たっている。


 右回りの飛空艇は既に直近の一か所目を砲撃で吹き飛ばし、更に先へと進んでいるが、ハルはまだ現地に着いてもいない。

 ハルも<飛行>にて高速で向かっているが、当然ながら飛空艇との速度差は如何いかんともしがたかった。


「ここはまた、カナリアを使おうか」


《出た、スパイ鳥!》

《スパイ鳥言うな!》

《戦闘鳥だよな》

《また鳥葬するのかな?》

《これで何方向か追加できるね》

《焼け石に水じゃない?》

《ローズ様本体に戦力を集中した方が……》

《お姉さまには何かお考えがあるんでしょう》

《結構バラバラに飛ばしたね?》

《やっぱり情報収集が目的かな?》


「さて、どうだろうね? 後のお楽しみだ」


 分身代わりにして手数を増やすことに定評のある<召喚魔法>。その呼び出した使い魔をハルは四方八方に放っていく。

 一匹一匹はどう頑張っても低レベルプレイヤー程度の力しか出せない小鳥たちだが、<存在同調>のスキルによりハル本人としてスキルやアイテムが扱えるという強みがある。

 その特性を生かすために、小鳥たちはこのリコリスの国全土へと飛び立っていった。


 そうこうしているうちにハル自身も、仲間と逆側の敵集団へと到達する。

 こちらは人間の兵士が中心となっているようで、<飛行>するハルを驚愕きょうがくの瞳で見上げていた。


 この世界には自由に空を飛ぶ人間は居ない。こうして高所から見下ろしている時点で、彼らの持つことわりの外に居る存在として威圧感を与えることが出来るようだ。


「な、なんだあいつは……」「空を、飛んでる?」「まさか、神様……?」「そんなはずあるか!」「落ち着け、何があっても計画通りだ」


「やあ。神ではないので安心して欲しい。そして急ですまないが、君達を排除させてもらう」


 そう、ハルがこちら側にやってきたのはこの為。相手にNPCが多く含まれていた為だ。

 ハルのプレイスタイルとして、不殺の縛りがある。飛空艇を操るメイドさんたちも、そのことを尊重し彼らを殺すことはない。


 そうなると、飛空艇の砲撃の威力では彼らに対して取れる手段が無くなってしまうのだった。こちらは威力の自由が利くハルが対応した方が良い。


「さて、話している暇も惜しい。早速いかせてもらうよ?」


 ハルは空にドレスをはためかせ、逆光に笑みのフチを不気味に輝かせると、無敵の高所から容赦なく<神聖魔法>を降り注がせた。


 撃ち下ろすのは、光の柱。まるで天の裁きがごとく、空から光が降り注ぐ。

 この滝のような光柱こうちゅうは一本一本が別々に威力を調整可能な上級の<神聖魔法>。スキルを使い続けたハルに、新たに芽生えた魔法攻撃だ。


 この効果はハルにとって実に都合がよく、NPCを殺害することなく無力化できる。

 もちろん、敵のHPを見誤ればそのまま死亡してしまうリスクはあるが、そこは持ち前の洞察力にて的確に推測をしていくハルだった。


「……クライスに一緒に来てもらえばよかったな。彼、なんだか敵の能力を正確に読み取る力を持ってるみたいだし」

「《それは無理っすねえ。あの皇帝さんがハル(ローズ)様と一緒に行くには、ハル(ローズ)様が抱えて飛ぶしかなくなりますもん! そうすっと、どーでしょう! コメ欄は嫉妬の嵐! 愛しのお姉さまと何処の馬の骨とも分からない皇帝がくっついたことで感情が反転! 一気に低評価待ったなしっす!》」

「いや、皇帝は馬の骨じゃなくて『皇帝』だけど……、まあ僕も男を抱えたくはない……」


 別にファンの感情をおもんばかっての事ではない。ハルの中身は男なので、普通にそんな趣味がないだけである。

 抱きかかえるならば、女の子であるべきだ。

 ……そう断言するのも、それはそれで不味い気もするが。


「ところでエメ(イチゴ)。下らないこと言ってないで、マップは出来た?」

「《まだ不完全っすけど。でも確定しているトコは、既に反映しておいたっすよ。現在ここリコリスには、相当数のプレイヤーの皆様が集ってるっす。彼らの『目』をお借りして、モンスターが出たり急に騒ぎが起こった位置を登録しました!》」

「よろしい。その中で、その『目』がそのまま対処に走った位置は薄くしておいて」

「《らじゃっす!》」


 いかにハルが<召喚魔法>により視点を増やそうと、この広い国土を衛星視点のようにくまなく監視することは不可能だ。

 ならば、『既にある視点』を有効に活用するに越したことはない。


 各プレイヤーの見ている映像は、生放送にて全体に共有される。

 それをエメが“全て”同時並列に処理し、リアルタイムでフィールドマップに埋めていく。


 これにより、ハルがどの土地に使い魔を飛ばせば効率的に空白を埋められるか。

 ハルや飛空艇がどういった順路で飛べば効率的に敵を処理して行けるか、その計算が可能となっていく。


《すげええええええ!》

《流石イチゴちゃん!》

《天才すぎる!》

《出来る女》

《圧倒的後輩力》

《後輩力って?》

《……便利さと都合のよさ?》

《全国の後輩に謝れ》

《しかし、これでも空きが多い……》

《しょうがないよ。イベント無い土地にはいかないもん》

《そこを埋めるのがスパイ鳥よ》

《お姉さま。クライムギルドが乗じて計画起こすかもです》


「なるほど。エメ(イチゴ)

「《はいっす! 待機しときます!》」


 犯罪系クライムギルド、<盗賊>ギルドなど犯罪者の<役割>を担っているプレイヤーにとっては、この機は『敵』として活躍するチャンスである。

 ハルには今まで関わりがなかった彼らだが、この大舞台であれば当然出てくるだろう。


 普段は闇に潜んでいる彼らだが、『犯行声明』を出すときは必ず生放送を行っている。そうしないと、視聴者からのポイントが得られず強くなれないからだ。


 そんな彼らの視点も、また情報を埋める為の大切な要素。エメにはそちらの警戒も任せることにした。


「さて、僕はどちらに飛ぶか。とりあえず、このドーナツを食べつくすのがセオリーかな……?」


 第三試合の会場と、第四試合の会場の間のドーナツ状エリア。

 今のところ、最も騒ぎが起こっているのはそこである。しかし、今後はその内円と外円にも、イベントは波及していくはずだ。


 移動に時間が掛かる以上、ハルはここから既に戦略的に動くことを求められるのだった。





「……とりあえず、この瀕死の連中をどうにかするか。いや本当に、クライスが居ればな」


 あの<冒険者>ギルドから支給されていた、便利な捕縛アイテムが欲しい所だ。

 足元のNPC連中は今はハルの落とした光の柱にて瀕死ひんしになっているが、完全に無力化したとは言いがたい。


 時間経過やアイテムでHPが回復すれば、また元気に悪だくみをするに違いない。心が折れていなければだが。


「……眠り玉、にゃー」


 そんなNPC達が、眠り効果のある薬品にてバタバタと倒れていく。

 ハルがやったのではない。だが、この場に他のプレイヤーの姿は何処にも見えなかった。


 ならば、その正体はといえば。


「メタちゃん。ご苦労様。ここに居たんだ」

「……にゃっ!」


《出来る女二号だ!》

《自動的に四号まで増える》

《メタちゃんだけ?》

《他の幼女はどうしたんだろう》

《幼女って言うな》

《犯罪者の無力化は<隠密>にお任せ》

《本当なら暗殺してくるんだよなこれ……》

《恐ろしい……》

《ねこさんかわいい》

《ここで何してたんだろ?》


「……秘密、にゃー。し~~」

「そうだね。しー、だ。見つかりそう?」

「……ここ、違うにゃー」

「なるほど。じゃあ、別行動の二人に期待しようか。メタちゃんはこれから一緒に来るかい?」


 メタは女の子であるので、先ほどの理屈で言えば抱きかかえても良いことになる。

 更に言えば、その中身は性別なしの猫であるので、更に抱きかかえて良いことになる。なにせ猫だ。問題ないどころか推奨されているとすら言えよう。


 しかし、そんなハルの馬鹿げた内心には沿わず、メタはかわいく首を左右に振って同行を否定する。このまま別行動するようだ。


「……走る、にゃー」

「そっか。お仕事がんばってねメタちゃん」

「……にゃう!」


 元気に一声鳴くと、とてとてっ、と軽い足音を残してメタは背景へと溶けていった。

 ハルが頼んだ情報収集を完遂すべく、猫は走る。この混沌こんとんとしてきたリコリスの状況は、それを探るにも丁度いい。


 そうしてハルも、次なる戦場へと<飛行>する。のんびりしている暇はなかった。


 連鎖的に発生し続けるイベントは恐らく首都周辺にも広がるだろうことから、ハルもそちらへ向かうことを前提にすべきか?

 そして、飛空艇はその移動速度を活かして外円に向かう。


 そんな作戦を組み立てつつ、ひとまずはこの『ドーナツ』を左回りに食べ続ける。

 敵集団を空から発見すれば、魔法の雨を降らせてハルはこれを殲滅せんめつして行った。


 そんな中、ハルに再びエメから通信が入った。

 どうやら、視聴者からの情報の通り<盗賊>ギルドの一員が犯行声明を放送し始めたようだ。


 彼らの放送を確認してみると、どうやらその背景から、例の遺跡の一つに潜んでいることが分かる。


「《どうやらこの混乱に乗じて、街を襲うクエストを進行してるようっすね。とはいえ街はもう結構けっこー滅んでるっすから、必然的に首都か、まだ未開催の第四試合の会場に限られるっす。その他諸条件も加えて考えると、かなり位置が絞られたっすね》」

「なるほど。恐らくは、僕よりも飛空艇が近いかな?」


 ハルはエメの予測範囲ポイントをマップで確認すると、その周囲に使い魔の群れを集合させる。


 空からの監視網を構成した小鳥隊は、間もなくその<盗賊>ギルドのメンバーが遺跡の封印を開けてなだれ出て来るのを発見。

 その位置へと向けて、最大チャージされた飛空艇の主砲が容赦なく放たれるのだった。


 哀れな彼らがどうなったのか、詳しく語るまでもない。

 ……語るまでもないのだが。面白そうなので、少し詳しく確認してみることにしたハルであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2023/5/10)

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