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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
2部5章 リコリス編

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第837話 曲芸を披露されるお嬢様

「さて、出て来なよ。聞こえてるんだろ伯爵? 姿を消して待ってても、僕は遺跡には入らないよ?」


 ハルが飛空艇から飛び降りて来ても、面前の平野に動きはない。

 そこには一見なんの変哲もない荒野が広がるだけだが、そこには多数の機工兵が展開して待機しているはずだ。


 ハルの着地後も彼らはその姿を現すことなく、ハルの行動を待っている。

 先ほど同様に、扉の偽装を解除して遺跡の中へと入って行くのを待っているのだろうか。

 それとも、ハルを相手に直接戦闘をすることを躊躇ためらっているのだろうか。


「何にせよ、隠れていたところで解決しないよ。どれ、出てこないようなら、こちらから行こうか」


 そう宣言しおもむろに距離を詰めると、ハルはおもむろに姿の見えない機工兵に向けて手を伸ばす。

 まだまだ未熟ではあるが、そこに『居る』と分かっているならば、ハルのセンサーでもその位置と朧気おぼろげな姿は捉えられた。


「はい、捕まえた」


 人形の首根っこを鷲掴わしづみにして持ち上げると、発見されたことにより、ついに機工兵の姿が浮き彫りになる。

 ハルに捕らえられた人形は必死にもがき抜け出そうとするが、じきに動きを止め、だらりと手足を垂れ下げるのみとなった。


《し、死んだ……》

《ローズ様がまたくびり殺した!》

《なんて恐ろしいおてて……》

《理想の死に方ランキング1位》

《さ、さすがに嫌かも……》

《やさしくころしてー!》

《いや機工兵は窒息死しないでしょ》

《首を折られても死なない》

《そもそも生きてない》

《でも死んでるんだが!?》

《ロボット差別かー! ロボットだって生きてるんだ!》

《哲学のはなしは後にして》


「実際、まだ死んでないよコレは。操作信号を停止させただけだ。サスペンドだね」


 待機状態サスペンド、強引に人間で例えれば、『気絶』といったところか。


 ハルは先ほどの自爆阻止の時と同様に、<支配者>のスキルによってこの機工兵の動力となっている魔石を意のままに支配した。

 それにより、遠隔操作のコントロールは切れ、人形は命令待ちの停止状態となってハルの手で無防備にぶら下げられている。


「遠隔操作が仇となったね。魔法で操作する以上、それは僕とすこぶる相性が悪い。ほんのわずかな力を遮断しゃだんしてやるだけで、文字通りただの人形に戻る」


 現代で言えば、電波信号で動く機器を電波遮断により停止させるようなものだ。

 ちなみにこれがエーテルネットの信号となると、遮断は簡単なことではなくなっていくため少し話が変わって来る。完全機密のうえ距離も必要とされてくる。

 まあ、それはまた別の話。今は関係のないことなので割愛かつあいしよう。


「……っと。とはいえコントロールを切っただけでは僕の物にはならないのか。機工兵としての体裁ていさいを崩してやる必要があるのかな? それじゃあ、『この心臓も、貰い受ける』」


 適当な決めゼリフと共に、ハルは再び素手で機工兵の心臓部を抜き去った。

 中央演算回路、CPUを担うだろう装置をえぐり出された機工兵は、手足を力なくぶら下げた様子こそ同じなれど、完全にただのスクラップとなり下がった。


 壊れたことで、『伯爵の所有する人形』から、『ただのパーツの集まり』へと判定が変わる。

 こうすることで初めて、ハルは機工兵をアイテム欄へと回収出来るようだった。


《し、死んだ……》

《こんどこそしんだ》

《心臓を抜き取られたい女子第1位》

《よし、今度は優しいな》

《どう考えても苦しいですが……》

《お姉さまになら心臓を捧げます……》

《俺の心臓も使ってくれ!》

《いや要らんだろ。お前らの心臓とか》

《既に俺は心臓を奪われているぞ!》

《あなたのハートを鷲掴み》

《鷲掴み(物理)》

《お前らの心臓何に使うん?》

《謎の、儀式とか!》

《ローズ様なら触媒とか要らなそうだな》

《使って、使ってー》

《供物にしてー》


「……キモいよ君たち? ……この壊し方も、考えた方が良いんだろうか」


 とはいえ一撃で簡単に機工兵を物言わぬ廃材へと変換できる攻撃だ。多少、視聴者が気持ち悪くなることくらいは目をつむった方が良いかも知れない。


「さて、状況は伝わったかな伯爵? このまま息を潜めていても、一体ずつ僕に心臓を奪われる。出てきて抵抗した方が良いんじゃないかい?」


 ハルが次の機工兵へと正確無比に近づいて行こうとした所で、観念したかのように機工兵団は姿を現した。

 彼らは二本目の両手に搭載された銃を構え、戦闘態勢を取る。

 しかし、ここは先ほどの遺跡とは違って壁も柱も存在しない平地。壁を這い登る器用な手足も、活用することが適わないマップとなっている。


「優秀だ、同士討ちを避けるよう設計されてるね。ただ、平地ではそれがあだになるようだけど」


 散開しハルを包囲しようとするのは同じなれど、同一平面上で射線が交差するこの地形だと、どうしても前方の仲間の体に被る。

 仲間への誤射(フレンドリーファイア)を避けるようにきちんとプログラムされている彼らは、それが仇となって見た目の数ほどには攻撃に参加できないでいる。


 となれば、ここはもう完全にハルのフィールドであった。

 銃で撃つことも、銃で撃たれることも慣れ親しんだハルだ。その計算力をもってすれば、常に最大数のフレンドリーファイアに巻き込む位置取りを保って行動できよう。だが。


《あんまり高度な事をやり過ぎるのはオススメしませんよー。ばんばん撃ちあうゲームでのハルさんの凄さ、知ってる人もいくらか居ますー》

《そうだねカナリーちゃん。同じことやっちゃあ、さすがに怪しまれるか》

《ですよー? あんなこと出来るのはハルさんくらい。ハルさんが、ハルさんだとバレてしまいますー》

《そうだね。少し、雑に行こうか》


 偽装の為の仕込みはあれど、ハルは今、謎のお嬢様『ローズ』として実態を隠して参加している。

 そこでハル以外に再現出来なそうな動きを容易たやすくやってのければ、それを切っ掛けに正体が露見しないとも限らない。


 そこで、ハルは同士討ちを誘う精密な計算は止め、その圧倒的なステータスに任せて弾幕をゴリ押しで回避することにしたのだった。


「ハハハハハ! 遅い、ずいぶんと遅いんじゃないかいこの銃弾は! その気になれば、僕の足が追い抜いてしまいそうだ!」


《いやそうはならんでしょ……》

《いくらファンタジー銃とはいえ……》

《銃弾より速いってなんなの(笑)》

《見てから、避けてる!》

《当たらなければどうということはない》

《当たってもどうということはなくない?》

《ダメージ通らなそうだよね》

《そっちの方が心折れるんじゃ》

《避けられても心折れるわ!》

《ローズ様が楽しそうで何よりです》

《お姉さまは弾を避けるゲームを楽しんでるんだよ》


 まあ実際ハルは、ついでにアイリも、弾幕の雨をギリギリで避けるようなゲームが大好きだ。

 そうした精密さとは程遠い今だが、ステータスの暴力に任せて強引に銃弾の雨を避けて行くのもそれはそれで気分が良い。

 つい、戦闘時のテンションも上がるというもの。


「ひとつ。ふたーつ! ハハハハハ! 早く何かしらの手を考えないと、このまま人形が全て僕の物になっていくよ伯爵!」


《ハルさんが楽しそうで私も嬉しいですがー、高笑いも、『めっ』、ですよー? ハルさんっぽいですー》

《おっと。気を付けないとね。今回はそのあたり、ケイオスの奴に任せておこうか》

《まあー、ケイオスさんに影響を受けたって感じにすればー、そこは誤魔化せますかー》

《それは……、なんか僕自身が嫌だ……》


 ケイオスを強く印象付ける『魔王笑い』だが、あれは今のような高揚こうようした戦闘時のハルを真似たものである。

 それを真似たことにするのは、どうにも変な話だ。ハルを真似た魔王ケイオス、を真似たハル。

 遠回しな自画自賛じがじさんのようで、その言い訳はなんとも恥ずかしい。


 努めて落ち着きつつ、お嬢様らしくおしとやかに、ハルは機工兵の魔石を手刀にて抜き取っていった。


《ヒエッ……》

《心臓じゃなくて、魔石を抜き取ってる……》

《おなかに手を突っ込むのはその、なんというか》

《うん。ちょっとなにかクル感じ》

《心が汚れた奴らばっかりだ……》

《なんで抜き取り対象変えたんだろ》

《本体が心臓じゃなく魔石なんじゃない?》


 その通り。ただ心臓を抜き取っても、機工兵の判定はまだ伯爵の支配下にある。最初の一体は、先に操作信号を遮断していたから心臓で撃破判定が出たのである。

 まず<支配者>により操作を奪っておかないと、複雑な動きが出来ないだけでその身はまだ伯爵が動かしている状態なのだ。


 一方、抜き取るのを魔石の方にしてしまえば、そこで信号は物理的に途切れる。

 どうやら伯爵は、魔石に向けて電波のように魔力信号を飛ばすことで、機工兵に指示を与えているようだった。


《でも何で通常攻撃オンリーなの?》

《強者の余裕》

《心を折るんだ》

《まあ、そりゃぶっちゃけ恐いけど》

《全弾回避のうえ素手で全滅とか》

《画面の向こうで震えちまうよ……》

《いやそうじゃないでしょ》

《強い魔力をバラ撒かない為じゃない?》


「そうだね。これは、何処かで指揮してる伯爵へのメッセージだ。『君の目的は読んでいるよ』ってね」


 このままハルと戦っていても、魔力がこの地に放出されることはない。

 伯爵の目的の一つであろう、『遺跡に戦闘の魔力を食わせる』という目論見を完全に無にすることが出来るのだ。


 そのために、ハルは一切のスキルを使用せずに自らの生身のみで戦っている。

 決して舐めた手抜きプレイで敵を煽っている訳ではない。縛りプレイを楽しんでいる訳でもないのだ。本当だ。


「さあて、どうする伯爵? 僕は魔力を使わない。遺跡に入れる力が必要ならば、あとはまた自爆しかないんじゃあないか? まあ、せっかくのこの人形たち、自爆の為だけに使い潰すのもどうかと思うけどねえ?」


《や、やっぱり精神攻撃なんじゃ……》

《な、ナメプ……!》

《煽り散らかしておられる!》

《圧倒的強者にのみ許されたバッドマナー!》

《完封負けか自爆か》

《最悪の二択や!》


 合理的判断をするならば、自爆一択だろう。無駄すぎる結果に終わるとはいえ、遺跡に対する魔力供給量はゼロではない。

 それに、ハルに魔石を抜き取られると、機工兵はそのままハルの物となってしまう。ゼロどころか、マイナスだ。

 敵に塩を送ることを避ける意味でも、自爆により鹵獲ろかくを避ける判断を一秒でも早く行うべきだった。


 だが、その時間をハルは与えない。抜き取った魔石をお手玉のように空中に放りながら、その足で次の機工兵の元に肉薄する。

 人形の腰に手刀を突き込み、魔石を強引に抜き取ると、片手にそれを握ったままもう片方の手で次の機工兵の体に突き入れ、えぐり出す。


 その間にも片手の魔石は指で弾くようにお手玉し、一つ一つ<支配者>の『魔法支配』を掛けて制御を自分の物に変えて行くのであった。


「楽しくなってきた! おっと、抜け殻になった機工兵のボディもきちんと仕舞っておかないとね。なかなか忙しい」


 ハルは実に器用に、回避、攻撃、支配、収納、それらの行動タスクを並列処理していく。

 既に完品で回収した機工兵の数は二十を超えた。支配の追いつかない魔石は、<召喚魔法>で使い魔にキャッチさせるタスクも追加する。


 そんな、ハルの曲芸披露会と化した放送も急に終わりを迎えた。

 その終わり方は全滅でも自爆でもない。残る機工兵の全てが一斉停止するという、第三の選択肢なのだった。

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